「42!」
解説①
サラサ様に質問を終えた夜。
なかなか寝付けない私は、エリサが買ってきた厚めの本を読んでいた。
題名は、
「愛と奇跡の結晶をあなたと」
とある男爵家の養女になった少女が、王子様達に見初められて結婚するというシンデレラストーリーが書かれている本だ。
内容は恋愛小説で、作者が例の【高林俊哉】
普通の小説と違う点は、分岐点があること。
好きな人物を選んで主人公がその人物と恋愛をする。
失敗と成功があり、成功には2種類、普通の幸せな終わり、最上級の幸せな終わりがあった。
これは、サラサ様が『転生』前にやっていた乙女ゲームという物に類似している。
あのお茶会の時、私は、「サラサ様はどんな存在だったのか」という事を1番始めに聞いた。
サラサ様は、真剣な顔でこう答えた。
「私はね、乙女ゲームが大好きでこの世界に生まれてこれた人物なのよ」
サラサ様の語った乙女ゲームの内容は
主人公の『ユリエスタ』が、『ステータス』を上げながら『スチル』などを『ゲット』して『ルート』を決め
最終的にその人物との『クリア』を目指すというストーリーだった。
その中で重要になる物体が魔石によって作成するアイテムという商品。
だからこそ早く魔石を輸入したかったそうだ。
自分の病気が魔法でしか治らない事を知っていたサラサ様は、早くに体調が悪い事を訴えて様々な医者を呼び、治らないことを証明してみせた。
そして隣国まで行って魔法で治してきたそうだ。
その時に魔石についても、トーマス殿下が使えるという証明をしてみせたとか。
「それは一石二鳥でしたね」と言うと。
真顔で「石だけにね」と言われたので、暖かい飲み物が欲しくなって紅茶のおかわりをお願いした。
ルイ・アントンが紅茶を入れながら、リューについて聞いた。
「どこで知り合ったのか」
2人は、会ったことは無かった。と言っていた。
サラサ様は、自分が『そうぞう』する中で初めて声が聞こえた相手がリューであり、親しみから親愛になり、恋も芽生えたらしい。
リューは、さくらが繰り返す世界を作っているだろうと思いながらも、つまらない日常から解き放たれるそのさくらの声に惹かれていったらしい。
サラサ様は、リュー外見を知っていたが、リューは声しか聞こえなかったのでさくらを探し回ってしまったと言っていた。
なるほど。だから“さくら”かどうか聞かれたのか。
サラサ様は、リューの声が聞こえた世界をまた『そうぞう』しないと、リューが消えてしまうかもしれないと思っていた。
そのため、ストーリーは変える事なく『ユリエスタ』を主観にした『ルータス』のルートを繰り返していた、とのこと。
つまり、ずっとユリエスタ様とルータス様が結婚する流れができていたということだ。
マリーが繰り返す世界の中で意識があって、永遠にその姿を見ていたのであれば。
自分の事をルータス様が好きになる可能性がないと思ってしまうのも無理はないだろう。
サラサ様に他に意識があった人は居なかったかを尋ねると、分からないと言っていた。
声が聞こえたのはリューのみだったことと、リューも始めは体を自分で動かすことができなかったと言っていたので、意識だけ存在していた人は居たかもしれないみたいだ。
また、自分が『ユリエスタ』を動かしていた世界の、知らないところまでが一緒に動いていたという意識は無かった為、世界全体を見渡せていた訳ではなかったらしい。
サラサ様に何故、リューから逃げていたのか。聞いてみると
サラサ様は顔を真っ赤にして「さっきので分かったでしょう。私、リューを直視したら倒れてしまうと思ったの、だって、大好きなんですもの」と言った。
その言葉にリューも顔を赤くしている。
これ、また好感度のステータス見た瞬間、火花飛び出すやつだろう。と思った。
今思えば、その時に乙女ゲームとやらの名前を書いておくべきだったのだが、聞き忘れてしまったことは仕方ない。
サラサ様のステータス画面を開くと出てくる
※これを開くためにはこの世界の元となった名前を入力すること。
きっと、この世界の元は乙女ゲームだ。
ふと、今読んでいた本の題名を見る。
これを、入れてみたらどうだろう?
もしかしてこれを伝えるためにこの本は作成されたのだとしたら。
そう思って日記帳を取り出しサラサ様のステータスを出した。
入力画面に向かう。
『愛と奇跡の結晶をあなたと』
ビーっと音がして“違います”の文字。
どうやら違うらしい。
期待してしまっただけに少し気落ちした。考えすぎなのだろうか。この本の作者は何を訴えたいのだろう。
『愛と奇跡の魔石をあなたと』
ビー。
だめだ。開かない。
諦めてベットに倒れこんだ。
ベットの上には、初めて転生者が書いたとされる本が置かれている。
前ベットで読んだ時に置いたままにした物だ。
手にとってパラパラとめくる。
サラサ様は転生についても話してくれた。
「前住んでいた世界からここに転生してこれたのは乙女ゲームのお陰なのよ」と言っていたので、転生ってなんですかと聞いたからだ。
やはり、この転生者が書いたとされる本の作者と同じ場所から来たように思う。
今度を本を持って行ってこの作者の文字を読んでもらおうと考えながらベット脇に本を置いた。
眠れない体を無理やり寝かそうと目をつぶる。
そうすると頭に浮かぶのはお茶会の最後の場面。
サラサ様に言われた言葉がずっと頭で反芻している。
「私はあなたの存在を『そうぞう』していないの。私が見ている範囲、そうねぇ……固定の登場人物とその家族の構成は決まっていたはずなの」
「私居なかったということですか?」
「ええ。まぁ、私も例外に長生きはしてるけど、でも存在はしてた。だから、あなたの存在を聞いた時とても驚いたのよ」
「そうなのですか……」
最近の若者は例年に比べて格段に頭が良いという調査が出ている。
サラサ様の予想では、それは繰り返しの世界によって無意識下で知識を貯めた者が多かったからではないかと言う。
では、例外の私は?
私も、頭の中に初めから存在していたかのように知識が蘇る時がある。当たり前だったから疑問に思ったことはなかったけれど、
じゃあこれは、どこで得た知識だったんだろう。
私はその夜見た夢は、皆んなが楽しそうに話している、当たり前の日常。
でもそこに、私の存在はなかった。
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