「39!」
知らない文字をいくら見つめても読めるはずもなく、私はその2つの本を持ってソファに座った。
これではその人物を調べるどころか性別すら分からない。ここから調べるのは難しいと考えて本自体を見る。
表紙も、開いた感じも、おそらく何十年いや、もっと経っているかもしれない。丁寧に読まないと壊れてしまいそうなくらいだ。
遠い昔に転生した者が書いたという情報は、そこの本屋の情報と聞いたが、それはこの本から読み取ったのだろう。それくらいにこの本は傷んでいた。
「お嬢様、すみません、考え込んでしまいました」
「大丈夫よエリサ」
エリサは相変わらず少し首を傾げて片手を顎に当て、悩むような仕草をしていた。
まだ思い出せていないのだろうか。
「お嬢様、ちょっとおかしな事を言うかもしれませんがよろしいですか?」
「ん?」
「あまりにも違う人生でしたので、恐らく夢なんだと思うのですが、私はこの人生になる前に長い夢を見ていた気がします」
「夢?」
「はい。その人生でその本屋を教えてもらったのです」
「それで実在したの、その本屋」
「はい、なんとなく見覚えのある場所に来たなと思って行ってみるとその場に存在しておりました」
「ふぅん……その夢の人生ってどんな感じだった?」
「……ひとまず、お嬢様の侍女ではありませんでした。どこかのお屋敷に勤めて……あまり良い話ではありませんね」
「では、今世は良い話にできるように、私はがんばるね」
「すでに今日までで良い話ですよ、お嬢様」
2人で顔を合わせて笑う。エリサの人生は幸せであってほしいし、私は全力で支援するつもりでいる。
でも、一度人生を過ごしているなんてまるであの世界みたい。ニヤッと笑ってエリサを見る。
「それ、繰り返す世界じゃないかな?」
エリサもニヤッと笑って頷き、私の持っている本を見た。
そうだよね、やっぱり。
この本を読み込む、端から端まで落とす事なく読んで探す。見落としている文章があるかもしれない。
「お嬢様、私は明日その本屋に行って違う資料が無いか探して参ります」
「ありがとうエリサ!やはり貴方は良くわかってるわ!」
「ふふ、光栄です、お嬢様」
※ ※ ※
「ちょっと、リテーリア。あなた……ふらふらしてるけど大丈夫なの?」
「申し訳、ありません、サラサさ……」
「ちょ!リテーリア!!こんな所で寝ないでちょうだい!」
「はっ、あれ?サラサ様2人いらっしゃいますか?」
「あなた………すごい隈よ、もう……もう少し10歳の顔をしてなさいよ……こんなに若いのに」
「申し訳ありま、しぇ……」
「…………」
無言で休憩用の小部屋を指さされて顎で早く行けとされる。
「ちょっと仮眠してきなさい」
「はい……」
私は昨日何度もあの2冊を読み返し、完全に頭に入れるくらいまでに読み込んだ。
そして、気がつくと朝になっていたのだ!びっくり!
授業を必死で目を開けることに勤め、休憩時間を全て睡眠にあてたが悲しいことに眠気は去ってくれなかった。
サラサ様が用意してくれた魔石判別機器はとても魅力的だったが、今の眠気で触るのは危険だろう。
仮眠を取るように言ってくれたサラサ様に感謝しながら横になる。
「全く、ちょっとは自分を大切にしなさい。そのくらいの年齢には睡眠はとても必要な時間なのよ」
「はい、すみません」
「分ったならよろしい。次徹夜したら魔石の輸入の仕事も押し付けるわよ」
「…………zzz」
聞き捨てならない言葉に目をつぶって答えを回避する。
そもそもサラサ様だってまだ15歳とかだったはず。まぁ、そんな事を言ったらより言い返せない言葉で応酬されるのは分かっているので、言わないに限るのだけど。
少し騒がしい気がして目が覚めた。寝ていたソファから少し体を起こす。
サラサ様とルイ・アントンがコソコソと話している声がカーテンの向こう側から聞こえてきた。
「だ、だめよ!会ったら私、被ってる仮面が」
「でも、トーマスすら振り切ってここに向かっておりますよ」
「そんな!こ、困るわ、今彼を直視なんかしたら私」
「一応扉抑えましょうか?」
「いえ!に、逃げる!」
「え!サラサ様ちょっと」
バタバタとこちらに誰かが走る音が聞こえ、バサッと音をたてて小部屋のカーテンが開かれた。
「!!」
「リテーリア!私を隠しなさい!」
「サ!?」
サラサ様が勢いよくソファの下に滑り込んできた。
皇女様がなにしてるの!!
でも、隠さないときっとまずいことになりそうだと判断した私は何か隠せそうな方法を探した。
これしかない。
自分にかかっていたブランケットをソファの下が隠れるくらいに垂らし、カーテンを閉めて寝るフリをする。
その直後、バンッと音がして部屋の扉が開いた。
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