クリスマスイベント10!
「ルータス様……?」
そこには馬車から降りたマリーの姿があった。眼鏡の奥からいつもよりも動揺しているように瞳を震わせ私を見てくる。
「マ………」
「ルータス様……こんな所で何を……なんです?その隣の美少女……腕を組んで……まさか……!」
マリーと声をかけようとすると、ずいっと前に現れた人物によって視界を阻まれた。その人物はジロリと私を睨みつけながらマリーに私の姿を映らせまいと両手を広げる。その時、マリーに伸ばしかけた腕をアカネが力いっぱいに引っ張っていることに気がついた。これを見せないようにしているという事なのか。
「リ、リテーリア、違う」
「何が違うと言うのですか」
私は慌ててそのマリーの前に立ち塞がった人物、リテーリアに否定するも、この光景に言い訳は無理だろう。
噂で聞かれてしまうという懸念もあったが、それは全くと言っていいほど意味が無かった。しっかりと腕を組む場所まで見られてしまったからだ。
すっかり営業スマイルを剥がさないアカネに対し、そちらの意味での気を許してしまっていたのが原因だろう。まさか突然腕を組んでこようとするなんて思ってもみない。なんなら初めから組んでくれていた方が警戒を怠ることなどなかったのに。
そんな言い訳を頭の中では必死に考えた。
いや、事実な訳だが。
「ア、アカネ、否定を」
「……これは、おデートです」
まさか、この為にこの娘とデートをさせたとかであれば、本当に大成功だな。そんな事を考えるほど、心はヤケになってしまった。
マリーには近づけないようにリテーリアは動かないし、アカネも腕を離そうとはしないからだ。
そして、目の端には顔を俯けながら馬車に戻っていくマリーの姿があった。リテーリアも私をずっと睨みつけながら同じ馬車に戻っていく。
バタンと閉まる馬車の扉の音を遠くで聞きながら、私は知らないうちに家に戻り部屋で1人頭を抱えていた。
気がつくと2日経っていたようだ。
トーマス様に圧をかけられてようやく意識が戻ったらしい。それまで機械のように仕事をこなす私を、ルイとリューが心配していた。とトーマス様が言っていた。
『あまり、無理はするなよ。ルータスは重要なポジションにいるのだから、注意散漫にさせられたらたまったものではない』
『はっ、申し訳……』
『……たまったものではない、し、……友人が落ち込んでいるのはこちらも辛い』
ふわりと微笑んだトーマス様はそう言うと執務室を去っていった。おそらく事情は知っているはずだが、私の事を心配してくれるだけで素直に心がよろこんでいるのだから私も少し安いのかもしれない。
少しだけ復活した私は、やはりマリーに直接会いに行こうという結論に至り、その旨を伝える手紙を書いた。
そして、その手紙を渡すより早く、あちらからの手紙が届いたのだった。
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