『終わった世界』
『終わった世界』
世界が終わる、最悪な形で。
突然現れた魔王は龍の姿をもって、人々のつくりあげたものを、1年で破壊し尽くした。
文明と文化が失われても、人々は希望までは失わなかった。魔王討伐をを目指した若者が各地でも立ち上がった。
また1年をかけて、魔王は人々の希望を潰した。
魔王に逆らうものはいなかった。そういう人間しか生きていない世界になった。
終わるだけだった、魔王は逆らうもののない世界で何もせず1年を過ごした。
世界の終わりが始まって4年目、世界はこのまま終わる、最悪な形で。
「草はえる!」
「リクト、ダメだポン!みつかっちゃうポン!」
「こんなところに逃げ込んでいたとはね」
「お姉さま、私怖いです」
静かな世界に騒がしい来訪者が3名と1匹やってきた。
不気味な生物が、小型の端末を取り出す。
「超戦術系生物兵器、魔王の反応があるポン」
「時間がないわよ、思った以上に過去時間への干渉の負荷がきついわ、老いるお姉さまをみたくはないのに」
「本来時間は不可逆なものですから・・・お姉さま、手を繋いでいてください」
そう、4人はここより先、未来より過去を破壊するために送られた兵器魔王を破壊するためにやってきたのだ。
しかし、世の理を乱しているのは同じ、3人と1匹の体は凄まじい勢いで老いていく。
一番の先に負荷に耐えられなくなったのはメルティーナであった、爆乳であったが故の悲劇である。垂れたそれを見ながら呆然と立ち尽くすメルティーナと、少し嬉しそうなマキアを苦渋の決断ながらリクトはもとの未来に送り返す。リフェンテは体も小さいためか、それよりも早く老死した。
最後のひとりになっても、リクトは剣を杖がわりに魔王の城へたどりつく。すでに2年がたっていた。
「よぅやく、会えたな」
すでにリクトは77才の老人になっていた。
「2年でこれだ、お前の5年は、さぞかし長かったろう」
作戦時に説明されたよりも明らかに小さくなった龍、魔王はゆっくりと瞼を上げた。
「もぅ、我の目的は果たされた」
「そうか」
「聞かぬのか」
「聞いてほしいのか」
龍と人が笑う。
「リクト、お前はすでにもとの時間軸には戻れまい」
「あぁ、もう、そんな体力もない。よっこいせ」
杖がわりの剣をおいて、リクトは難儀そうにその場に座る。
「お前の額の勇者の文字、それは我をも越える最強の兵器である証明」
「そうだ、だから最悪の兵器を破壊するためにやってきた」
「未来は破壊された」
「・・・」
「お前という護り手がいない未来など、我が愛人カランにかかれば造作もない」
「・・・」
「過去を守っても、未来はないのだ」
「それはきっと、ワシの仲間が防いだろうさ」
「本気でそう思うのか」
「あぁ」
ぐるると、魔王は笑うように喉をならすが、むせたのかしばらく咳き込む。
「楽天的な愚か者め」
「なんとでもいえ」
「随分と、なげやりではないか」
「爺だからな、もぅ、正直よくわからんのだ」
白くなった髪をバリバリとリクトは掻いた。
「わからない。忘れちまったのか、思い出せないのか、・・・なんだか全てが曖昧だ。だが、ひとつ思い出した」
「ほぅ、なにをだ」
「ワシが勇者ってことは、額に書いてあるんだった」
自分では見られないから忘れてなぁ、としみじみいいながら傍らにおいた剣をつかむ。
「魔王は倒しておくぞ、よくわからないが」
そう言い魔王の額を剣で突き刺す。魔王は喉の奥で笑い、その体は光となって消えた。
「あっけないのぅ」
リクトは剣を捨てて、寝転がる。
どうやら世界は終わるらしい。
「草はえるのぅ」