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「60!」

 

 コンコンとノックをする音が聞こえた。


 私は扉に近づくとゆっくりとドアを開く。



「あれ、殿下ではありませんか」


「あれとはおかしいね、私は呼ばれてここに来たのだけど」


「ああ、トーマスは私が呼んだのよ、呼んでほしかったでしょうリテーリア」


 サラサ様はそう言うと、バチンとウインクをして来た。正直もう少し調べて見たいことがあったがまぁいいだろう。そう思っていたら


「それに、ルイからあなたとトーマスの言い争いは面白いと聞いて……あ。」


「へぇ……」


「ほぉ……」


「あら、ふふ、ルイったら大変ね……」


「明らかに失言……」


「しっリュー静かに」


 まぁ……サラサ様が言ったことに関しては後々裁判にかけるとして。


 私はトーマス殿下をソファ席に案内した。

 紅茶のカップにあるドライフルーツを入れて紅茶を提供する。


「………………」


 殿下はそれを少し見つめると、私に向き直って笑顔で《美味しそうな紅茶だね》と言った。


「知っておりますか殿下、そのフルーツ、よく姉様が食べている物なんです」


「そうなんだ、では今度送ってあげないとね」


「ありがとうございます。姉様も喜びます」


「……それで」


「聞かないのですか」


「ん?」


「そのフルーツ。ドライフルーツですから見た目では分かりませんよね」


「よく、私もこれを食べるから知っていたんだよ」


「へぇ、でもよく……姉様も同じものを食べていると思いましたね、何か、心当たりがあったのですか」


「…………」


 殿下が冷たい目で私を見ながら、その紅茶に初めて口をつけた。

 因みに姉様が良く食べるのはフレッシュの方だ。ドライフルーツではない。


 私がサラサ様達の方を向くと彼らは応援しているような動作を向けてきた。

 援助するつもりはないらしい。少しだけため息をつきながら仕方ないと諦める。



「そのフルーツはリンゴとマスカットです殿下。殿下が思い浮かべたフルーツは……ラフランスとマスカットではありませんか」


「……ああ、そうだね」


「では、殿下。ラフランスとマスカットをよく食べていた女性はどなたなのでしょう」


「…………」


 黙ってこちらを見る殿下は、静かに紅茶を飲んでいる。これくらいでは怯んだりしないのかもしれない。


「本題に入りましょう」


「……ああ」



「殿下は、繰り返す世界の事をご存知でしょうか」


「……いいや」


「そうなのですか、ご存知では無いのですね」


「………………」


「では転生については?」


「……知らないな」


「それでは、『あかり』という名の妹がいる女性については?」


「は…………」


 そう言うと殿下は僅かに目を開き言葉に詰まってしまったように見える。飲んでいた紅茶を少し乱暴において私を睨んできた。


「殿下、もう一度、お聞きしますが」


「……」


「繰り返す世界の事、転生のこと……ご存知ありませんか」


「…………」


「質問を変えましょう」


「なにかな」


「殿下はこの世界に何を求めています?」


「なにを、とは」


「姉様に婚約者にしたいと伝えない意図はなんです?それは、殿下の愛している女性と関係あるのではないですか」


「……何を言っている」


「殿下、貴方は重要な事を見落としているはずです」


「……見落とす?何を見落としていると言うの」


「 だってこの世界の目的は、多くのクリア者を出す事ですよ。その駒の1つというのは、殿下だって同じでしょう」


「…………駒」


「そして、私もこの世界の駒の1つに過ぎません」


「…………」


「ああ、そう言えば製作者からのボーナスという物を頂きましたよ。ありがとうございます。殿下は私がこの事に気がつかないという想定だったのでしょう。分かりますよ、まさか自分が作られたなんて思いませんものね!」


「リテーリア、いい加減に……」


「いいえ殿下、いい加減にするのは殿下の方です」


「は?」


「忘れてしまったのですか、この元になったゲームを作った目的を」


「…………?」


「ああもう、知りませんよ殿下。その目的はですね、貴方の婚約者をお姫様にすることですよ!」


「なっ……」


「えええー!!!」


 ここまで私と殿下のみが話している形だったはずだが、最後の私の言葉にこの場にいた残りの人たちが驚いたように叫んだ。


 殿下も顔を真っ赤にして立ち上がってしまっている。



 私は少しだけため息をついた後に冷めた紅茶で喉を潤した。


 まぁ、そうだよね、こんな事知ってるの自分だけだと思ったよね、殿下。ごめんね。でも管理人は知っていたみたい。

 あの製作者からのボーナスというのは、恐らく管理人からの私への報酬だったのだろう。

 ゲームについての制作秘話が載っていた。



「彼女がお姫様になれる世界を作ってあげようと思ったことが作り始めたきっかけだとなっておりました」


「…………まて」


「主人公にしようとしたけれど、他の男と付き合ったりする姿を見るのが嫌で主人公から外したのでしょう」


「ちょ、やめろ」


「だからこそ、アネモアの性格や趣味、イベントは自分たちの事を取り入れたと書いてありました」


「おい、」


「その相手となれるように自分の趣味などもトーマスに入れたそうじゃないですか」


「やめてくれ!リテーリア!」


「あれ?殿下。ゲームの事ご存知なのですか?」


「あー……!もう……分かった。認める、認めるから……」


「いいのですよ、認めなくても。私はこのゲームの作成秘話を話したいだけなのです」


「頼む……リテーリア、ちょっとだまれ」


 そこまで言われ、睨まれてやっと黙った私だが、ふと横を見るとサラサ様とリューとマリーがこそこそと話をしている。


「…………トーマスちょっと変態じゃない?」


「ずっと仕事中も彼女の事を考えたかったのでしょうか」


「仕事だからってデートとかしてたわよあれ。絶対そう」


「……君たち、聞こえているからね?」


 殿下がすごく暗い顔で3人を見つめている。そうすると3人は何も知らないかのように普通に紅茶を飲み始めた。

 サラサ様のカップにはすでに紅茶が入っていないように見えるが気のせいだろう。



「トーマス殿下が認めて下さらないから、ここまで話さなくてはいけなくなりました」


「ああ……」


「私のせいではありません」


「…………」


 恨めしい目を向けられるが知らない。あそこまで言ったのに認めなかったのがいけない。

 ちゃんと2回聞いたもん。

 でもうやむやにしようとしたんだもん。



「…………はぁ」


 急に脱力して椅子に座り込んだトーマス殿下が私に向かって紅茶カップを突き出してくる。

 私はすごく嫌そうな顔を隠さずに無言で紅茶を淹れ、皆んなに紅茶を配って座った。





お読みいただきありがとうございます。



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