第26話 決闘 前編
※※ WARNING ※※
《 BOSS APPEARS 》
個人的観念ではありますが、何かしらの戦闘曲を聞きながら読むと、良いかも……。
「試合時間は無制限、武器や魔法の使用は可能とし、どちらかのHPが残り1割を切った所で決着、試合終了とします」
HPが残り1割切った所でか……、恐らく俺の場合はHPが残り1だけになった所で、試合終了の合図が鳴り響くのだろう。
もしくは――HP1になっても、1割を切っていないなどの理由から、死ぬまで試合を続行させられるかもな。
審判係であろう受付嬢が高らかに決闘の説明をする中、バーゼルは舞台へと飛び乗った。
俺はこっそり、アリナから渡された白いカードを取り出すと、静かに目を通した。
職 業:山賊
レベル:87
H P:975
M P:260
攻撃力:352
防御力:301
魔 力:192
魔耐性:254
身体力:43
精神力:35
思っていた以上にステータスが高い……。銀級冒険者なだけはあるな。
因みにアリナ曰く、HPはスキルで強化されていて、かつ扱える剣術は火属性の物が殆どらしい。
しかし、魔力が低いにも関わらず、剣術によるダメージ量はスキルによって倍増させられており、一撃でもまともに食らってしまうと死亡は免れないという。
改めて自分がどんな状況に立っているのか把握した俺は、コートの内ポケットにカードを仕舞うと、気持ちを落ち着かせ、舞台へと登った。
観客席は驚いたことに全てが人で埋まっていて、辺りから歓声が聞こえてくる。
やはり今日が収穫祭である事と、スチュワート侯爵が直々に宣伝した事が大きな要因となっているのだろう。
「覚悟しろよ、異端者ノーム=アテナム。ここがお前の墓場だッ!」
誰がそんな挑発に乗ってやるか。
俺は鋭い呼気を吐き出すと、強者の余裕をかましているバーゼルと対峙し、敵の姿を見据えた。
頭の中に流れ込んでくる情報の数々、それを素早く整理していきつつ、俺は最大限まで集中力を高めた。
「ではこれより、ノーム=アテナム対バーゼル=ガロニクスの決闘を開始します。両者位置について――」
思い出せ、この一週間やって来た全てを。
今なら勝てるはずだ。そうだろ? 俺こと、ノーム=アテナム。
「――始めッ!!」
審判の声が舞台に鳴り響き、観客達の歓声が湧き始めた。
「へっ、先手は譲ってやる。異端者さんよぉ」
バーゼルは腰に携えていたサーベルを抜くと、悪人めいた笑いで俺に攻撃を促した。
どうやら完全に俺のことを舐めているみたいだけど――後で後悔することになるよ? アンタが俺に先行を譲ったという事を……。
「ポイズンスパイク」
そう言って、俺は一本の大きな毒の針をバーゼルの足元から出現させた。
ゆっくりと生えてきたその針に、バーゼルは若干の驚きを見せつつも、ゆるりと躱してみせた。
「クハハハハッ!! テメェの――」
……さて、始めるか。
刹那――集中力を超加速させた俺は、右腕を大きく振り上げ地面から5本もの毒の刃を出現させると、それを調子に乗っているバーゼルへと飛ばした。
そして、間髪入れずに虚空へと飛び上がり、空中に大量の毒針を出現させると、雨の如く奴の頭上に降り注がせた。
「――攻撃はそんな…………ッ!?」
薄気味悪い笑顔が、驚愕に切り替わった瞬間、バーゼルに凄まじい猛攻撃が襲いかかる。
だが腐っても、銀級冒険者だ。奴は血相を変えるやいなや、バックステップで針雨を躱しつつ、大きく後退し、体勢を整えようとする。
けれど、残念だったな。
アンタがそっちに動くことは、既にお見通しなんだ。
直後、始めの針を出現させると同時に、予め仕掛けておいた魔法が遅延発動し、酸毒の塊を数個出現させる。
空中をふわふわと浮かぶ紫の球体、それはバーゼルが着地する瞬間に、奴に水鉄砲ならぬ酸毒鉄砲を発射。
地面に足を付いていないバーゼルは勿論躱せるわけがなく、鎧と皮膚に大量に酸毒が付着し、早速【多段攻撃】の効力を発揮し始める。
「ヴ……ッ!!?」
想像するのも耐え難い痛みが走り抜けたのか、バーゼルは大きく顔を歪め、大きく身体を反らせてしまった。
それを追撃するかのように、地面を滑りゆく毒の刃の内、2本がバーゼルを斬り裂き、舞台上に鮮血が散った。
読み通りだったさ。初めからアンタが後退することも、酸毒の痛みで体勢を崩すことも。
全てを加味した上で、最初の毒の刃をアンタに放ったんだからな。
そう――今の俺には何もかもが見えている。
「ば……、馬鹿な……。グゥッ!?」
バーゼルは一瞬だけ苦痛で跪くが、直ぐ様立ち上がり、サーベルを構え直すと、俺を悍ましい形相で睨みつけた。
今のでHP200くらいは持っていかれたか? 何せ、鉄砲を1発と考えたら、デカい攻撃が合計3発も当たったんだからな。
「どうした? まさか、最初のあれだけが先手とか、思ったんじゃないだろうな?」
「はぁ……、はぁ……、ふざけんじゃねぇッ!!」
サーベルの刀身が赤黒い溶岩を纏い始めると、バーゼルは舞台を蹴って、俺との間合いを詰めてくる。
そして、目前まで駆け寄ってきた奴は、鋭い眼光で俺を捉え、渾身の薙ぎ払いを繰り出した。
しかし――呆気なく俺はそれを躱した。
直ちに奴の斜め背後へと回り込むと、超速でイザラギを抜刀し、袈裟斬りを繰り出した。
「――残像ッ!」
突如、バーゼルの叫び声とともに、奴の身体が影のごとく揺れ動いた。
気がつくと、荒い呼吸をしているバーゼルが俺の刀をサーベルで受け止め、不敵そうに笑っていた。
「はぁ……、ちっとは躱せるみたいだなぁ。だがこれなら……ッ!」
バーゼルは再び後ろへ大きく飛ぶと、俺の周囲に溶岩の弾を生み出した。
次いで、その赤黒く熱気を放つ岩は、幾多の群をなして、八方位全てをゆっくりと回転し始めたのだ。
「例え、お前の魔法がどれだけ凄かろうと、テメェのHPは5だ! 一発でも当てられりゃ、終了なんだよぉ!」
確かにそうだな。
俺はMP型異端者、恐らく永遠にHP5であろう存在だ。
そのデメリットは誰よりも過酷で、命に大きく関わる事態だろう。
「死ね、ノーム=アテナムッ!!」
刹那――溶岩の弾は、俺を目掛けて砲撃された。
赤熱の弾丸は密集したまま、一切の逃げ道も与えまいと俺に襲いかかってきたのだ。
この時、俺は静かに呟いた。
「……あほくさ」
何か凄いカッコいいこと言っていたみたいだけど、全くもって俺の心には響かなかった。
だって、溶岩が出現した時点で見えていたんだ。
発射された溶岩の軌道が、それを掻い潜る幾多もの脱出ルートが。
そんな中「一発でも当てられば終了だ」と得意げな顔で言われてみろ。
誰もがこう思うだろう”阿呆臭い”ってね。
だから、その勝ち誇った表情をぶち壊すために、俺は完全に躱しきってみせた。
縦横無尽に溶岩が飛び交う中、俺は無言でその弾幕を脱してみせると、虚空に巨大な毒の針を出現させ、バーゼルの足元を突き刺した。
驚いたバーゼルは反射的に後ろに飛ぶ。その僅かな瞬間を狙って、俺は魔法を構築した。
「クロス――ブレイド」
左右の地面から毒の刃が出現し、豪速で地面を滑り出し始める。
そしてバーゼルが着地するよりも速く、確実に奴を十字に斬り裂いたのだった。
「グアアァァァァァッ!!」
言うまでもなく、絶叫したバーゼルはサーベルを握りしめたまま、地面を転がり、惨めに苦しがり始める。
「最近、ハマってんだ――着地狩り。ほぼ確実にダメージ与えられるしな」
「き……、貴様ァア!!」
「……舐めてるからいけないんだよ。俺たちは、お前らの情けで与えられた一週間を命懸けで過ごしたんだよ! いつ死ぬかも分からない状況で、ずっと努力し続けてきたんだよ!」
俺は左腕を振り上げ、倒れているバーゼルの下から再び毒の針を出現させようとする。
しかし、流石にマズいと思ったのか、バーゼルは飛び起き、本能で俺の攻撃を見事に躱してみせたのだ。
「この決闘は命懸けなんだよ。だから……、お前も命を懸けろよ! 不平等じゃねぇかよ!」
「……へっ、度胸だけじゃなく、技術もあったってか? 調子に乗りやがって、異端者風情が……ッ!」
「異端者だから何だ! 異端者でも”成長できる”んだよ、強くなれるんだよ。異端者だからって、舐めてると、本気でぶっ潰すぞ!」
刹那――バーゼルは俺の怒号に慄いた。
不穏な空気に包まれた会場は、混乱している観客はざわざわと何かを言い合っていた。
「……テメェは、何を求めているんだ。どうして、そこまで――強い心を持てる?」
「俺は世界中の異端者を救い出す。それで、異端者は成長できない最弱職なんかじゃないと、証明するためにここにいる」
「そうか……、そりゃ面白え!」
バーゼルは何か納得したかのように、ニヤリと歯をちらつかせた。
その不気味な笑みは、今までと違って何故か、凶悪さ以外に別の何かが混じっている気がした。
サーベルを構えた奴は、再び狂気を顔に宿らせると、猛然と迫ってくる。
俺はその場に立ち尽くすと、集中力を高め、バーゼルの動向を分析する。
「なら……、これならどうだ。獣王赤熱連斬ッ!!」
マグマを纏わせた凶悪な二十連撃が強襲してくる。
だがそれでも尚、俺はその場からは動かず、ただ身体を動かすのみでその剣術を、全て躱しきって見せた。
そして、そのまま背後へと飛ぶと、地面から再び毒の刃を出現させ、発射させる。
「チッ……、またか!」
即刻バーゼルは刃の位置を読んで、回避体勢に入る。
しかし、その動きすらも見通していた俺は、予測通り刃の方向を、一弾指の間で急転換させ、バーゼルの足に赤い筋を入れた。
「ガ……ッ!? く、クソ! い……、幾ら避けても躱せねぇだと!?」
バーゼルは舞台上を転がって、受け身を取ると俺を恐る恐る見上げた。
そこで――初めて彼の表情に、恐怖が垣間見えた。
銀級冒険者ともなると気がつくみたいだな。この力の存在には……。
「ば……、馬鹿な……。そんな馬鹿な!? 何故、貴様が奥義を2つも持っていやがるんだよッ!!」
激しい動揺を見せるバーゼルに、俺は淡々と答えた。
「――別に何もおかしくないだろ? それだけ、俺は本気で特訓してきたんだ。奥義を2つも手に入れてしまうほどね」
――俺は何もかもが見通せる。
――俺は何もかもが躱せる。
それこそが、俺が手にした特訓の集大成の1つだ。
俺の奥義スキルは【予見・察知の極意】と【回避の極意】だ。
要するに今の俺は、数秒先の未来を見通す力と、瞬間的に身体力を大幅強化する力が備わっている。
つまり……、俺の身体力を上回った、もしくは八方を完全に塞がれた攻撃でない限り、俺はほぼ確実に避けることができる。
ゆっくりとイザラギをバーゼルの顔面に向け、俺は宣告した。
「……今のアンタでは俺の攻撃を躱せないし、俺に攻撃を当てられない。よってアンタに勝ち目はない」
今話は書いていて、勝手に一人で盛り上がってしまいました。
次回で決着――付けさせていただきます。




