「46!」
キリト様が学園の見学に訪れるというのが後1週間後に決定した。
その時に手作りのマフィンを持ってきてもらえるという話になっているので、キリト様の優しさに感動している。
やはり、元気なユリエスタ様を支えていける殿方というのは優しい方なのだろう。
ユリエスタ様の話によると、背も既に高く、顔もとてもハンサムとのことなので、私はとても楽しみにしている。
今日はサラサ様と魔石についての話があると呼び出されているので、例の転生者の本を持って研究室に向かっていた。
この筆者の名前を読めるのであれば、同じ所の人であるし、違えば、違う場所だというのが分かる。
もし同じ所だった時、知っている名であればなお良いとは思うが……。
と思っていたら前からトーマス殿下が歩いてきた。
「おや、アネモアの妹君」
「あ、ごきげんよう殿下」
ニコッと笑った殿下は突然私の持っていた本を私の腕からスッと引き抜いた。驚いた私はその本を取られまいと端っこをつかむ。
本で綱引きをするような形になってしまったが、なぜ本を引き抜かれたのか分からない私は手を離すことができない。
「…………」
「…………妹君、この本見せてくれないかな」
「なぜですか、殿下」
「面白そうな本だと思ってね」
「…………わかりました」
殿下に渡ったその本を客観的に見た。
その本の内容は、普通の人が見たら夢のような内容が詰まっている。
鉄の塊が走っていたり、魔法も使わないで手紙を一瞬で相手に届けられるらしい。
そんな内容が書かれた本を殿下が興味を引かれて見ている。
「へぇ、面白い内容だな。これは誰が買ったの?」
「私の侍女のエリサですが」
「エリサね、ふぅん。いい侍女を持ったね」
「……はい」
「大変興味深い本をありがとう」
本を手渡されながら殿下を盗み見ると、やはりあの貼り付けたような笑顔をしていた。
無言で頭を下げると、殿下が去っていく。
掴み所のない人だ。弱みを握るなんてストーカーにならないと難しいかもしれない。
殿下の過ぎ去った方角を見ながらため息をつくと、またサラサ様がいる研究室に向けて歩き出した。
研究室に入ると、サラサ様が魔石の鑑定を行っていたので、ソファに座って待つことにした。
サラサ様は鑑定中に話しかけられるのを嫌うので、待つに限る。
「リテーリア。お待たせ、呼び出したのに待たせて悪かったわ」
「いいえ、待つのは嫌いではないので」
「そう?」
新しい種類の魔石について説明がされ、できれば能力向上系の石をたくさん輸入したいが、なかなか難しいと話をされる。その中で、リューの魔石から粉を作成する話になった。
「サラサ様もリューが作る粉を飲んだりするのですか?」
「飲むわよ。効能は分かってるもの。伸ばしたい能力が出来た時は積極的に飲むわね」
「飲むとやはり違いますか?」
「ええ、あの酸っぱいやつは特に効くわね」
「あの、輝いてるやつでしょうか……」
「そうよ、あれは私の指示で作らせたのよ、ゲームの時にとっても重宝したの」
「ゲーム……」
そういえばここに、この世界のことを違う方面から詳しい人がいるではないか。
他のアイテムについても聞いてみたい。
とくに好感度に対して効くものが好ましい!
例えばマフィンにそれを混ぜて焼けば殿下がメロメロになってしまうであるとか。そんな感じのアイテム。
「サラサ様、そのゲームという物はどんなものだったのでしょうか」
「え?ゲーム?乙女ゲームについてかしら」
「はい、題名などありましたか?」
「題名は、『愛と奇跡の結晶をあなたと』だったはずよ」
「……なるほど、では、アイテムというのは」
「アイテムというのは、必要な能力が伸びやすくなったり、相手の好感度を上げたり」
「相手の、好感度を、上げたり……」
「ええ、乙女ゲームなどにはね、恋をする相手の好感度ステータスという気持ちを表したグラフなどがあってね」
「はい」
「そのステータスを上げる事で、相手がどれくらい自分を想っているのか分かるというのがあったの」
「それはすごいですね」
「そうね、でも今はそのアイテムの作成が難航しているのよ」
「なぜですか」
「そのゲームの時もそうだったのだけど」
「はい……」
「好感度が上がる人がランダム……そうね、適当に抜粋されてしまうの」
「…………」
「問題よね?」
「ええ…………とても」
「だから、今は商品化出来ていないのよ」
なるほど……適当に上がってしまうのは問題だ。
姉様のステータスにはトーマス殿下のみが表示されているが、絶対にトーマス殿下に効果があるという保証はない。
ここは使わない方が無難なのだろう。
なんだ、せっかく良いアイテムが知れると思ったのに残念。
「そういえばサラサ様、聞きたいことがあります」
「あら、なに?」
「この本です」
そう言って転生者の本を見せる。中身を少しだけ読んでもらったのち、筆者を名前を開いた。
「これは……」
「サラサ様読めますか?」
「……ええ【高林俊哉】と読むはずよ」
「見覚えが?」
「うーん……見たことあるような……でも、この文字は私の住んでいた所の文字ね。この本すごいわ、前の世界のことが詳しく載ってる」
「そうなのですか?」
「ええ、なんだか思い出しちゃうわね、ちょっとこの本借りても良いかしら?」
「どうぞ」
サラサ様はその本を丁寧に紙に包んで包装し、自身のカバンの中に入れた。
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