「9!」
「お嬢様?どうされました?」
見回りをしている使用人が扉の外側から声をかけてくれている。
私が突然大声を出したからだろう。
「大丈夫、本が落ちたの」
使用人は「そうですか」と言いながら離れていったようだ。
それで、問題はこの日記帳だ。
もう一度、念じてあの絵を出す。
さて。この絵の人物は、もしかしてもしかすると、トーマス殿下?
トーマス殿下はまだ公表されていない為、私は見たことがないが、
姉様が言っていた、さらさらの金髪でエメラルドグリーンの瞳、小さいながらも隠せないオーラが出ている人物であったと。
トーマス殿下が微笑みながらこちらを見ている。
「………………」
そわそわする胸を押さえて緊張気味に触ってみる。
カサリと音がして日記帳に触れていた。
触れるわけではないらしい。
ちょっと残念。
万が一、万が一だが、これが本当にトーマス殿下だとして、この場面が本当にあったとしたら。
スチルとは、特に良かった場面を切り取ったものなのではないか。
そもそも、トーマス殿下が姉様に向けて微笑んだのは間違いない。なぜなら、夕食時「殿下が微笑んでくださった」と言っていた(そして、嬉しそうにしていた、あれは天使の微笑みだった、スチルにしたい)のだ。
「姉様が特に嬉しかった場面なのかしらね」
トーマス殿下の方にも、この機能あるのだろうか。
あるのであれば是非とも一回お会いしたい。姉様の好感度数値がどうなっているのか見てみたい。
そして、姉様のステータスに新たに出てきた料理の数値。そういえば、最低条件の部分に何か書いてあった。
「マフィンを作成するには最低200必要」?
マフィン?あの、お菓子のマフィンだろうか。
そうだとしても、料理…………。
母さまからの許可がいるものだ。そもそも、姉様も料理に興味が無いと誘う事すら出来ないだろう。
ここに来て難題が立ちはだかるなんて。
いや、ここで諦めたら私ではない!何が何でも料理をやってやろう。その為の作戦を考えなければ。
しかしながら。
なぜ私がこんな事出来るようになったかは分からないが、トーマス殿下と姉様が結婚したら、とんでもない美形の子供が誕生するに違いないことは分かる。そして将来わたしの甥っ子か姪っ子になる、鼻血モノだ。
これは、まさか、使命なのではないか。
私が姉様とトーマス殿下を婚約に持ち込んで更には結婚し、子供が産まれたらもう、その子は私の子供と言っても過言ではないのだから。
……いや、過言か。
その夜はベットの中でどうすれば姉様が料理に関心が向くのかを考えて、眠れない夜を過ごした。
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今日も綺麗な快晴が広がっており、素晴らしい日になりそうですね。
おはようございます、私はリテーリア・クロスウィリム。
もし私が過去に飛べるのだとしたら、昨日の私にこうアドバイスする予定です。
『姉様は料理に興味津々だから、早く寝なさい』と。
朝食を食べ終えると、姉様が私の部屋を訪ねてきてこう切り出してきた。
『クッキーを、作ってみたいの』
私は寝ていない頭でぐるぐると考えながら、これは姉様が料理やりたいって事でいいのかという結論に至ったが、
両親の意見に忠実に過ごしている姉様から、まさかそんな事を言われるとは思っていなかった事と、昨日どう姉様を説得するかを考えていた私は
『え、姉様、料理をするのですか?』
と、聞いてしまったのだ。
すると姉様は、はっとした顔をした後、『なんてねー冗談よ、ふふふ』と言いながら部屋を出て行ってしまった。
姉様は気づいていないと思うが、姉様は普段「なんてねー」とも言わないし、「冗談よ」という前の顔は真剣で、必死の顔をしていた。
やってしまった。
私のばか。こうなった姉様を説得させるのは本当に大変なのに。
難題をより難題にさせ落ち込んでいた私は、早々ににも、エリサに相談する事にしたのだった。




