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第11話 少女を救い出せ

 俺は名刀イザラギを抜くと、隠れていた草むらから飛び出し、全速力で洞窟の中へと駆けていく。

 ふわりと身体が浮き、辺りの大気が疾風の如く、纏わりついてくる。


「ヴヒ……?」


 1体のオークが頭を掻きつつ後ろを向いた。

 その瞬間――俺は刀を振り下ろし、星を描くように切り上げては、斜め下に薙ぎ払った。

 5回に渡る斬撃で、約3秒間に及ぶ持続ダメージを与えると、オークは白目を剥いてその場にパタリと倒れる。


「ヴヒヒィ!?」


「ヴンバ! ヴンババ、ヴンババァ!」


 皆で飲み交わしていた盃を置くと、オークたちは直ぐ様、隣においてあった武器を手にとって戦闘態勢に入る。

 縛り上げられていた獣人の少女は俺の姿を一目すると、驚いたのか目を見開いて凝視してきた。


「よぉよぉ、酒盛り中にすまないな。お前らの獲物を奪い返しに来たんだ」


 少女がいるのは、デッドオークの背後――要するに洞窟の最奥部だ。

 あそこに足を踏み入れた場合、デッドオークの妨害で退路はほぼ完全に絶たれると考えていいだろう。魔物と化した豚人とはいえ、頭は異常なまでに回るからな。


 だが可能性がないわけではない。

 普通のオークを全員倒せば、僅かながら彼女を抱えて外に出る隙間ができる。そこを突けば、デッドオークと戦わずして逃げ切ることもできるだろう。


「ゴメンな、俺らも生きるのに必死なんで……。倒させてもらうぜ」


「ヴバァアアア!!」


 一番近くにいたオークがフォーク槍を構えて前に飛び出してくると、鋭い突きを繰り出してきた。

 俺は軽いサイドステップでその槍を躱すと、その槍の前段を狙ってイザラギを振り上げた。


 刹那の切り上げ――太刀打ち部分が木製の槍は、綺麗に斬り裂かれるとフォーク型の穂が、乾いた音を立てて地面に落ちた。


「ヴ……、ヴヒィッ!!」


 そして、その音を合図に俺は更なる追撃をオークに当てた。

 腹に脂肪が集中しているせいか、思いの外切りづらい。しかしそれが逆にオークを2つの意味で苦しませることとなった。


 身体的負傷と生命力の激減――それに3秒間苦しませられたオークは、断末魔の叫びを上げると、槍を手放して無残に巨体を転がした。

 よし、これで2体目だ。後3体、取り巻きを倒せば、案外何とかなるかもしれない!



 しかし、テンポが良かったのもここまでだった。



 親方を守るかのようにデッドオークの前に立ちはだかったオーク3人組。

 ソイツらが手にしていたのは何と魔法杖、近接攻撃職だったのはどうやら2体だけだったようだ。


「ヴバンババッ!!」


「「「ヴヒィ!!」」」


 デッドオークの指示で、オーク3人組は同時に魔法を唱える。

 左から火魔法、水魔法、雷魔法、いずれも魔法を球体として、発射する弾丸系の単発魔法だ。


 範囲攻撃じゃない分まだマシか……。

 俺は目を閉じると、探査魔法にのみ感覚を絞り地を蹴って前に高く飛び上がる。



『極限の回避とは予見だ。先を予測して、見据えることさえできれば、どんな攻撃だって躱せる筈だ』



 確かに、父もそう言っていたよな……。

 視覚は全て遮っている――しかしそれでも手に取るように魔弾の位置は把握できる。

 それだけではない、どこにどの魔法の魔弾が来るか、全て把握できている気がした。


 目をつむったまま、本能と感覚のみで手足や腰を反らせて、何一つ魔弾に当たらず空中で舞い続けた。

 そして着地した直後も、地面を派手に転がったり、真正面から来る魔弾を飛び越えてみたりなど、とにかく躱すことだけに集中した。


「ヴヒャッ!?」


「至近距離まで近づかせちまったら、終わりだよ……ッ!」


 横に回り込んだ俺はほくそ笑むと、イザラギを横に薙ぎ払い、火魔法使いのオークを衝撃波魔斬(マジックスラッシュ)でふっ飛ばした。


 合計5発にも及ぶ衝撃波がオークを斬り裂き、凄まじい量のダメージを与える。

 遠隔攻撃の衝撃ですらも物理攻撃と同様、相手を斬り裂いている時間だけ、約5ダメージずつ与えていくわけだからな。



 《レベル条件を満たしました。成長傾向を確認しました》


 《スキル『HP犠牲強化』を取得しました》


 《スキル『魔法習得Ⅰ』を取得しました》



 ……あっ? 何だって?

 いや、そんなことは後回しだ。今はやるべき相手を全て倒すのが先決……!


 残った2体の魔術師もどきのオークが再び魔法詠唱をし、数十発にも及ぶ魔弾を縦横無尽に発射する。


 当たれば死亡も免れない。そんな過酷すぎる状況で俺は再び目を閉じて、全て回避してみせた。

 感覚としては玉避けゲーム(ドッジボール)の玉の量が数十倍に増えたのと同じ、1つひとつの軌道をしっかりと把握すれば避けることに何の支障もない。


 とある空想小説で、大量の魔法光線で張り巡らされた部屋を通ってお宝を盗む場面があったが、それと大差ないだろうな。


 実践したのは今日が初めてだけど……、集中すれば案外避けられるものだ。

 これも身体力が成せる技、と言ったところか。


 魔弾の嵐がやんだ隙に俺はオークとの間合いを一気に詰める。

 見事に意表を突かれて固まったオークを瞬く間に衝撃波魔斬(マジックスラッシュ)で切り裂き、生命力を完全に削りきった。


 糸の切れた操り人形の如く、倒れる2体のオーク。

 デッドオークは充血した目で、動かなくなったオークたちを見つめた。


「いまだ……!」


 デッドオークの足元をすり抜け、俺は少女の元へと辿り着く。

 すぐさまイザラギを振り下ろし、彼女の身動きを封じている荒縄を切り落とした。


「あっ、ありがとう……!」


「礼は後で、ともかく今はここから早く――」



 その瞬間だった。



 背後で凄まじい爆音が鳴り響いたのは。



「ヴババァ――――ッ!」



 悍ましい叫び声と共に、天井が破壊され、大量のクズ岩が崩れ落ちた。

 デッドオークが振り上げた湾曲刀により、洞窟の入り口は完全に塞がれてしまったのだ。



 密閉空間となった洞窟の中は、二人の人間とデッドオークのみ……。

 明かりは乱雑に壁に掛けられた松明と、辛うじて燃えている焚き火の炎だけだった。



「ゴメンな、どうやらやる以外の選択肢は、無くなってしまったみたいだ」


「ううん……、気にしないで。縄を解いてくれただけでも、十分よ」



 少女は懐から小さな白いカードを取り出すと、暗闇の中、高速で筆を走らせる。そして、それを俺に手渡したのだった。


 その白いカードには――



 種 族:デッドオーク

 名 前:なし

 H P:852

 M P:3

 攻撃力:241

 防御力:205

 魔 力:15

 魔耐性:10

 身体力:5

 精神力:15




「ステータス……」


「そうよ。貴方が闘っている間に、隅々まで鑑定しておいたわ。スキルは端折ったけど構わないわね?」


「あぁ、最低限HPさえ分かれば構わない」


 少女は頷くと辺りを見渡し、彼女の物と思われる袋から長剣とチャクラムを取り出した。

 気を引き締め、デッドオークを睨みつけると殺気を露わにする。


「奇襲では負けたかもしれないけど……、もうそうはいかない……!」


 デッドオークは彼女の言葉に呼応するかのように、咆哮を上げた。



「……貴方となら倒せるはず。期待してるわよ、不思議な【異端者】さん!」


「っ…………、ああ!」



 そして、後半戦が始まった。

今朝、ランキングを見てみたら何と、ジャンル別日刊ハイファンタジー1位、日刊2位に自分の作品が載っていました! 皆さん、こんな拙作を読んでくださり、ありがとうございますm(_ _)m

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