マリー・コーエンの物語は
ブックマークや評価ありがとうございます。
今回はいつもの倍の長さです。
私の世界は繰り返していた。
その中でずっと、好きな人がいた。
彼と過ごす幼少期だけ、とても楽しかった。
でも、彼は妹と結婚してしまうから。
だから、ずっと諦めていたんだ。
彼と過ごす未来を、彼と共に歩む未来を。
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「リテーリア、ごめんなさい、待った?」
「あ!マリー!全然待ってないよ!」
今日はリテーリアとお茶会だ。
この学園の庭あるカフェテラスにリテーリアが誘ってくれた。お菓子がとても美味しいらしい。
あんな公開告白をしてしまってなかなかお茶に誘うことができなかった私は、リテーリアからの誘いがあってちょっとほっとした。
彼女と話す時間はとても楽しい。
※ ※ ※
この世界がいつもと違う世界だと気がついたのは、妹であるユリエスタの行動がいつもよりも活発だった事も1つの要因だ。
前の世界でも活発ではあったが、今回の彼女は木に登ったり、街に抜け出してみたり、両親や私をひやひやさせる事を平気でやった。
街に抜け出し今までで初めて彼女を怒った時、彼女はとても嬉しそうに笑って
「姉さまとも一緒に街に出てみたいわ!だって楽しい事がたくさんあったもの!お父様達に頼んでみるわね!」
そう言って走っていった。
なんで彼女が嬉しそうに笑ったかは分からなかったが、その後家族で街に出る事が増えたのは彼女が頼んだからだと言うのは分かった。
その時、もしかしたら今回は違う運命を辿れるかもしれないと少し未来に期待してしまった。
けれどその気持ちはすぐに消える。
ルータス様と初めて出会う日、いつも反応を示さなかった彼女が
「姉さま、とってもキレイな方ね!」
と言って笑ったからだ。
その時に、また今回も《ユリエスタの世界》に生まれてしまったんだと私は思い込んだ。
それからはいつもより、ルータス様のことを避けていた。
理由は、期待してしまった分、より辛くなる気持ちが大きくなりそうだったから。
そしてまたやってきた、ルータス様とユリエスタが婚約するという話し。
それは、決まって私が12歳の夏にある。
いつも通り決まった日に、ルータス様から婚約の話を直接聞く。
そしていつも通りに「2人なら幸せになれる」と笑いながら伝えた。
いつもなら、はにかみながら「ありがとう」と言うルータス様が、今回は無表情で私を見つめる。
どうしたのか問いかけようとした直後、ルータス様は無言で私を連れ、両親達の元へ向かった。
「ぼくは、姉のマリーと婚約がしたいのですが」
ルータス様がそう言った時、私は飛び上がるほどびっくりした。
「ルータス君、ユリエスタじゃ不満なのかい?」
私の父がルータス様に聞くと、ルータス様は首を傾げながら答える。
「いいえ、ユリエスタに不満はありませんが、マリーが良いのです。マリーとの婚約を希望します」
その後は、私が外されて話し合いが行われた。
何故ルータス様はあんなことを言ったのか。
私には全く理解ができない。
私に同情でもしたのだろうか?
哀れんだのだろうか。
私よりも明るくて美しい妹の方が絶対に良いはずなのに。
それから、一旦ルータス様とユリエスタの婚約は無くなったらしい。
ただ、私との婚約が進められることはなかった。
しばらくして、妹は別の人物と婚約の話が上がることになる。
相手は、元平民で、とある子爵家の養子に入った人物。
とても優秀な人物で、私の家に婿に来てもらうためにある子爵家と何かの取引が行われたらしい。
こんな事今まではなかった。
私はこの後、婿に入った旦那によって一気に子爵家を没落させられ、名もしられないような田舎に引きこもる予定だったのに。
しかもその元平民と婚約する相手は妹だ。
何故。
何が起きているのだろうか。
そう思っていたある夜、ユリエスタに話しかけられた。
「姉さま、」
「ユリ……?」
「姉さまはルータス様の事好きなのでしょう?」
「な!な、なぜ」
「姉さまがね、ずっと遠慮してたの前から知ってたの」
「…………」
突然の問いかけに私は思わず上ずった声を上げてしまった。
ユリエスタは黙り込んだ私を悲しそうに見つめながらさらに言葉を紡いだ。
「私、悲しかったの。大好きな姉さまを辛くさせてるのが私だと思うと、心がとても痛かったの……」
「ルータス様がすてきな人だからよ」
「でも私ルータス様のこと、姉さまのように好きじゃない、大好きだけど、お兄さまだわ!ずっと、姉さまとルータス様が結婚すると思っていたもの」
「……どうして?」
「どうしてって……ルータス様はずっと姉さまをお姫様みたいに扱ってたじゃない」
気づいてなかったのとでも言うようにユリエスタが話してくる。
気づいていなかった訳ではない、でも信じることはできなかった。
だって、いつも、最後にはユリエスタを見ていたから。
「それに私、婚約が決まったもの!」
「あ、あの、元平民の……」
「あら姉さま、バカにしているの!キリトはとってもかっこよくて王子様みたいなのよ!」
ずっと、ユリエスタには憧れの人物がいたらしい。
街に抜け出した時に助けてくれた少年、キリト。
その少年が今回の婚約者らしい。
「お父様にね、キリトがいかに素敵でかっこいい人なのか力説して、どうにかしてくれることになったらしいのよ!だからね、姉さまが遠慮する必要はないのよ」
「…………」
本当の話なのだろうか、平民が簡単に子爵家の養子になれるとは思えない。
取引をするにしてもどんな手をつかったのだろう。
そんなことを考えていたらユリエスタが私の手を両手で掴んだ。
「ねぇ、姉さま、私姉さまとたくさんお話ししたいの、色んなところに行って、たくさん遊びたいの、喧嘩とかもしてみたいわ!」
「……」
「ねぇ、姉さまお願いよ……もう、私の事………嫌いにならないで!」
「!」
そう彼女が叫んだ時、初めて知った。
私は妹の事を嫌いになりかけていたと。
いつも私を気遣い、たくさん笑いかけてくれるそんな優しい大好きな妹。
でもどこかで彼女が居なければと思っていたのかもしれない。
だから、辛いことを全部を妹のせいにして、嫌いになってしまおうとしていたと。
「ごめん、ごめんねユリ……!」
※ ※ ※
あの日ユリエスタと一晩中話して次の日起きられず、一緒に母様に怒られて笑った。
やっと本当に家族として愛することができたと心が満たされたのを覚えている。
「マリー、なんだかにやにやしてる」
「ちょっと前の事思い出して笑っちゃった」
「いいね、素敵な記憶はいつ思い出しても素敵だもんね」
今回の世界がこんな素敵な世界で本当に幸せだ。
私はその幸せを噛みしめながら毎日を過ごしていた。
ただ1つだけ、ずっと気になっている事がある。
繰り返していた世界と今回の世界で、出会う人物というものに違いはなかった。
たとえあの平民のキリトという人物も、出会ってみたら前の世界で出会ったことがある人物だった。
ただ1人、リテーリア・クロスウィリムという人物を除いて。
リテーリアという存在は前の世界には存在していなかった。
そもそも、クロスウィリム家には娘が1人12歳離れた息子が1人しか存在していなかったはずなのだ。
それなのにあまりにも当然に存在している。
世界を繰り返していた存在はやはり周りに居なかったのか、誰も疑問に思っていない。
ただ、私にとって異質の存在は、私にとってとても心地の良い存在になっていることは確かなのだが。
何回も世界を繰り返した私と同等ほどの知識を持ち、頭の回転が素晴らしく良い、不思議な彼女の存在。
「ねぇ、マリーは刺繍とかやる?」
「え?刺繍は、あまり、すきじゃなくて」
「そうなんだ、似合いそうなのに」
「似合う?」
「うん、黄色とかオレンジとか可愛いの似合いそう!」
「本当?今何の刺繍してたの?」
「これ?これは、姉様に水色の刺繍してたんだよ、まだ全然出来てないけど」
「みずいろ……」
「水色だけの刺繍はね、親愛を意味しているんだって。お守りの一種みたい」
「!!」
「ふふ、マリーもいつも持ってるよね」
「え、ええ……昔に母さまから頂いて」
「へぇ、すてきだね」
そう言いながらクッキーを頬張った彼女は、幸せそうに笑う。
こちらまで幸せになるその笑みに私も微笑んだ。
どんな存在であろうと、彼女がこれからも大切な存在であることは変わらないだろう。
彼女も含めて、幸せな人生を歩めることを幸運に思ったのだった。
お読みいただきましてありがとうございます。




