クリスマスイベント4!
ついに明日がルルボンの家の娘とデートをする日だ。
マリーに話しておくかをずっと悩んでいたが、結局話さないまま過ぎてしまった。
今日は彼女と会う約束はしていないからそのまま向かうことになるだろう。
「……はぁ」
「あら、どうされたのですか、ルータス様」
「アネモア様、いいえ、なんでも……」
今はトーマスと年末にある大きな会議の打ち合わせがあって普段彼が使っている部屋に訪れていた。この後アネモア様と食事に行くらしく、彼女が既にここを訪れて待っているらしい。
そして、ため息をついている場面を見られてしまったのだった。仕方ないね。
「そういえば……」
「はい?」
「ルルボンの家のケーキの新作が発売されましたの、今日は差し入れで持ってきてありますから、良かったらルータス様も召し上がってくださいね」
ルルボンという名前を聞いてギクリとした。
密かに流れる冷や汗をなんとか誤魔化しながらありがとうございますという言葉を伝える。
今ルルボンの話をするなんて絶対にボロが出そうだ、トーマスから書類を受け取らないとこの場を去ることが出来ないこの状況を死ぬほど呪いたい。
「ふふ、ここのケーキは本当にどれも美味しいの。きっと気に入っていただけると思いますよ」
「そう……ですか」
ニコニコと笑いながらケーキを取りに行く彼女の後ろ姿をみながら、デート前日にルルボンの家のケーキを貰うなんて何かの暗示なのではないかと思った。
暗示など普段は全く考えないが今回ばかりは神にデート自体をなくしてくれと祈ったほど、相当きている。
「ルータス様?」
「あ、ああ……ありがとうございます」
「いいえ、違います。やはり顔色が優れないわ。体調悪くありませんか?」
「いえ、体調は全く悪くありません」
いっそ高熱を出して休みたいものだが、そんな事はできないほど風邪は引いたことがない。さらに言えば小さい頃に寝込んでマリーにうつしてしまった時から、自分からは絶対にひかないように心がけている。
マリーの風邪をうつされるのは良いが、自分のせいでマリーが風邪を引くというのは自分を許せない。
「もしかして、マリーと最近会えていないからでしょうか?」
「…………は?」
唐突に出てきた『マリー』という単語に今自分が考えていた内容がフリーズした。
「マリーが言っていましたわ『最近お忙しいみたいでなかなか会えない』と」
「………………」
私の心は今、傷跡をえぐられ、塩を塗られているらしい。
感じたことのない胸の痛みがズキズキと痛んでいる。
そうとは知らず、アネモア様は心配そうにこちらを見つめていた。
できれば……今は見ないでほしい、心が透けて見えてしまいそうだ。
やはり、マリーには一言話してから明日を迎えよう。
そう思って立ち上がった時、書類を持ったトーマス様がこちらに向かってくるのが見えた。
「待たせた、ルータス……」
「トーマス様、ありがとうございます。では」
「待て……お前、顔色がおかしいぞ」
トーマス様から書類を受け取ると急いで足を走らせようとしたところ、トーマス様に引き止められた。
今は正直心配されるよりもマリーの元へと行きたいという気持ちが高い。仕方がない、ここは失礼に当たるだろが振り切ってしまうしかない!
「いいえ、トーマス様、では失礼致します」
「おい!」
いつもならあり得ない事だが今回は本当に急ぎなので後ほど謝ろう。今は夕方だ、本来は家に向かうには不適切な時間ではあるがもう今日しかない。
マリーの家に着いたのは夕食の時間を少し過ぎた頃だった。
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