クリスマスイベント9!
「これは?」
「花です」
「…………」
宝石屋で何やら指示をしていたアカネは、その店主に上乗せでお金を置いて店を出た。因みに何の指示を出したか聞くと、『え?何も話していませんよ?』という驚くべき切り替えをしてきたので諦めたのを思い出し、ため息をつく。
そしてその後、迷う事なくこの花屋を訪れると当たり前かのように好きな花を選んでくださいと言ってきた。
私は花の種類はよく分からない。どんな名前なのかをマリーがよく説明をしてくれるため、彼女の好きな花は知っているが、自分の好きな花となると選んだことすら無い。
だからこそアカネがいるのかと思い、聞いた答えがあれだ。
花屋に花が売ってない訳がない。
先ほどの饒舌な説明はどこへ消えた。
しかし、彼女が私にさせたい事は分かったので先ほどの宝石店よりもじっくりと一つ一つ見ていくことにした。
あまり、派手な花は好まない。
花を見ているとマリーの笑顔が浮かんでくるのは、彼女が花を好むからという理由だけでなく、恐らく雰囲気が柔らかい印象だからつい浮かぶのかもしれない。
「これにしよう」
私が選んだのは黄色いガーベラと呼ばれる花だった。
見た瞬間に、これはマリーに似合うと思ってつい選んでしまったのだ。
「お、いいですね、かわいいです」
アカネはガーベラを見ながらふんふんと頷いている。
そしてまた店主に耳打ちをし、今度は金も渡さず外に出ようとした。
「ちょっと待て」
「え?何ですか?」
呼び止めると、まるで私がおかしいかのような視線を向けてくるので不本意に思いながら金は良いのかと言う。
「ああ!お金ですよね!大丈夫です大丈夫です」
「………………」
これはいよいよ怪しいなと思いながらジロリと彼女を見つめると、いつもの営業スマイルという名の盾で弾かれた。
まぁ、彼女から私を貶めようなどという感情は読み取れないので諦めて一緒に外に出ることにする。
私は今何をさせられているのか。誰が彼女に指示を出しているのかが全く読み取れない。
誰か怪しい人物は居なかっただろうか。
頭で必死に考えてはみるが、怪しい人物は思いつかなかった。
それに私はそこまで頭が回る方ではないのだ。頭はもっぱらトーマス様とルイに任せている。
リューも頭は良いがどちらかというと研究向けだ。
頭脳は専門外なのだからここから予想できる事なんて少ないだろう。
悪意がある訳ではなさそうだが、一応警戒は怠らないで行動しなければ。
そんな事を考えていると目の前がざわざわとしていることに気がついた。同時に、アカネが『あっ』と、小声で呟いて、私の腕を掴んでくる。
「え?」
「…………や、やばーい!見つかっちゃうー」
「………………は」
彼女の突然の行動には先程から驚かされてばかりだが、今回の行動ばかりは予想外のより斜め上の場所から行われていたため咄嗟に体が対応できなかった。
少し動揺した私は、なぜ外がざわざわとしていたのかという疑問を少しの間だけ放置するというミスを犯してしまったのだ。
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