「6!」
ある日、母さまが夜会からとても早く帰ってきた時があったらしい。
「母さまのあの辛そうな顔を思い出してしまうと、あのヒールを履いて誰かの足を踏んでしまう事を想像して、足が上手く動かなくなってしまうの」
母さまはダンス中にヒールで踏まれた事によって足にヒビが入ってしまったそうだ。
相手の不注意で起きた事故であり、上手く踊れるようになれば踏む事はなくなると考えるものの、体がこわばってしまう。と、姉様は話してくれた。
踏まれる心配ではなく踏む心配なんて、やはり、姉様は天使かなにかなんだろうか。
「そこで、リティちゃんの楽しそうに踊る姿を見れば、私も踊れるようになるかなって思ったのよ」
「姉様……。」
大好きな天使な姉様から、お願いしてもいい?と、上目遣いで頼まれて断れる者がいるだろうか。
「姉様!私に任せて!」
もちろん何時間でも楽しく踊ってみせましょう!
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姉様がお茶会に行く日がやってきた。
因みに私の刺繍は「ローズ」で完成になった。しかし、最後の辺りには針をゆびに刺すことはなくなり、割と出来の良い刺繍が刺さるようになったと自負している。
あの日、姉様とダンスの話しをした後にダンスの先生に相談し、私の今のダンスを披露する場を設けたのは昨日の事。
姉様は楽しそうに踊る私を見て、何故か涙を流していた。
『ね、姉様?!』
『リ、リティちゃんが、こんなに踊れるように、なっているなんて、私、感動してっ』
『う、うん……ありがとう、姉様』
褒めて欲しかったとか、喜んで欲しかったとか。そう言う気持ちは確かにあったし、私が楽しく踊る事で姉様が踊るきっかけになるのであればと思いながら真剣に踊った。恐らくここ最近の中で一番上手く踊れていたとも思う。
『あの、リテーリア様、その、アネモア様はどうされたのですか……?』
『う、うんー……?』
いつもとても厳しく指導してくれるマリン先生がとても動揺しながら私に聞いて来たけど、やっぱり泣くほど感動するダンスは踊れてない。
『そういえば、ダンスとてもお上手でした。ごめんなさいませ、その、少し動揺して、』
『いいえ、マリン、ありがとう、大丈夫です』
予定していたよりも早く切り上げて姉様とずっとお話しをした。
姉様は、私が成長する姿を見逃していた事をとても悔やんでおり、自分もこれからはダンスの練習をして私と成長したい、と涙ながらに話していた。
今考えても、泣くほど、じゃないよなぁ。と思う。
それでも、目的としていたダンスをちゃんと習うと言ってもらえた事は達成したため、とりあえず良しとしよう。
手元の新しい布には、水色の糸を使った刺繍を始めていた。白い生地に水色の糸だけを使った刺繍は、なにやら繊細に見えてお姉様みたいだなと思って真似している。
母さま用とは別で、こちらは長い時間をかけて完成させるつもりだ。
「喜んでくれたら嬉しいな」
夕方、姉様が戻ってきたという報告を受けて会いに行こうとすると侍女に止められてしまった。
「アネモア様はお疲れのようで、今寝ておられます。お急ぎの予定なのであればお伝えいたしますが」
「それなら後で大丈夫、ありがとう」
お茶会というのはとても美味しいお菓子がたくさん食べられるとのことだったので、どんなお菓子を食べたのかを聞きたかったのだけれど、疲れているというなら無理に話す内容でもないとも伝えてその場を離れた。
ふと考えて足を止めた。寝ている時に見ることが出来たら、じっくり見れるのではないか。あの数字を。
すぐに行動に起こすのが私だ。くるっと向きを変えて姉の侍女の元へ向かう。
「朝、姉様の顔色が悪かった気がしたから、顔だけみてもいい?」
静かに入るわ!と言いながらお願いしてみる。
「リテーリアお嬢様であれば、お顔を見るだけなら大丈夫かとは思いますが……」
そんな言葉を頂いたのでありがたく入ることにする。
全体的に水色基調の部屋は今は薄暗く、静かで、姉様が寝ている寝息だけが聞こえてくる。
寝台を覗き込むと姉様が寝ているのが見えた。そして……
(ものすごい点滅してる)
そして、見つめていると、唐突に浮かび上がる文字
《トラウマ克服ボーナスが追加されました!》
明日は本編と、あの人の話を2話投稿します。
なので短いです。