「66!」
女子寮を出ると校舎に入る扉が修理されている最中だった。事務のヨウおじさんが扉を固定して何やらネジをとめている。
「ヨウおじさん、ここ入れないの?」
「ん?ああ、リテーリアか。おじさんと付けるなと言っているだろう。おれはまだ32歳だ。ここは入れない」
「……ヨウお」
「なんだ、ここは通れないぞ」
「ここで何かあったの?」
「ああ、なんだかドアが壊れていたみたいでな。直してるんだ、直るまで固定しているから動かせないぞ」
「えーじゃあどうやってここを通るのー」
「あっち通れあっち」
ヨウおじさんが指を指した先にはいつも鍵がかかっている庭への扉が開いていた。
庭はまだしっかりと整備されていないのか背の高い雑草が凄い勢いで生えている。
そこに、少しだけ整備された道ができていた。
「うっわ、これヨウおじさんが?」
「そう、もう、すごく疲れたから誰が何かくれてもいいと思うわ」
「お疲れさまです……」
そう言って別れを告げるて草原の中に足を踏み入れる。
1人通れるくらいの幅が続いており、草の高さは自分よりも明らかに高い為、ちょっとした迷路のようだった。
少しだけ楽しくなってゆっくりと歩いてみる。
前から誰も来ない。
まるで、この空間に1人だけみたいだ。
「リテーリアちゃんだ」
突然聞こえた声に驚いて肩が上がった。
見えない姿に辺りをキョロキョロと見渡す。
「こっちこっち」
そんな声とともに草の中からルイ・アントンが出てきた。
体にはあちこちに草がつき、なんとも言えない姿をしている。
「ルイ・アントン様」
「やぁ、災難だね」
「……なぜ中に」
そう言うと笑いながら、面白そうで、と言う。
「面白そうって、ただの草むらでは?」
「そう見える?」
「……違うのですか?」
「ははは、違わないか、一緒に入る?」
「いえ、けっ……」
結構です。という言葉を言う前に手を引かれて草むらに突っ込んだ。
突っ込むと案外中は人が進めるほどの道が出来ている事がわかる。まぁ……貴族の子供達が来る場所ではないだろうが。
「どう?この草の道は」
「うーん、ちょっと歩きづらいです」
「そうだね、ごめんね」
どう?ってこの道はルイ・アントンが作ったかのように聞いてくるものだ。
もし本当にそうだとしても、こんなところで何をしていたんだろうか。
「あれ?リューと何か話しがあったのでは?」
「ああ、それはもう終わったよ」
繋いだままの手をそのまま引かれて無言で歩く。不意にルイ・アントンがこちらを向いた。
「ねぇ、いつもこんなに素直についてきちゃうの?」
「ん???」
「あれ、俺男だよね」
「それは認識してます」
そう言うと彼はうーんと唸り始めた。
どうしたのだろうか。
「ここはほぼ密室です」
「え?はい」
「……いつか襲われちゃうよ?」
「?ルイ・アントン様は私を襲うのですか?」
食べるとでも言うのだろうか。
おそらく私は全然美味しくないと思うのだけど。
あんまり、お肉ついてないし。
食べる部分少ないと思う。
そう思って顔を傾げた。
「はぁ…………、おかしいなぁ」
君は頭が良いはずなんだけどなと、呟きながらまた歩き始めた。
悪くない自覚はあるけれど、今はうまく頭が働いてない自信があるし、ルイ・アントンだし、まぁ、いいかと思ってしまっている。
それよりもこの庭はこんなに奥まで続いていたのかという方が心配になる。
この庭は何のためにこんな草を生やしたのだろうか。こんなに放置する?
「ねぇねぇ」
「はい」
「お姉さんと、話しできたの?」
「え?はい、できました、というか、姉さまのこと話しましたっけ?」
「あー……」
言葉を濁して少しだけ考えるそぶりを見せるルイ・アントンに、私はすでに疑いを持った。
「マリーから聞いたかな?」
「聞いたかな???」
「いや、ああ、だって、あの時すごく廊下に声が響いていたから、ごめんね、盗み聞くつもりはなかったんだけど」
「!!!」
私は顔を真っ赤にしてしゃがみこんだ。
なるほど、聞こえていただけなのか。
それはとても恥ずかしい。
いや、あの時はとっても辛くて悲しくて泣き叫んでしまったけど、でも、今考えるととても恥ずかしい。
「ほら、立って、あと少しだから」
「え、あと少し………?」
「そう、俺の部屋に通じてるんだ、これ」
「部屋!?」
私が大きな声を出すとルイ・アントンが私の口に手を当てて来た。もう片方の手で人差し指を口に当てている。
「だめだよ、あんまり大きな声を出すとバレてしまうからね」
「い、い、いえ、私は帰ります」
男子寮に行ったことがバレると退学させられてしまうと聞いたことがある。そして規則にもそう書いてあったはずだ。
「だーめ、ここまで来たんだから付いておいで」
「で、でも」
「君に見せないといけない事があるんだ」
「????」
見せないといけない事?
一体何を見せると言うのだろうか。
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