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「62!」

 出て行った殿下を見送ると、私はため息をついておでこをテーブルにつけた。


「良かったの?お姉様取られてしまうわよ」


「はい……譲って差し上げるのですよ」


 仕方ないのだ、姉さまの幸せのためなら、私はどんな我慢でもする。

 たとえ、ちょっと憎たらしい殿下にだって譲ってあげよう。だって婚約者になることは、前から決まっていたんだ。決意は出来ていた。はず……。


 ちょっとくらい……姉さまとの時間が減るのくらい……。


「うー…………姉さま……」


 前の彼女様を大切にしていたのだから、今回だってとても大切にしてくれるのは間違いない。悔しいが、辛いが……姉さまのためなんだ。



「みなさん、トーマス殿下との話し合いの間、黙っててくださってありがとうございました」


「あら、(わたくし)達が入り込める隙はあったかしら?」


 私が言うと、サラサ様は呆れながらそう言ってくる。

 マリーも、リューも頷いてくれた。



「それにしても、トーマスには意地悪な事考えていたわ。世界もかかっていたなんて知らなかった。悪いことしてたわね」


「確かにね、そりゃアネモア嬢の事もあっただろうけど、皆んなの命かかってたら仕方なかったかもしれないよね」


「…………私も、長年の想いが叶いましたし」


「……確かに」


 そうなのだ、彼は自分の為でもあり、この世界の為にも動いてくれていたようなものだ。


 殿下の力によって世界は保たれたようなものなのは確かで、それについては感謝はしなければいけないだろう。


 それにしても、世界が消滅してしまったらどうなっていたのだろう。

 本当にこのまま消えて無くなってしまったんだろうか。

 それならば殿下だけに任せるなんて無責任すぎやしないか。と思う。

 そんなに、消える事っていうのはまずい事柄じゃないんだろうか。




「というかさ、普通に考えて殿下すごくない?僕なら無理だと思うんだけど」


「私のためにそこまで動けないってこと?」


「違うよ、さくら。こんなに頭回らないってこと。順序立てて考えたって、こんなに上手く皆んなの好感度を上げるの難しいと思うよ」


「確かにそうよね」


「それに多分、皆んながそれぞれカップルにならなくても、ほかの場合でも好感度が上がるように動いてたみたいだしさ」


 そう、前の世界のマリーの婚約者の他にも、リューと相性が良さそうな令嬢などとも知り合いになっていたりしていたらしい。

 とても用意周到だ。

 何パターンか好感度の上げ方を考えながら生活日々を過ごしていたのだろう。


 多分、香織様の事にならなければ本当に頭の良い方なんだと思う。


 悔しいが、凄い人なのは認めよう。

 それに、美形だし、そこは、本当……良い。

 私の可愛くて美しい甥か姪が実現に近づいたわけだ。

 それはとても素晴らしき、事実。ありがたや。



「リテーリア、顔が険しいわ、どうしたの?」


「えっ、あ、いやいや、なんでも……」


 マリーがとても心配したような声で私に聞いてきたので慌てて紅茶を飲んでごまかした。


 心配かけてしまった。恥ずかしい。








 そのまま殿下について話していると、リューが頬杖をつきながらサラサ様に質問を始めた。


「前から思ってたんだけど、『ちゃん』て何に対して使うべきなの?」


「どういう事?」


「前から気になってたんだけど、さっきも殿下とかがさ、“あかり”に対して使ってたでしょ?あかりちゃんて」


「あれ?こちらの世界では普通使わないのかしら?」


「使わないよね、マリー」


「ええ……私もアネモア様がリテーリアに使っているのを初めて見ました」


「女の子に使うやつなのかなって思ってたけど、こないださくら、小さい子にも使ってたでしょ?」


「そうだったのね、普通につかってしまっていたわ」


 そう言いながらサラサ様が2人に説明をしている。


 あれ?

 私は、 別に違和感なかったな。

 姉さまが昔から私に言ってたからかな?


 なんでだろうな。





 リューの疑問を不思議に思っていると、廊下から誰かの走る音が聞こえてきた。

 誰かの叫ぶ声も聞こえてくる。


 ____バンッ!!!



 私たちは突然開いた扉を見ながら動きを止めた。






 そこには肩で息をする姉さまがすごい形相で立っていた。

 なぜここに姉さまが……。



「リティちゃん!!!」


「は、はい!」


 叫ぶように呼ばれた名前に反射的に椅子から立ち上がってしまう。


「はぁ、はぁ……リティ、ちゃ……」


「わ、ね、姉さま、いけません、座ってください!」


 だんだん顔色が悪くなる姉さまに慌てて駆け寄り、ソファに座らせようすると、ガシッと肩を掴まれて顔を近づけられた。真っ青な顔で必死な表情をして迫ってくる姉さまはとても迫力がある。


「お、ふ……」


「リティちゃんは、本当に、いいの!?」


「へ!?な、何がですか姉さま」


「トーマス様のこと、婚約者にならないの?」


「ん!?こ、婚約者……?…はっ!!いえっト、トーマス殿下とは、ぜ、絶対、結婚なんかしたくないの……ですが……」


 そこまで言うと姉さまが顔をしかめながら私により詰め寄ってくる。

 そんな、顔も凛々しくて素敵です姉さま……。と、ついそんな事を考えてしまう私とは裏腹に、姉様は殿下について語り始めていた。


「どうして!あんなに素敵な方は他にいらっしゃらないわ。とてもかっこいいし、お優しいし、気遣いもできるし、察する力もあるし、全部がスマートで本当に素晴らしい方よ!」


 姉様がトーマス殿下について力説していると、後ろからトーマス殿下も走って入ってきた。

 割と息を切らしている。


「……姉さま、後ろに、殿下、おりますから」


「アネモア……」


「トーマス様は黙ってらしてください!」


「はい」


 姉さまが後ろを振り返る事なくトーマス殿下を黙らせてしまった。殿下も何故か気をつけの姿勢で固まっている。

 姉さま……あんなにあからさまに落ち込んでいる人物の顔は初めて見るくらいに、殿下が落ち込んでいらっしゃいます……。

 というかなんでこんなに握力強いの!?こんな力あったっけ!?


「リティちゃん。聞いてるの!」


「あ、は、はい」


「本当に、大丈夫なの?」


「あ、や、本当!本当です!」


「本当に本当?」


「本当です、私は、絶対に!トーマス殿下とは結婚なんかしたくありません!」


「でも……」


「本当に無理ですもん!絶対にありえませんから!」


「…………そうなのね、良かった……」



 そこまで言うとやっと姉さまは納得してくれたのか、肩から手を離してくれた。私の肩を強く掴んでいたことに気がついて、ごめんねと言いながら頭を撫でて抱きしめてくれる。


 ふわっと、姉さまの良い香りがして安心感に包まれた。久々の姉さまのハグに私の気分がとても高まる。

 私の心配なんてしてくれなくて良かったのに、ばかな姉さま……。でも!そんな姉さまが、すきっ!


 そう思いつつ私も姉さまに抱きつき返した。






「割と悪口だったよね、今」


「ええ、さすがのトーマスも傷ついたと思うわ」


「いえ、かなり……可哀想です……」


「…………………………」


 なんだか悲しい顔をした殿下がこちらを見てくるけどなるべく視界に入らないように姉さまの肩に顔を埋める。


 本当に無理!とか言っちゃったな。いや、でも、いいの、姉さまのためなの。仕方なかった。うん。


 私は色々と無視をしながら姉さまの温もりに浸ったのだった。



お読みいただきありがとうございます!



そろそろ秋の季節ですね。

りんご、ぶどう、くり、かぼちゃ、さつまいも……。

食べ物が美味しくて、ついついたくさん食べてしまう私です。


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