「23!」
化学室に向かう前にエリサには誰に会ってくるのかを説明した上で、戻ってきたときにどんな話をしたのかを伝えたいので、できれば部屋に残っていてほしいという事を伝えた。
エリサには、どんな人たちが学園に集まっているかを調査してもらっている事と、町で情報になりそうな本を入手してもらう為に夕食前には侍女寮に戻すことが多かったからだ。
エリサは分かりました。と言いながら言葉を続けた。
「お嬢様、前に私が渡した本の中に『転生者』の方が書かれた本がありましたよね」
「ああ、あの古そうな本ね。そういえばあそこにアイテムという文字が………あ」
「はい、そのアイテムという文字についてです。ルイ・アントン様はどうしてその名前を使ってお店をだしたのでしょうか」
確かにそうだ。前にエリサに渡してもらった本は、本が大好きなエリサが古い本屋の端の端の端で見つけた本であり、そのほかの本で転生者が書いたような本は見たことがない。
たまたまルイ・アントンがその本を読んでいた可能性があったにしてもそこから抜擢して使うだろうか。
もしくは彼自身が転生者、または転生者の知り合いがいる場合。自分で使うことによって転生者だとばれてしまうリスクを彼がやるとは思えない、もしこの場合は後者の可能性が高いだろう。
ここはあれだ、本人に直接聞いてしまおう。もうこれで行くしかない。
考えても本人じゃないと分からない事だってたくさんあるのだ。
「とりあえず直接聞いてくることにする」
「大丈夫でしょうか、何かに巻き込まれたり……」
「んー。私はノリで乗り切れると思うから大丈夫」
「そうですが、お気をつけてくださいね」
この学園では通常侍女をつけて歩くことを禁止されている。
理由としては、単純にこの学園に出歩く人数が多くなることを防ぐためである。
この後で人数が増えた時に1人に1人の侍女がつくだけで単純に倍の人数になるのに、何人もの侍女を共にさせる人が現れたら大変ということと。
万が一平民の生徒が入ってくるときに、居ないことで目立ってしまうことも考慮に入れられているらしい。
まぁ、基本的に昼間の日常で侍女にお世話になる時ってお茶以外にないから私は気にならないのだけど。
エリサは日常会話が楽しいのだが、それは果たして侍女の仕事なのだろうか。
そんなことを考えていると化学室の前にたどり着いていた。
ノックをして声をかける。
「リテーリアでございます、開けても宜しいでしょうか」
ガチャ。と音がしてルイ・アントンが扉を開けてくれた。
「…………この間もノックして声をかけてくれたら嬉しかったのだけどね」
「この間もやりましたが何も反応が無かったのでそのまま入りました」
少しだけ黙った彼は首を傾げてまだ反論してくる。
「それはノックの意味はあるのかな?」
「ルイ・アントン様は私がお嫌いでしょうか?」
「えっ…………なんでそんな話に?」
「気に入ってくださったと言っていたのに、ひどいですよ」
「………………とりあえず、入っていいよ。なんだか調子が狂うなぁ」
ルイ・アントンの調子を狂わせることに定評のある私は、教室に入った。勝ちですね。
「あ、今俺1人だから、扉なんか抑えておいてね、流石に2人きりはまずいでしょう」
そんなことを言ってくる彼に普通に思ったことを伝える。
「でもルイ・アントン様は私に何かするとは思えませんけどね」
「へっ!?いや、そんなことは、はぁ……………あのさ、リテーリアちゃん」
「はい」
「きみは自分が思うよりもずっと綺麗な顔立ちをしていると知っておいた方がいいんじゃない?」
「????なぜです?そんな思い込みは逆に良くない現象を生む原因となってしまうのではないですか」
「思い込みね……………」
その後何度かため息をついたあと、ルイ・アントンは自ら扉を抑える道具を使って扉がしまらないようにしていた。確かに私は侯爵令嬢なのだから気をつけていかないといけないのかもしれない。
こんな風にしっかりとしている人が監視してくれていれば助かるかも。
「もし、私が道を踏み外しそうになっていたら、止めてくださいね」
「なにその発言。まぁ分かったよ」
「だから、ちゃんと見ててくださいね」
「い、いいけどさ……発言がとても危ない気がするんだけどね、すでに」
彼が何かを言っていたが、私の頭はすでにエリサと話した疑問点について考えていたので全く聞いておらず、少しだけ遮るように話し始めた。
「そういえば話変わるんですが」
「………………はぁ」
さっきからため息ばかりついてくる上にすごく眉間にしわを寄せてこちらを見て来るルイ・アントンの視線は外しながら、彼が出しているお店の名前について聞いてみた。どうしてあんな名前付けたんですかと。
「ああ、なんか、その名前はリューが付けたんだよ。そもそも販売は俺がやっているけど内容についてはリューとルータスが作っているし巧妙に噂を広めたのはトーマスだし」
「え、皆さんのお店という事なのですか?」
「まぁそう、内緒ね」
人差し指を唇に当ててにこっと笑ったルイ・アントンは、紅茶のセットを取り出して紅茶を入れ始めた。
自ら入れる人なのかと感心してじっと見る。
私もいつか自分でも淹れられるようになるかしらと思いながら観察すると彼の「!」がぴょこんと跳ね始めた。
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