RPGという退屈
「この世界、面白くしてさしあげましょう」
そういい放った男は、スーツ姿で空から降りてきた。
パラシュートでもなく、傘でもなく、ヒラヒラと気まぐれに、花びらのように、のどかな農村の中心に降り立った。
必然的に、周囲にいた人々は皆一様にその男を見つめ、作業の手を止めた。
どう考えてみても歓迎されている雰囲気ではないが、男は気にした様子もなく、一人の青年に歩み寄る。
「あなたがこの物語の『主人公』ですね」
不躾なまでに青年を観察する。人々の中でもひときわ明るい髪の色をした青年は困惑した表情を一瞬浮かべたが、すぐに笑顔をつくり、男に手を差し出す。
「はじめまして、僕は『タイトル未定』の主人公、リクトです」
「はじめまして、私は・・・」
男はごそごそと内ポケットから真新しい名刺を取り出し、リクトの差し出された手にねじりこむ。
「私はウラメンと名乗ります」
「ウラメンさん?」
「イケメンと同じ発音でお願いいたします」
「図々しいなぁ」
「さて、はじめましょうか」
リクトの言葉を無視してウラメンが手を叩くと一枚の紙が垂直に彼の手に落ちてきた。
「絶望的にお約束で、先が読める、誰もが飽きた、金を払う価値すらない、この物語を」
手にした紙に書いてあるのかスラスラと読み上げるウラメンは最後に盛大にため息をついて、その紙をリクトに突きつける。
「最高に破天荒で、見通しがつかない、前代未聞の、金の払う価値のある物語に創り変えてあげましょう、私が」
そういいながら、ウラメンは顔を歪めた。