「54!」
リテーリアは落ち込みにくい性格ですが、落ち込むとなかなか戻りません。姉様によって救助されます。
そしてごめんなさい、話し的にここで解説を入れた方が流れが良かったのでアネモア登場は……もうちょい先です。
サラサ様がトーマス殿下の秘密を暴こうと提案してくれた日から一週間が経過した。
あの日から授業に姉様の姿はない。
空席を見るたびに落ち込む気持ちを何とか持ちこたえて私は授業を受けていた。
毎回、来るかもしれないという期待を込めて来るだけに、とても辛い。悲しい。
このままこの状態を放置するなんて、絶対にしたくない。
「……………………」
ただ耳を通過する音を聞きながら、私は向き合わなければならない事実を前に、理解したくなかった事について整理を始めた。
今先生が流れるような口調で説明をしているのはこの国の歴史についてである。
前と変わらずに歴史の授業はつまらない、先生が板書する事柄も分かっているものばかりだ。
そして、この歴史の時間に新たに知ることが出来たのは1つだけ。
この歴史の教科書の筆者が「シュンヤ・タカバヤシ」という事。
カーン、カーン、カーン…………
終わりのチャイムを聞いた瞬間。私は、何も出ていない机の上に手をついて立ち上がると、足早に教室を後にした。
「失礼します、遅れてすみません」
「ああ、リテーリア待ってたわ!」
「私も今ついたところだよ、リテーリア」
「お疲れ様でございます、お嬢様」
会議室にはサラサ様とマリーが居た。
今日は特別にエリサもここに入っている。
トーマス殿下についての秘密について、お互いの意見を出し合おうというものだ。
「前回から私が疑問に思ってた事をまとめてみたのよ、まず、マリーには説明しないとね」
サラサ様が自分が転生者である事を話しながら、この世界の仕組みについて話し始めた。
そして……。
「だからね、あなたには、ずっと謝りたかったの。ごめんなさい。辛い思いをさせていたでしょう。謝りきれない事だわ」
「お、おやめください、サラサ様。私は今が幸せであればそれで良いのです!」
頭をさげて謝るサラサ様に、マリーが慌てている。
サラサ様は、「ルータス」のルートにしていた事を申し訳なく思っていたらしい。
記憶があった事を知ると、より頭を下げていた。
「サラサ様、あの世界があった事でより今が幸せに感じれるのです」
「マリー……」
そういえば、前にリューが、マリーとルータス様の様子を見ながら「良かったな」と言っていたのは、もしかしたら、さくらであるサラサ様がずっと悩んでいたからなのかもしれない。
だからこそ、上手く行って、さくらを思い出してあんな顔をしていたのか。
なるほど……説明がつく。
「リューもマリーとルータス様が上手く行って嬉しそうだったよ」
「へぇ!?な、な、なんでリュー様が……」
「んー…………なんでですかね、サラサ様」
「な、な、なんでかしらね……」
2人が顔を赤くしながら慌てている中、私はエリサにみんなの分のお代わりのお茶を頼んだ。
エリサは笑いながら淹れてくれる。
「もう、からかわないでちょうだい!話を進めるわよ」
「はぁい」
本題に入る前にサラサ様が用紙を取り出して配り始めた。
何やら冊子になっており、色々と書かれている。
「一応、トーマスの疑問に思った事柄をまとめてきたの。それを見ながら話をすすめるわよ」
準備がいい。
私とマリーはその冊子に目を通し始めた。
そこには、サラサ様がいつから疑問を抱いていたのか、が、事細かに書かれていた。
異様に病気について理解があったこと、隣国に自ら付いていくと言っていたこと、魔石について調べていたこと、それを自ら使えると知っていた事。
知っていると言っていた訳ではないらしい。
ただ、未知の存在である魔石を、自らが触りに行き、すぐに扱えるようになった。
その光景に、サラサ様は違和感を覚えた、と書かれていた。
サラサ様がやりたいと思う事を先回りするようなそれら動きに、ただの人間では無いだろうと思ったらしい。ただ、自分のやりたい事を優先させて進めたかった為そのままにしていたようだ。
しかし、今ではサラサ様の手によって動かされている魔石だが、トーマス殿下の動きがなければ、まず、未だに輸入の話しは進んでいなかった可能性が高いとまで書かれている。
「これは……ちょっとすごいですね」
「そうなのよ、全部、あまりにも上手く行き過ぎているのよ」
「あ……そういえば魔石によってルータス様もお城に呼ばれたと言っておりましたが……まさか」
「ええ、確かに最終的に呼んでほしいと言ったのは私よ。ただ……今思えば、トーマスの言葉があったからより急いで集めようとしたの」
「……トーマス殿下の」
「そう」
ただ一言だけ。
『扱える人物がもう少し居たら……』
と、辛そうに呟いた、その言葉で、サラサ様は他のメンバーを早急に集めようと思ったらしい。
「単純だとは思うわ、でも、トーマスが弱音を吐くなんて……今思えば珍しすぎたのよ」
「どいう事ですか」
「あの子は何でもできる子だった。わがままも言わないし、弱音なんて吐かない。今でこそ人を使うようになって来たけど、昔は……」
「昔は?」
「昔は誰かに何かを要求するような事、全く言わなかったのよ」
「ルータス様も言ってました。昔は無理にでも1人でやろうとする人で、辛くても黙ってやろうとして困ったって」
「そうなのよ、だからこそ、より早く人を集めようとしたの」
あまりわがままを言わない人物からの要求……。
それを叶えてあげたくなる気持ちは分かる。
もし万が一、トーマス殿下がそれをあえてやったとしたらどうだろう。
それならば皆んなを早急に集めたかった理由があるはずだ。それは一体何だと言うのか。
「ならば……」
「え、」
「ならば、トーマス殿下はなぜ、早くにルータス様などを呼びたかったのだと思いますか」
「ちょっと、リテーリア、……」
私の飛躍した話しにサラサ様が驚いている。
マリーも少しだけ驚いたような顔をして紅茶を持つ手を止めた。
しかしそんな中、立ったまま私たちの話を聞いていたエリサがポツリと呟く。
「殿下は恋の相談役を……していた……?」
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