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「4!」

「姉様?」

「ん?リティちゃんどうしたの?」

 何かを呟いた気がしたので姉様を振り返るといつもの笑みを浮かべて私に小首をかしげていた。

「………………。」

 何も聞いてはいけないような気がしてそのまま扉をノックする。



 しばらくすると母さまの侍女が扉を開き、私たちを招きいれた。

「あら、私の可愛い娘たちがこの部屋に来るなんてどうしたのかしら?」

 母さまがよくいるお部屋は全般的に緑色を基調にしており、部屋にも観葉植物も何個も置いてあるため、小さい森の中にいるように感じる。

 その中にいる。女神。いや、お母さまの手元では今教わろうとしている刺繍をしていたようだった。



「母さま、それは刺繍でしょうか」

「リティは目がいいのね、そうよ、これは刺繍をしていたところよ」

 母さまの手元を覗き込むと、色取り取りの素晴らしい刺繍が施されているところだった。

 最早ただの刺繍ではない、最高級品として差し出されても欲しくなってしまう程キレイな品だ。

「母さまこれは、」

「これはサイラスに渡す、飾り用のハンカチよ」

 まだ途中だけどね、と笑いながら私に絵柄を良く見せてくれる。


 父さまは母さまに対して絶対に名前を呼ぶように言っており、様を付けることも許していないらしい。

 更に、サイラス、父さまは「常にローズの刺繍の入ったハンカチを持っていないと発作を起こしてしまうんだよ」と言って、母さまのハンカチを常に持ち歩いているらしい。



 陛下の側近として常に厳格ある顔立ちで働いてるという話だけれど、家でそんな姿を見たことは一度としてなく、父さまの顔には常に笑みが絶えない。

 父さまの使用人は「この屋敷には忘却の魔法がかかっているのではないかと思った時もあります」と話すほど仕事場と家の中では別人らしいので、私はそのままの父さまでいてほしい。


「母さま、私、刺繍を教わりたいのです。」

「あら、これは針を使うからまだリティには……」

「いえ!もう私は10歳です!だから姉様と一緒にやりたいのです!」

「あら、あら……」



 私の後ろに立っている姉様に困ったような視線を向ける母さまに対して私は「お願いします母さま!」と、迫る。

「お母様、実はリティちゃんは恋を………」

「ち、違います!違います!姉様と一緒に母さまに教わるなら刺繍が良いと思ったのです!」

「あら、あら……」

 姉様は私が本の王子様に恋をした事を話そうとしていたが、なんとなくそれを回避した方が良い気がした為慌てて訂正した。恥ずかしい。

 母さまは私の圧力と、姉様が私と一緒に刺繍をやりたいと言った事が決め手となり、刺繍を教えてあげましょうと言ってくださった。

「やるからには厳しく教えますよ、リティ。それでもやると言うのね?」

「やります!」

 その後、母さまから淑女は大きな声を出してはいけないわと注意され、せっかく刺繍の用意があるから今日からやりましょうと、侍女に道具を持ってくるよう声をかけたのだった。




 -------------------




「せっかくだし、アネモアは一ヶ月後にあるお茶会までに1枚仕上げましょうか」

「え、お母様、それは、」

「そうしましょう!私も一ヶ月後に母さまの為に刺繍を仕上げたいです!」

「あら、リティありがとう」

 ふふふ、と母さまが笑いながら姉様に課題を出している。

 姉様が作るのはこの国の国花である百合の花と、Tの文字が良いでしょうという話になったようだ。

「T???」

 このTの文字はなんだろうと思ったが、母さまの刺繍講座が始まったため聞く体制に入った。



 しばらくして思った。

 これ、私、時間かかる。

 試しにやってみましょうという事になり、針で布に糸を通す。気がつくと赤い模様が布に付いていた。

「………………。」

「リティちゃん!!血!!」

「リティ!早く、指を見せて!」

「リティお嬢様!大変!包帯を!」

「だ、大丈夫です!母さま、姉様、エリサ」

 私の頭にはどうしようという思いしかなかった。

 このまま、姉様も刺繍をやめてしまったら、当分あの数字は変わらないと。私がここで止めるわけにいけないと。

「こ、こんなの、ぜ、全然痛く、ないです」

 正直とても痛い。目も少し涙が出てきそうで我慢するのがやっと。でも、

「やりたいと決めたのです。やりきります。」


 だって、数字が変化するか気になるんだもの!


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