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第23話 とある代償

 轟く低い咆哮。音は反響し、絶え間ない地響きが辺りを揺れ動かす。

 全身の肉が全て剥がれ落ち、骨だけとなった双頭の番犬――スカルハウンドは、瞳に青緑の霊魂を宿らせ、部屋の中央にジッと佇んでいた。


 歯に力を込めていることからも、相当威嚇している様だ。

 始めの内は勇猛な佇まいだった階層主だったが、いざ追い詰められると野性的な本性を現すんだな。


「次、全方向から鬼火よ!」


「相分かった!」


 フッと息を吐き出すと、俺は敵の動きを見るまでもなく駆け出し始めた。

 周囲から豪速の青白い火球が俺を追尾しながら、襲いかかってくるが、物ともせず全て完璧に躱し切る。


 身を敢えて地面に転がらせて、体勢を低く整えると、間髪入れずに俺はスカルハウンドとの間合いを、開けにかかる。


「切り裂き、(フレイム)付与(エンチャント)よ!」


 アリナの鑑定結果をしっかりと把握しつつ、俺は相手の行動の予測する。

 地面を駆ける動作からしても、スカルハウンドが右手前から利き手の左腕を振り下ろして来ることは、明らかだった。


 ――なら、左を突くか。



「ポイズンスパイク」



 バックステップで身体を空に浮かせつつ、俺は魔法で先手を仕掛けた。

 突如、虚空から出現した毒の塊は、形を変えて針と化すと、スカルハウンドの右腕を突かんとした。


 鋭い反射神経で、俺の攻撃を咄嗟に躱そうとする骨の番犬。

 しかし動体視力だけ(・・)で躱せるほど、回避というものは簡単じゃない。

 俺の作り出した毒の針は容赦なく、スカルハウンドの右腕の骨を貫き、大きなヒビを入れたのだった。


 奴は骨らしからぬ高音で絶叫した。

 しかし、流石は階層主と言ったところか、それでも諦めず、虚空を舞う俺をロックオンすると、渾身の蒼い豪火を吐き出したのだった。



 ――だけど、攻撃に甘さが垣間見えている。

 俺に攻撃を当てたいのなら、直接俺に豪火を吹きかけては駄目だ。俺がこれから移動するであろう場所に、吹きかけるのが適切である。


 まぁ、そうした所で、躱すんだけどね。

 こっちは、一つひとつの行動に命賭けてるんだからさ。


 全く関係のない場所に向かって、全力で毒の球体を投げつけ、その反作用で身体をねじらせる。

 ほんの僅かしか身体は動かない。けれど、それだけで回避できるか、できないかは大きく変わってくるんだ。


 現に吐き出された豪火は、部屋の気流で過ごし向きを変えると、俺の目前スレスレの位置を通過していった。

 あの程度じゃ、衝撃波は発生しないだろうし、これで充分だろう。



「さて……、動けなくなったのが、運の尽きだな」



 ――少しだけ、試してみたかった事があるんだが、これはチャンスかも知れない。



 俺はイザラギを瀕死状態のスカルハウンドに向けると、静かにほくそ笑んだ。



 刹那――紫に輝く眩い光の奔流が番犬の骨を打ち砕いた。

 スカルハウンドの最期の叫びが、大部屋にこだまし、奴の身体は蒼い粒子となって弾け飛んでいったのだった。

 青紫に輝いた拳大程の大きな魔石を残して……。


「……何、それ?」


「ちょっとした最終兵器さ。相手の意表を突くには、いいだろ?」


 唖然と俺の手元を見つめていたアリナだが、次の瞬間、目を細めてキッと俺に、鋭い視線を投げつけてきたのだった。


「そ、そんな事出来るんだったら、さっさと使いなさいよね! こんな死と隣り合わせの場所で、力の出し惜しみなんて、しちゃ駄目!」


「いや、元々は使えなかったんだよ。魔法詠唱がしっかりと出来るまではさ……。だから今のは試し打ち」


「へぇ……、詠唱必要なんだ」


 アリナは意外そうに獣耳をピクピク動かして、目を丸くした。

 前々から使えてたらとっくに使ってたって……、こんなにも悍ましい兵器を持っているのに使わないとか、宝の持ち腐れだよ。


「ともかくこれが本当の姿――と言った所だ。父さんが使う所を見ただけで、俺自身では生まれて初めて使ったけどな」


「なるほどね。確かに想像はつかないかも」


「だろ? 相手の隙を突くためだけに、生み出された物だからな」


 俺はイザラギを鞘に収めると、得意げにサムズアップしたのだった。



 《レベル条件を満たしました。SP200Ptを獲得しました》



 ――おっ、どうやら今のでレベル30も突破できたみたいだな。

 今日はまだそこまで戦っていないのだが、やはり階層主から得られる経験値量はずば抜けているのだろう。

 あっという間に今日の最終目標を達成してしまった。


「……今度は、HPも上げなさいよね」


「SPを手に入れたことまで鑑定すんなよ」


 鑑定すれば何もかも見抜けるのかコイツは……。何か、全部筒抜けだと思うと、怖くなってくる。

 そう考えると、やっぱり奥義スキルって、洒落にならないよな。


「わ、分かった。上げるから……、上げればいいんでしょ!」


 無言かつジト目で凝視してくるアリナに根負けし、俺は改めてHPにもポイントを振り分ける決心をしたのだった。

 どちらにせよ、いつかは上げなければならない時は来るんだ。下手してあっさり死ぬよりは、今の内から保険を掛けておくのも悪くはないか……。


 ――――1/2――――

 種 族:人間

 名 前:ノーム=アテナム

 職 業:異端者

 レベル:31

 H P:5/5

 M P:5000/5000

 攻撃力:7

 防御力:151(1)

 魔 力:55

 魔耐性:21

 身体力:171

 精神力:1


 《ステータスポイント》

 200Pt


 (以下省略)

 ―――――――――――


 今のステータスはこんな感じだが、少し吟味しようか……。


 まず確実に上げたいのは攻撃力と精神力だ。

 前回は魔法を使う練習も兼ねて、魔力上げを優先したが、全部何もかもを魔法攻撃に転換したわけではない。

 だから最低限でも攻撃力は50までは上げておきたい。折角200Ptもあるんだしな。


 そして、精神力――要は状態異常耐性値だ。

 そもそも状態異常の効果を持つ攻撃を躱してしまえば、問題はないのだが、余波などに当たって、万が一掛かってしまった時が怖い。


 毒ならまだしも、麻痺などだった場合、俺はその時点で即死だからな。

 よって、下位職業の平均値よりも倍以上多めである、40くらいは欲しい所だ。


 以上から82Ptの使い道は確定。振り分けておくことにする。


 次に上げておきたいのが、防御力と魔耐性だ。

 防御力は、現在【HP犠牲強化】という恐ろしいスキルの恩恵もあってか、150という仮の値を表示しているが実際は1だ。


 今後、このスキルの対象を即座に切り替えて戦う、というスタイルも試してみたいと思っている。

 だから防御力と魔耐性共に30くらいはあってもいいだろう。

 よし振り分けておくか……。



 それで……、残りポイントは80Ptとなる。



 今までの調子なら、即効全て身体力に振り分けている所だが……、今回は少し考えよう。

 回避技術も見違えるほど成長しているが、戦う敵も徐々に強くなっているのは確かだ。


 それに、今まさに隣で俺がステータスを振り分ける様子を観察している少女さん曰く、俺の戦闘は見ていて心臓に悪いらしい。

 そして、現在の回避技術と上手い平衡状態を作り上げるためにも、ある程度上げておくのがやはりベストなのだろう。


 現時点での俺の身体力は、最上位職業【勇者】レベル150の素の値と同等。

 更にはキエラ曰く、今の時点で身体力に関しては金級冒険者とすら、争えてしまうという。

 だから、そろそろ身体力に振り分ける量を少なくしても、悪くはないか。



 そう思って、俺はゆっくりとHPの文字に触れるのだった。






『ERROR:403 workcode:mp.hereticにはアクセス権がありません』





「……あれ?」


 突如、表示された訳の分からない文字に戸惑いつつも、俺はもう一度HPの文字をタップしてみる。


『ERROR:403 workcode:mp.hereticにはアクセス権がありません』


 エラーって、どういう事だ……?

 アクセス権がないってどういう事だよ……。


 試しに身体力をタップしてみるが、変な文字が表示されることはなく、普通にステータスの数は1上昇した。

 しかし、俺が幾らHPの文字をタップしてみても――HPの値は固定されたかのように変化することはなく、代わりにそのERRORという文字が、俺を嘲笑うかのように何度も表示されたのだった。



「……ちょっと待ってくれる?」



 隣で観察していたアリナが俺の右腕を掴んで制止すると、ジッとその文字列を眺めた。

 そしておもむろに、俺のステータスが表示されている青い画面に右手をかざし、奥義級まで辿り着いた鑑定魔法を起動させるのだった。

『余談』


本話の後半に出てきたERRORですが、恐らく察しの良い方はどうして駄目なのか、ある程度想像できてしまうのではないかと思われます。そして、その理由はちゃんとERRORの中に含まれています。

もし暇であれば、答えに言及する次話までに考えてみてください(*´ω`*)

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