「53!」
仲間が増えた!
私が姉様の部屋を訪ねると、姉様付きの侍女のマリサが出てきた。
「あ、姉様いるかな?ちょっとお話したい事があるの」
そういうと、彼女はとても悲しそうな顔をした後に私にこう言ってくる。
「申し訳ございません、リテーリア様、今アネモア様はリテーリア様とはお話し出来ないとおっしゃっております」
その瞬間、彼女の言葉に体に電撃が走ったかのような感覚が私を襲った。
「え」
「…………」
「わ、わたし、と?」
「…………はい」
「わ、わ、わた、わた、わたしと話せないって?」
「……………はい」
「あ、あ。わ、わた、わたし、と……」
「ああ、リテーリア様!」
崩れ落ちた私をマリサが支えてくれる。
「な、な、な、な……」
なぜ……。
なぜ姉様は私と会いたくないの……。
突然世界がガラガラと崩れていくさまに、私は混乱を余儀なくされる。
頭が真っ白で上手く考えることができない。
「リテーリア様、お気を確かに!」
マリサの心配する声が聞こえるが、気持ちが全く上がらなかった。整理できない感情に戸惑いを隠せない。
私はふらふらと立ち上がると何処へでもなく歩き始めた。
後ろから、「リテーリア様、その顔はいただけないです……」と聞こえて来た気がしたが、私はそんな事を気にする心は微塵も残っていなかった。
姉様に嫌われてしまった私なんて……その辺に固まってる埃と同じだ……。
何をしてしまったのかは分からないが、姉様にあんな対応されてしまうなんて絶望でしかない。
だめだ……。私なんか今すぐ箒で掃かれて焼却炉で焼かれて燃え尽きるべきなんだ。
「…………私の、ほこりやろう」
私はとぼとぼと、どこかを歩き回った。
「リ、リテーリア?だ、大丈夫?なんだかすごい顔よ」
歩き回っていると前から歩いて来たマリーが声をかけてきてくれた。
絶望の中にいた私は、マリーの優しそうな顔を見て声を聞き、少しだけ現実に戻される。
そして、我慢していた何かがプツンと切れる音がした気がした。
「マ…………マリィィィーー!うわあぁぁああん」
「わ、わ、リテーリア!」
突然泣き始めた私にマリーは慌てふためいてながらも、持っていたハンカチを私の目元に当てて頭を撫で、落ち着かせてくれた。
「う、うぐ、ひっ、う、う、」
「大丈夫?……」
泣き止まない私を待ってくれたマリーは、少し落ち着いた私をベンチまで案内する。
「どうしたのリテーリア。泣いているところなんて初めて見たわ」
「…………うん」
呼吸が整って姉様について説明すると、マリーがああ……と言葉を濁してこう言ってきた。
「多分……なのだけど……あのマフィンの時の……」
「………………?」
「ほら……アネモア様は、殿下が自分を婚約者に望んでると知らないから」
「………………はっ!!!!」
思い起こせばあの敵野郎に婚約者がどうのと言われた気がする。
まさか……あれを……姉様が……。
「あの後、アネモア様をお送りしたのだけど……その……実は、その時に、『トーマス様とリティちゃんは仲が良さそうだものね……』と、言っていたのよ」
「ぐっ…………」
「リ、リテーリア、それでね、私ちゃんと、『殿下はリテーリアの事を妹のように思ってますよ』と言ったのよ」
「…………うん」
「………………そしたら」
「………………」
「『そう、ね』と、儚く、笑われて……」
「………………」
「それで、何も、言えなくて……ごめんなさい…………」
「……うわあああー!ねえさまぁぁ!違うんだよー!!」
再度喚き始めた私を、絶望の眼差しで見つめるマリー。
そして……
「うぅわ…………」
それに遭遇してしまうサラサ様がいた。
「うわあぁぁぁー!!!ザラザざまぁー!!!」
「サラサ様!!!サラサ様!!!」
「…………え、何かしらこれ」
地獄なのここは、と言いながら私たちを見つめてきた。
なにかの用事があったようだったが私たちを優先してくれるようだ。
「周りに見られたら恥ずかしいわね、別の場所へ移るわよ。ああ、ほら鼻水拭いて、もう」
サラサ様はとても綺麗で高級そうな真っ白なハンカチで私の顔を拭いてくれたのだった。ごめんなさい。……ズビッ。
サラサ様の部屋に移動をし、なぜか2人いる侍女の方達にお茶を準備してもらった私達は、少しだけ気分を落ち着かせる事ができた。
「……それで?なんで2人してそんな辛気臭い顔してるのかしら?」
「……ええと」
マリーはそう言いながら私を見つめた。私も口を開く。
「……ねえさまに、多分、嫌われて、しまって」
「え、うそ」
「……私とは話したくないと…………」
「………………」
これ以上話さない私に慌てたマリーがマフィンの時の説明を始めた。
その話を聞いたサラサ様は頭を抱えていた。
「それはトーマスが悪いわね」
「そうなのです!トーマス殿下がアネモア様に早く仰るべきなのです」
サラサ様とマリーがトーマス殿下を責めていたが、私はどん底の気分で仲間に入ることはできなかった。
一度姉様に付けてしまった傷は、何もしてないけれど、私によって付いてしまった事に違いない。落ち込む心を修復できずにいじいじとうずくまる。
「…………でも、もう……姉様は私のこと薄情者だと思ってるもん……もう、だめだもん……むりだもん……」
「…………リテーリアが子供みたいなことを言ってるわ……」
「サラサ様、リテーリアは子供ですよ」
「あ、ああ、そうだったわ」
サラサ様は、どうも10歳って感覚が抜けるのよね、と言いながら頬杖をついた。
そのまま私をじっと見つめてくる。
「リテーリア」
「う……はい」
「悔しいわね」
「くや、しい?」
「トーマスよ!なんで貴方が嫌われるのよ!」
「そうだけど……」
「なら!全部トーマスのせいにしてぶっちゃけるべきよ!」
「でも内緒って……」
「ああ!!」
ばんっとテーブルを叩いて立ち上がったサラサ様は、私を見下してきた。
「あいつ絶対何か隠してるわ、そんな状態で大切なお姉様を渡していいの!」
「……いやです」
「一生真実を知らないまま、お姉様は結婚してしまっていいの!」
「……それはだめ!」
「それならリテーリア」
「…………」
「トーマスの秘密を暴くわよ。私も協力を惜しまないわ。いいわよね?」
「……は」
お読みいただきありがとうございます!
そういえば、姉様自身は出てこなかったですね……すみません……




