「41!」
しばらく固まっているとカーテンの向こう側から少しだけカチャカチャという音が聞こえてきた。
2人を見ると、サラサ様がひどく泣いているため、リューは慰めるように頭を撫でている。
泣き止むまで待っているようだ。
リューの年齢は聞いたことがないが、同じ年齢のクラスのはず。
でも今の光景を見ているとリューがそんな若い歳には見えない……。
そんな事を考えていると、勢いよくカーテンが開いた。
3人とも驚いてそちらを振り向いた。ルイ・アントンがニコニコとした表情をしながらこちらを見ている。
「さぁ、2人だけの状況はこの後いくらでも作ってあげますから、今は状況と、事情説明をお願いしたいですね」
「ルイ、空気読めよ」
「いや、流石にリテーリアちゃんがかわいそうでしょ」
「なんだ、妹いたの」
「なんだではありませんね」
リューがいつもの調子に戻り、そして、いつものように同情の目を向けていている。
でも、今この状況を作っているのはあなたですよ、リュー。そんな思いを込めて少しだけ睨んだ。
リューは苦笑いをした後にサラサ様の手を取って出ようと声をかけている。
「髪とかなおしてあげるね、姉が2人いて鍛えられてるから」
「だ、大丈夫よ。自分で出来るわ」
「僕がやりたいんだけど、だめ?」
「わ、わ……では、お願いします……」
サラサ様がそう言った後、小さく“推しに髪をなおされるなんて、私きっと萌え死ぬ”という言葉を発していたがどういう意味なのかは後で聞くことにする。
2人がここを出て行ったのを見て、ゆっくりと体を起こした。
なんだか寝たはずなのに体がとっても疲れている。
はぁ、と一息つく。
「リテーリアちゃん?出てこないの?」
「あ、出ます」
ルイ・アントンの呼びかけに慌てて起き上がってカーテンを抜けようとしたその時、少しだけ腕を引かれて後ろにいる彼にぶつかった。
彼が耳元で話しかけてくる。
「ねぇ、リテーリアちゃん。裏切られたかと思った?」
「え?うん、そうですね。本当にひどいなって思いました。」
「それはごめんね、まぁ、俺がリテーリアちゃんを裏切ることなんて絶対ないんだけど」
「え?」
彼が言う言葉が聞こえなくて振り向いた。
想像以上に彼の顔が近くにあってびっくりしてよろける。すると、割と強い力で腰を抱きとめられた。
「ル……」
「はぁ、困ったなぁ……」
「え、こま……?」
「うん、はは。こっちの話だよ」
その瞬間、ふわっと抱きしめられたかと思うと、おでこの上の髪に口を寄せられ、すぐに体を離された。
「!!?」
「ふふふ、間抜けな顔してる」
びっくりして一歩下がり前髪を抑えた私に、ニコニコと笑いかけながら、ルイ・アントンが早く戻るよと声をかけてくる。
「今キス……」
「さぁ、なんでしょう」
そう言って私の髪先を触った彼は先にカーテンの向こうに消えて行った。
「な、な」
いったい何をしてくれたのか。
さっきとは違う意味で心臓がばくばくしている。
なぜあの流れであんなことをされたのか、私の理解の範疇を超えている。
そもそも私は10歳なんだから……。
いや、なるほど、10歳に対する対応ということか。
子供扱いということか。
きっとそうだ。
考えすぎなんだ。
顔が熱いのはびっくりし過ぎたせいだ。
私をからかって遊んだだけだ。
絶対そう。
よし、頭を切り替えよう。
混乱する頭を宥めながら、サラサ様達が居るカーテンの向こう側に出た。
研究室の真ん中に四角い机が設置され、紅茶の入ったカップが4つ置いてあった。カップの前に、サラサ様とリューが座っている。
サラサ様の髪は、綺麗に編み込みにされてハーフアップになっていた。サラサ様の顔がとても赤い。
サラサ様、なんか急に可愛くないですか。好きですけどね、そういうのも。
私はゆっくりとサラサ様の前の席に座ると、その後にルイ・アントンも椅子に座るのが見えた。
私は机に人差し指をトンとつくと、じっと前を向く。
「さて……これから質問のお時間ですよ、サラサ様」
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