RPGという退屈と混乱と悲鳴
一人でもいいから、笑ってくれたらいい。
それが二人ならなおいい。
誰かに楽しんでもらうために自分たちは存在し、この世界は在るのだ。
だから、「この世界を面白くする」と言われたとき、リクトは素直に頷いていた。断る理由などない、リクトではなくても同じだっただろう。そもそも、この世界はそうやって創られてきたのだから。
よりよく、より面白く、楽しんで、もらえる、ように、ように・・・
「魔王と腹心はブラ要員と」
ウラメンは取り出した紙に熱心に書き込んでいる。
「いやぁ、よかったですね、多少キャラクターがたってきたのではないですか」
目は紙におとしたまま、心からの祝福を二人に送る。
「ぶ、ブラ?」
ブラと言われて男が思い浮かぶのはひとつではないだろうか。リクトを含め男たちの顔に朱がはしる。
「ええ、BL要員です」
わかりますか?ボーイズラブっていうのですが、とウラメンは小首をかしげる。
「アイン、イアン、ウラン、エラン、オラン、誰でもいい、かわってくれ!」
「よし、カラン、お前一人でBLってくれ。俺はなんとか勇者一行に入れてもらえないか、土下座して頼むから」
「どこまでもついていきます、我が王!」
「はて、理解に苦しみますね。やっと手にいれた個性を捨てる気ですか。とはいえ、その辺りは私もあまり詳しくないのですが・・・えいっ」
ウラメンは二人に向けてペンを振る。
「好きだ、カラン」
「お慕いしております!陛下」
先ほどまでとはうってかわって、二人は手を取り合う。お互い見つめあっているが、その表情は暗い。
「な、何をしたの?」
「書き換えたんですよ、二人の設定を。とはいえ、あくまでも設定だけで心まではままならない、と」
ウラメンはリクトの質問に軽く答える。その間も二人はお互いに好きと繰り返す、壊れたラジオのように。
「いや、それにしても雑すぎじゃぁ・・・」
「はい!魔王が2段階変形っていうのは古いと思います」
マキアが言うのを、リクトが大きな声で遮る。これ以上、敵とはいえ魔王組が不幸になるのはみていられなかった。
「ほぉ、やっと主人公らしくこの世界のために発言しましたね。確かにそのとおりです、えいっ」
ウラメンはまたペンを振るう。
「好きだー!!!」
「お慕いしております!!!」
カランと手を取り合っていた魔王の姿が突然ドラゴンにかわる。
「あ」
「あ」
ぷちっと、カランが潰れる音がした。
「ちょっと、待ちなさいよ、どういう状況よ!」
「BLで、異種族愛ですね」
ウラメンがペンを振るとカランが元通りの姿で現れる。そして、そのままその場でうずくまって泣き出す。
「無理です、無理ですよぉぉぉ。俺、女の子が好きです。マキアさんこと創造時から好きです。あんまりです、あんまりですよぉ」
カランの肩をウラメンが叩く。
「泣いていないでドラゴンと絡んできてもらえますか」
「お前は鬼か?!」
「異種族愛って、よく考えたらすごくいいです。世界平和っぽいです。種族を越えた愛!いやぁ、色っぽいこと何もないストーリーでしたが一気に恋物語になってきましたね」
私逹はなんだったんですかー!と、メルティーナが頭を地面に打ち付けながら泣く。
「異種族愛っていっても、人間じゃぁドラゴンの指ほどのサイズしかないよ!どうやって絡むのかなぁ!」
自分に責任の一端があるリクトはだらだらと汗を流しながら必死にウラメンにうったえる。
「僕もまったく門外漢だけど、決して詳しくはないけどBLってるのが好きな人はこういうの本当に求めているのかなぁ!」
「悪役で、主従で、異種族で、年齢差で、体格差・・・そうね、確かに要素詰めこみすぎかもね」
「ちょっと黙っていてくれないかなぁ!マキア!
それに、ちょっと近づいただけで相手がぷちっと、つぶれちゃうのもおかしいよね」
「素晴らしい熱弁ですね」
殺してくれ!と叫びたい気持ちをリクトはぐっと抑える。
「では、こうしましょう」
ウラメンがペンを振る。
カランの姿がドラゴンに変わる。
ドラゴンはお互いに向けて炎を吹き掛ける。
「私にはまったく理解できませんが、これがBLということでいいのですね。燃え上がる恋と」
「え、あ、あぁ。そうだね、うん、まぁ」
2匹のドラゴンはそろって翼を広げて空に上がる。
「精神的負荷は減ったかな」
ドラゴン達がおこす風が、リクトの髪を揺らした。