「3!」
「アネモア、お前には1ヶ月後お城に行って第二皇子とのお茶会に出てもらうことになったよ。殿下とは初めて会うだろうがしっかりした人だし大丈夫だろう。話し相手になってあげなさい」
「はい、お父様」
クマが出来た目を隠すこともせずぼーっと朝食を食べていると、父さまが姉様にそんなお話をしていた。
ただ私はとても眠かった為あまり頭に入っておらず、お出かけするのうらやましいな位には思ってはいた。
しかし。どちらかと言えば、昨日の本はとても素晴らしい物語で、本当にその王子様に恋をしてしまうかと思った!という気持ちを早く姉に伝えたい方が勝っており、父さまと姉様のお話が早く終わることを願っていた。
「姉様、姉様!」
朝食後、姉様が席を立ったタイミングで私も席を立ち、姉の後を追う。
「あらリティちゃん、どうしたの」
天使のような顔がこちらを振り返った。
「姉様、私、お話ししたいことがあるの」
ふと、姉様の顔が少しだけ悲しそうな顔をした気がしたが、それは本当に一瞬で終わりいつもの微笑みがもどる。
「あら、愛しのリティちゃんからのお話し?」
どんな楽しいお話が聞けるのかしら、と小首を傾げる姉様は、もしかしたら本当に女神になってしまうかもしれないわ。と思いながらこう切り出す。
「姉様!私、恋をしてしまったかもしれないのです!
だから、一緒にダンスとお裁縫を習ってくれませんか!」
「………………え?」
姉の顔がびっくりした顔で固まった。
そして数秒止まる。
「リティちゃん、まって。」
「はい、姉様」
「恋をしたの?」
「はい、姉様!」
「それで……ダンスとお裁縫?」
「そうなのです!このご本をご覧ください姉様!」
「う、うん、でもリティちゃんはダンスとても上手でしょう」
「だ、だめです姉様!恋をした私は未熟だと気がついたのです!姉様の優雅さが、全くないと!」
「あらあら、」
どうしても、ダンスに誘いたい気持ちと本を勧めたい気持ちが大きすぎた為に勢いでつっぱしる私を姉様は不思議そうな顔で止めた。
確かに、恋をしたから急にダンスと裁縫を一緒にやりたいというのは意味が分からなかったかもしれないと思う。
けれど、私のお願いに弱い姉様は、なんとか一緒にダンスレッスンとお裁縫をしてくれるという事になったのだった。
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姉様をダンスとお裁縫に誘った日、私と姉様は刺繍の本を広げていた。
ダンスは先生にも相談しなければいけないから今日は刺繍を見てみようとすでに用意しておいた物だ。
「母さまはとても素晴らしい刺繍を刺すと、父さまが前に言っていたのです」
「そうなのね、お母様はそんな特技が」
「なので、母さまにまず聞いてみようと思うのです」
そうなのだ、私の母さまローズマリアは、プロ並みの刺繍を刺すらしい。売り物として並べられたらすぐに無くなるだろうが、それを独り占めできる自分は幸せ者だと父さまが言っていた。
「母さま忙しいでしょうか」
「今日は外に出る用事はないみたいだったわね」
「では!聞きにいきましょう!」
「ふふ、そうね、お母様はきっと教えてくれるわ」
「はい!今から楽しみです!」
姉様の手を取り、ぎりぎり走っていない速度で母さまの元へいそぐ。
「そんな急がなくても母さまはお逃げにならないわ、リティちゃん」
「いいえ!早く姉様と刺繍を教わりたいのです!そして刺繍入りのハンカチを作るのです!」
「………………刺繍入りのハンカチ」
姉様が何かを呟いたタイミングで母さまがよくいらっしゃるお部屋の前に到着した。