「67!」
その草原の先は恐らく男子寮の裏口に繋がっていた。
そこの鍵をさっと開けてルイ・アントンは中に入る。
「…………え、これ鍵普通に開くものですか?」
「ん?開かないよ、特別特別」
中に入るとそこは物置部屋のようになっていた。
色々な家具や、掃除用具なども置いてある。
「それで、ここを……」
と言いながらルイ・アントンは、横の棚にある本をどかして何かを押した。
そうすると何かカタッと外れる音がする。
「…………?」
壁にかけてある絵を外すと、後ろに小さな扉が開いていた。その扉を開けると中に鍵しまい、何かを引っ張った。
そうすると上から階段が出てきた。
「えっ!」
「すごいでしょ?内緒ね」
内緒ねというか、どうやったし。これ。
「ここ登ると俺の部屋だから」
「これ、どうやったんですか?」
「ん?これは、この部屋に仕掛けがあるって知ってただけだよ」
「……へぇ」
色々聞きたい事はあったがとりあえず黙って階段を登った。
この部屋は普通の部屋よりも少し広いようだった。
ベッドがずらされており、そこの下にあの倉庫に続く階段が出るようになっているらしい。
初めから外に出る事前提の作りだ。
私が階段から上がって突っ立っていると、ルイ・アントンがお菓子と紅茶を用意し始めた。
「紅茶に砂糖いれないよね?」
「あ、はい、いれないです」
用意されたお菓子は初めて見る物だった。
丸い形状のものが円になっており、黄金色をしている。これは甘いのだろうか。
「これは、なんという食べ物なのですか?」
「ん?これ?モチモチのドーナツ」
「ドーナツ……丸い硬い物しか見たことがありません」
「ああ、うん、でもリテーリアちゃん好きだと思うよ」
目の前に紅茶を置きながら座るルイ・アントンは手に本を持っていた。
「はいこれ、リテーリアちゃん好きそうだと思ってさ」
「見せたいものってこれなのですか?」
「いや、それは渡したかった本」
本もとても気になっていたが、それよりもモチモチのドーナツが気になっていた私は、手を伸ばした。
ルイ・アントンがこちらをにやにやと見ているが気にしないで食べてみる。
「!」
美味しい。
弾力があるそのモチモチとした生地は、食感も楽しめるし、噛むたびにジュワッと甘さが口に広がって幸せな気持ちになる。
今まで食べた焼き菓子の中で1番好きかもしれない。
「気に入った?」
「…………はふ」
口にずっと入れておきたくて食べたまま返事をした。首を縦に振ったので分かっただろう。
「うん、いいね、その顔すごく可愛い」
「うぐ」
突然の褒め言葉に驚いて私は、危うくドーナツを喉に詰まらせかけてしまった。
しかしながら、そのまま彼は頬杖をつきながら楽しそうにしている。ひどいもんだ。
口の中のドーナツが無くなり、ゆっくり紅茶を飲んでいると、彼は立ち上がった。
「驚かないでね、一旦明かりを消すよ」
「え、」
流石に突然部屋に呼ばれて明かりを消すと言われると少しだけ怖いものだ。だからこそ何故消すのかを聞こうとした段階ですでに明かりは消えていた。
魔石でできているその明かりの仕組みはよく分からないが、引っ掛けを上に上げたり下ろしたりする事ですぐに部屋の明かりを付けたり消したり出来る。
それによって明かりがすぐに消えたのは明白だろうが。
何のために……。
そう思っていたら天井に数々の光が浮かび上がった。
「わ……すごい」
「どう?綺麗でしょ?」
「綺麗……ですが、これは一体?」
「んー、星の再現、みたいな?それを魔石で作れたから見せたくてさ」
「……そうですか」
「気に入ってくれたかな?」
「……驚きが先で、何といったらいいか」
「はは、そうか、まぁいいや」
いつのまにか机の上に小さな明かりが置かれていた。紅茶と、彼の顔の表情が僅かに見えるくらいの明るさ。
「……ルイ・アントン様、あの」
「なに?」
「一体どういう事ですか、これ、その。色々」
「え、んー……そうだなぁ。今はね、とりあえずリテーリアちゃんに好きになってもらおうとしている最中かな?」
「え、別に今嫌いじゃないですよ?」
彼の言葉に疑問に思った私は、思った事を口にした。
寧ろルイ・アントン自身には好意を持っているくらいだ。
「いやーそうじゃないんだなぁ……」
「そうなんですか?」
それよりこの焼き菓子の作り方を知りたい。
それとこの素敵な天井の仕組みも。
気がつくとソワソワしていた気持ちはどこかへ行っており、ルイ・アントンから得られる情報が私の心を癒したようだ。
部屋に戻った時には、頭の中で聞こえてきたそれらの事柄は忘れ、また落ち着いた日常へと戻って行ったのだった。
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