『タイトル未定』下
メルティーナから体をはなし、リクトは魔王のいる場所に手を伸ばす。ひときわまばゆい光があふれる。思わず顔を伏せたメルティーナが次に目をあけたときには、すでにリクトの姿はない。
そこにいたのは、優しい瞳をしたドラゴンだった。
「メル、背中に乗って!」
「リクトさん、ですか?」
「うん、魔王は死んじゃったみたい」
あっけなく、リクトは言う。メルティーナは涙を流しながらドラゴンに抱きついた。
リクトはメルティーナを背にのせ、王都グランドクロスの見える丘に降り立った。王都まではあと少しだが、すでに日が落ちてきた。魔王の進軍と勘違いされてはいけないので、今日はここで野宿をすることにしたのだ。疲れきってはいたが、一人と一匹はいつまでも話が尽きない。仲間のこと、今までのこと、これからこと、時間はあっという間に過ぎていく。取り戻した神弓リキュールをもって、ノール村の跡地に帰る、そこでやっと、この長い旅が終わるのだ。
いつのまにか、眠ってしまったメルティーナが目を覚ますとそこは地獄であった。ドラゴンは空を飛び、地面に向かって火をふく。それに応戦するグランドクロスの兵隊。
「リクトさん!」
荷物をつかみ、メルティーナは丘を駆けおりる。何度呼び掛けても返事はない。昨日の優しいドラゴンの瞳を思いだし空を仰ぐが、すでに兵隊の矢によりドラゴンの両目は潰れていた。
「リクトさん、リクトさん、リクトさん!」
兵隊達の叫びにかきけされ、その声が届かないのか。
魔王の予言どおり、リクトの理性が消えてしまったのか。
「目をみなきゃ、私、わかん、ない、ですよ」
そういいながら、メルティーナは神弓をかまえる。
一人でこの弓を扱うことができるのだろうか、できたとして、自分はもつのだろうか。
しかし、そんなことは関係なかった。
歯を食い縛り、メルティーナは弓をひく。矢をうけたドラゴンは咆哮をあげ、落ちた。その体がゆっくりと燃えていく。不思議なことに融合での回復はしないようだった。
落ちたドラゴンに兵隊たちは石を投げたり、剣で肉をえぐったりしている。
ドラゴンは、魔王は、今度こそ死ぬ。
メルティーナは泣かなかった。
「リクトさん、好きです」
メルティーナはひどく疲れていた。地獄のような光景から目を背けたかったのか、それとも彼の笑顔を思い出すためだったのか。ゆっくりと、瞼を閉じる。
泣き虫と言われ続けた彼女はもう泣かなず、彼と同じように、ただ笑う。
「私、上手に『勇者』になれましたか?」




