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ドクターヘリ救急救命  作者: 零
基本STORY
5/54

藍沢と田中 其の五

そして、翔南救命センター



今日のヘリ番は藍沢、今井、大野だ。

パイロットほ早川だ。


そこに、ホットラインが入る。

朝の9時だ。



今日は風がいつもより強い…



そして、藍沢たちがランデブーポイント上空に到着し、着陸を試みる。

だが、気流が安定しない…

それでも、何とか着陸した。





が、次の瞬間!



ヘリが横転した!

藍沢の方を下にして…


早川「すみません!大丈夫ですか!」


藍沢が顔を歪めながらもいつもの口調でこたえる。


藍沢「大丈夫です。このまま、ヘリから降りても良いですか?治療してくる間に消防の方とヘリを起こしておいてくだい。飛べそうに無ければもう1台ヘリを呼んでください」


早川「わかりました」


藍沢「今井、大野。ドア開けてそっちのドアから出ろ!俺は出るまでにちょっと時間がかかりそうだからあとから行く」


2人「はい!」


そして、2人がヘリから飛び出した。


藍沢がゆっくりとヘリから出る。目をつむり、自分の身体状況を確認する。


決していい状態ではない。

脳圧が恐らく上がってきている。

だが、フェローだけに任せてられない。

藍沢は意を決した。


走り出す前に早川に一言、言って…


藍沢「早川さん。もう1台、ヘリお願いしてください」


早川「えっ…」


早川は藍沢の顔を見た。

藍沢は見た目は何も無いが自分の状況を理解しているのだろう。


藍沢「治療の間はもつと思うけど、もしかしたら、やばいかもしれない」


早川「何て言っておきましょう?このヘリは問題もなく大丈夫そうですが」


藍沢「ヘリは飛べそうですが、ドクターがもう1人欲しいと伝えてください」


早川「わかりました。無理はしないでくださいね」


藍沢「はい。可能な限りやってみます」


そう言って藍沢は走り出した。

その姿を見て早川が救命センターに連絡する。


早川「こちら翔南ドクターヘリ」


CS「こちら翔南CS。詳細お伝えください」


早川「着陸後、急な突風でヘリが横転しましたがヘリは問題なく飛べます」


CS「わかりました」


早川「それと、藍沢先生から伝言で『医師がもう1人欲しい』と」


それを聞いた橘と田中、谷口が動き出す。


橘「田中、お前は残ってこっちをまわせ」


田中「はい」


橘が初療室からCS室に走り、早川にこたえる。

橘「わかりました。橘と谷口で行きます」


そして、梶さんが操縦するヘリに2人が乗り込む。

橘が藍沢の無線に呼びかけ始めた。


橘「藍沢、聞こえるか」


藍沢「はい」


橘「状況は」


藍沢「大木が倒れてその下敷きになったのが3名です。」


橘「詳細は」


藍沢「2名が意識不明。1名が右足太股を骨折している疑いがあります」


橘「わかった」


今井「藍沢先生、こちらの1名。意識戻りました」


藍沢「わかった。橘先生、1人意識戻ったので意識不明1名です」


橘「わかった。あと3分で着く。」


藍沢「それから…」


橘「どうした?」


藍沢「こっちの3人を診終わってからでいいので自分もお願いして良いですか」


藍沢の言葉を聞いて橘の顔が険しくなった。

橘「どうした?」


藍沢「横転した時にはもう着陸していて降りるだけだったのでベルトを外している状態で、全身をを強く打ったので。今は大丈夫ですが脈拍がいつもより速い。もしかしたら脳圧がたかくなってるのかもしれない。最悪、発作が起きるかもしれない」


橘「わかった」


そして、到着した。

橘が到着した時にはもう意識不明の1人も意識を取り戻しており、救急車で骨折した人と先に意識を取り戻した人を搬送する。

あとで意識を取り戻した人には今井と谷口が付き添い、パイロット早川で先に着いていたヘリで運ぶ。


橘「さて、藍沢。ヘリの中でお前を診るからヘリに行くぞ」


藍沢「はい」


そう言いながら、藍沢・橘・大野は搬送を見届けた。

3人が梶の待つヘリに向かおうとした時、藍沢がフラッと後ろに倒れた。

とっさに藍沢の身体を支える橘。


橘「藍沢!藍沢!…大野、ストレッチャー頼む」


大野「はい!」


大野が返事をして梶が待つヘリに走る。

梶と共にストレッチャーを押しながら走ってくる。


橘「よし、藍沢のせるぞ。1、2、3」


藍沢の身体をヘリ専用のストレッチャーに乗せて、ヘリまで運ぶ。


橘がすぐに処置を始める。

心停止している。

恐らく患者を治療している間も自分の身体を気にして脳圧が出来るだけ上がらないようにしながら患者の治療をしていたのだろう。


橘が胸骨圧迫をしながら、田中に連絡をいれる。


田中「はい」


橘「橘だ。藍沢が倒れた。今、心停止だ。そっちに運ぶ。初療室とオペ室1つずつ空けといてくれ」


田中「わかりました。どっちも確保しときます」


CS「こちら翔南CS。ヘリ上空大気が安定しました。」


梶「了解。離陸する」


初療室からCS室に田中が走った。

今度はCS室から橘に連絡をいれた。


田中「橘先生。脳外の西条先生呼んでおきますか」


橘「あぁ、頼む」


田中「はい」


田中が西条に連絡すると「すぐに行く」と返事がきた。


橘「よし、心停止したけど、戻ったな。大野、挿管する」


大野「はい」


藍沢に橘が挿管する。


橘「藍沢、生きろ!」


橘が藍沢に声をかける。


梶「橘先生、病院まで5分だ」


橘「わかった。どうにかもちそうだな。大野、藍沢のバイタルは?」


大野「はい。どれも予断は許しませんが一応は安定してます」


橘「そうか。わかった。田中、聞こえるか」


田中「はい!」


橘「あと3分だ。西条はもう来たか?」


田中の隣にいた西条がこたえる。


西条「橘、どんな感じだ?」


橘「脳圧が上がってると思う。心停止したけど、2分前に戻った。着いたらそのままオペ室に運ぶか?」


西条「いや、CTを撮ってからがいいな。その後、オペ室に直行だ」


橘「了解」


西条「橘…俺のフォロー入れるか?」


橘「…わかった」


そして、病院についた。

田中と一緒に西条が走ってくる。


西条「状況は」


橘「特に変化はない」


西条「CT先だな」


そして、CTを撮って緊急オペが始まる。


脳圧を下げる。



オペが終わってICUに藍沢が運ばれる。


隣には田中が座っていて、反対側に橘。足元に西条が立っている。


すると、藍沢が目蓋を開ける。


挿管していた管を橘が外し酸素マスクにする。


橘「藍沢、ここどこかわかるか?」


藍沢が周囲に目を向ける。


藍沢「…翔南の、ICU」


橘「どおしてお前はベットに寝てる」


藍沢「患者の搬送を見届けて、その後、自分の脳圧が上がって倒れて」


西条「問題なさそうだな」


すると田中が藍沢の手を上に上げる。


田中「ここでキープして」


藍沢が震えも無くキープする。


田中「今度は手を開いたり閉じたりして」


それもちゃんと震えなくできた。


西条「じゃあ、手を前に伸ばして」


震えはみられない。


3人が安堵のため息をついた。


橘「よかった」


藍沢「今井と大野と早川さんは大丈夫でした?」


西条「検査はしたけど大丈夫だった。お前がバランスを崩した今井を庇ったんだってな。彼女、凄く反省してたから俺から言っといたぞ」


橘「何を」


西条「そんなに反省しなくてもあいつは大丈夫だ。ってな」


藍沢「そうですか」


田中「良かった。ホントに…」


藍沢「この前の逆だな」


田中「うん」


橘「1週間は休め」


西条「今日は安静にしてろ。いいな。もし、それで救命の人が足りなかったら俺が責任もって現場にはいる。それでも足りなかったらお前は指示を出せ。いいな。」


藍沢「わかりました」


そして、みんなが仕事場に戻っていった。


田中「あとで来るね」


藍沢「あぁ」


時計を見ると11時。



昼を食べて午後3時。



この日、懐かしい人物が用事で翔南を訪れていた。


翔南の救命の元エースで現在も企業の健康診断等で医師を続けている人物…


黒田だ。


橘に右腕の定期健診を依頼している。

黒田が橘の外来の診察室を訪れると


橘「お久しぶりです」


黒田「あぁ…お前は疲れてるって顔だな。らしくない」


橘「朝からヒヤヒヤしてましたよ」


黒田「ほう?お前が。何があった」


橘は黒田にまず黒田自身の腕の状況を伝え、今日の午前中の出来事を話し始めた。


まず、ヘリが横転したこと。

患者が3人でそのうち、心停止が2人いる状況で藍沢とフェローの今井、大野でどうにか3人とも救ったこと。


黒田「ヘリの横転を除けば、ここまではよくある事だな」


橘「ここまではですよ」


黒田「それで?」


患者の搬送を見届けた藍沢が横で意識を失って心停止。

原因は最初のヘリの横転のときに頭部を強く打っていたこと。

藍沢は自分でそれをある程度わかっていたのか、ヘリが横転してすぐにドクターを1名要求したこと。


黒田「で、藍沢は?」


橘「オペが終わって麻酔がさめたらすぐに目を覚ましました。今はICUです」


黒田「なるほど…お前の疲れは朝から緊急オペで脳だったからってことか」


橘「まあ」


黒田「ついでだ。藍沢に会ってくる」


橘「はい」


黒田は診察室を出た。

そして、ICUの入口で立ち止まる。


入口の指紋認証に手を当ててみる。

当然、入れないだろう。

そう思ったが、予想外なことに自分の指紋データは消されていなかった。


だが、恐らく新しいフェローだろう。

自分のことに気がついた。


横峯「あの、あなたは?」


横峯のその問に黒田は答えた。


黒田「前にここで働いていた医師の黒田だ」


その声にICUで患者を診ていた大野、緋山がビクリと肩をゆらす。そして、ベットにいる藍沢までもが入口の方を見る。


黒田はそれに構わず言葉を続ける。


黒田「藍沢耕作に会いに来たんだが」


横峯「えっ…」

横峯は驚いているのだろう。瞬きのスピードがあがった。


それを見かねた大野が黒田に言う。


大野「黒田先生」


大野がICUに入る時に身につける緑の手術着の様なものをまわしてきた。


黒田「あぁ」


短く返事をして黒田がそれを着る。


大野「こちらです」


大野が救命のスタッフルームに一番近いベットにいる藍沢の元へ黒田を案内する。


黒田「すまないな。ありがとう」


大野「いえ」


大野と緋山がスタッフルームに戻っていく。


バイタルが安定したからか酸素マスクを外している藍沢が黒田に話しかける。


藍沢「お久しぶりです」


黒田「まさか、お前が倒れるなんてな」


藍沢「そうですね。自分でも驚いてます」


藍沢はそう言うと咳き込んだ。


黒田「大丈夫か?」


藍沢「はい。最近、喘息の発作が多いんです」


黒田「気をつけろ。喘息は厄介だ」


藍沢「はい」


黒田「自分のことも少しは心配しろよ」


藍沢「黒田先生…」


黒田「どうした」


藍沢「腕はどうですか」


黒田「気になるか?」


藍沢「はい…」


黒田「心配要らない。お前のあの時の切断の仕方で良かった。俺はもう一度、外科医としてメスを持てるようになった」


藍沢「えっ…メスを」


黒田「そうだ。良くやった。藍沢」


藍沢「本当ですか。良かった…」



そこにドクターヘリ要請を告げるホットラインが鳴る。


ICUにいた藍沢と黒田が瞬時にスタッフルームの方を見る。



海でクラゲに刺されたというものだった。患者の数は確認されているだけで5人。


ヘリ番の田中、大野、今井がバックを手にする。そこに橘が指示を出す。


橘「藤川、今井と変わって先にいけ」


今井からバックを受け取り藤川が田中、大野を追いかけて走る。


それをICUからガラス越しに見ていた黒田が呟く。


黒田「藍沢…行くぞ」


藍沢「はい」


藍沢が横に置かれていた救命のユニフォームの上をを着て黒田とスタッフルームに足を踏み入れる。


橘「そして、ヘリをピストンして次ので緋山、谷口、今井が行ってくれ」


黒田「違う、橘。お前が行け」


橘「黒田先生!って藍沢も」


黒田「大丈夫だ。お前と藍沢のお陰でメスも前のように握れる。行ってこい。いいな」


橘「はい!」


黒田「その後に、今井、名取、横峯だ。お前達がフェローなんだろう?話は聞いてる。1人でも救える患者を救え」


誰なのか横峯以外は知らないが橘の様子を見て橘よりも上の先生だと思ったのだろう。


すぐにフェローが返事をする

「はい!」


黒田「橘、それでも足りなかったら、西条と新海、三井を行かせる」


橘「はい」


藍沢「クラゲだと患者が増えそうですね」


黒田「あぁ」


そして、フェローのヘリが出てから救命に橘から連絡が入った。


黒田「どうした、橘」


橘「三井たちもこっちにお願いします」


黒田「わかった。三井、西条、新海!お前ら次ので行ってくれ」


三井・西条「はい」

新海が少し遅れて返事をする「はい!」


黒田「三井、どうしても足らなかったらまた連絡してこい。俺と藍沢が行く」


三井「はい」


そして、三井たちのヘリが出ていく。


患者は続々来るがこちらはしっかりまわってる。


そこに藤川のiPhoneから連絡が入った。


黒田は藤川からの連絡にフェローを卒業したのに何でアイツから…。見たことがない症例なのか?と思いつつも


藍沢は初療室で患者の治療から手が離せないので自分が診ていた患者の治療を一通り終えた黒田が出る。



黒田「黒田だ。手が足りんようだ。俺がこたえる。どうした」


藤川は内心驚いた。だが、一番頼れる人物が出てくれたことが嬉しかった。



藤川は患者の症状を黒田にしっかりと細かく伝えた。そう、かつて藤川がフェローとして黒田に指示をもらっていた時のように…



藤川は初めて出会う症例だった。


だが、黒田は流石だ。藤川に治療方法を答えた。


藤川「わかりました。ありがとうございました」


黒田「あぁ。その患者はそれで3時間はもつ。トリアージは黄色で良い。他の患者でわからなくなったらまた電話してこい」


藤川「はい!」


黒田が、初療室で自分も治療しながら的確に他の医師や看護師に指示を出す



今度も黒田が電話に出た。


電話の相手は藤川ではなくフェローの名取と横峯だった。


黒田「黒田だ。どうした?状況伝えろ。俺がこたえる。」


藍沢・黒田を中心とした初療室での治療、黒田の指示だしや藍沢の初療室のまわし方、現場のスタッフの対応のおかげで命を落とす者なく全員を助けられた。



その日の夕方、黒田は院長室にいた。


院長「また、戻ってきてくれませんか」


黒田「そうだな。戻りたい気持ちもあるが、企業の健康診断を頼まれてるからそれを別の医者に引き渡してからだな」


院長「お願いします」


黒田「あぁ。帰る前に救命を見てから帰ります」


院長「えぇ。今日はありがとうございました」


黒田「フッ。俺はどうやらこの病院に籍を置きっぱなしにしていたようだな」


院長「えっ?」


黒田「俺の指紋でICUの扉は開くし、初療室の扉も開いた。あれは驚いたよ」


院長「きっと、あなたが育てたドクター達がそうしたんですよ」


黒田「そうかもな。でも、あいつらも随分成長したな」


院長「あなたのお陰です」


黒田「そんなことない。あれは、あいつらの努力だよ」


院長「そうですか。お待ちしてます」


黒田「あぁ」



そして、黒田は院長室を出て救命に来た。黒田はまずスタッフルームに行った。



そこには、デスクワークや機材の確認をする橘、緋山、田中、藤川、大野、谷口、そしてフェローがいた。


橘が最初に黒田に気がついた。


橘「黒田先生」


黒田「あぁ」


藤川「今日はありがとうございました」


黒田「しっかりやれたみたいだな。良くやった」


藤川「はい!」


黒田「名取、横峯」


2人「はい」


黒田「名取、止血に時間がかかりすぎだ。血管縫合の練習をもっとしておけ。出血死するぞ」


名取「はい…」


黒田「横峯、挿管のスピードを上げろ。脳に酸素がいかなくなるぞ」


横峯「はい…」


黒田「だが、お前達はあの状況下で2人だけで患者の命を救った。……良くやった」


2人「はい!」


黒田「田中」


田中「はい…」


黒田「お前がスタッフリーダーだよな」


田中「はい」


黒田「本院の救命チームよりも良いチームだ」


田中「えっ…ありがとうございます」


黒田「橘、話がある」


橘「わかりました」



そして、黒田と橘は会議室にきた。


橘「お話とは」


黒田「あぁ。さっき院長と話してきた。今の仕事を他の医師に引き継いで救命に戻る」


橘「えっ…。いいんですか?お子さんとの時間とか」


黒田「健一も大きくなった。この前、言われたんだ。『父さんは、救命にいなくていいの?』ってな」


橘「それで?」


黒田「そろそろ、腕も元通りに動かせるようになったし、これならメスも持てるから救命に戻るか考えてるってな」


橘「…」


黒田「そこに妻が来て『健一が良いって言うなら戻れば?あなたがそうしたいなら。私はどこかであなたが人の命を救ってればいい』ってさ」


橘「奥さんが?」


黒田「あぁ。それを聞いて健一か言ったんだ『父さんは企業の健康診断とかっていう仕事も似合うけど。昔、病院で見た見た救命で指示を出す父さんはその何倍もカッコ良かった』ってな」


橘「そうなんですね」


黒田「だから、戻ることにした。これから藍沢のところに行ってくる」


橘「はい」


その頃、藍沢はPCで自分のカルテを見ていた。

カルテには緊急オペのことも書かれていた。


そこに…


黒田「藍沢」


藍沢「はい」


黒田「成長したな」


藍沢「えっ…」


黒田「今日の初療室での治療はとても良かった。」


藍沢「ありがとうございます」


黒田「フェローの指導、お前がしたのか?」


藍沢「田中と俺です」


黒田「なるほど…」


藍沢「何か問題がありましたか?」


黒田「いや、治療の手順、バイタル報告の順番、機材の持ち方、メスの入れ方。その全てが俺と橘、三井、俺がいた時のフェローはそっくりだ。それが今のフェローもそっくりで驚いただけだ」



すると、藍沢が泣き出した。声をあげずにただ、涙を流した。


黒田「どうした」


藍沢「いや、ずっと考えてたんです、田中と。この指導の仕方で間違ってないかなって話し合ったりして…」


黒田「お前達は間違ってない。ちゃんと指導もできてるし、自分の腕も上げてる。よく頑張ったんだな、10年間」


藍沢「はい…」


黒田「1週間休みなんだろ?」


藍沢「はい」


黒田「病院休暇か?」


藍沢「そうですね」


黒田「なら、これ頼んだぞ」


黒田が藍沢に渡したのはリスト作曲の「ラ・カンパネラの主題による華麗なる大幻想曲 1832」の楽譜だった。


藍沢「えっ…」


黒田「今度の定期音楽会は上野未来、藍沢耕作、田中亜依が演奏することになった」


藍沢「田中は何を弾くんですか」


黒田「あぁ、あとで聞いとく」


丁度そこに田中がきた。


黒田「田中、定期音楽会なんだが、お前と藍沢と上野未来が弾くことになった。」


藍沢「俺は「ラ・カンパネラの主題による華麗なる大幻想曲 1832」を弾くことになった」


黒田「お前は何を弾く?」


田中「じゃあ、Only Oneで」


黒田「わかった。2人とも練習しておけよ」


2人「はい」


そして、黒田がICUを出ていく。


藍沢「仕事、終わりか?」


田中「うん」


藍沢「お疲れ。それから、ヘリ番かわってくれてありがとう」


田中「ううん。大丈夫。この前は耕作がかわってくれたでしょ?」


藍沢「まぁな」


田中「それより、耕作は猛練習しないとやばいんじゃない?」


藍沢「あぁ、よりによってラ・カンパネラの主題による華麗なる大幻想曲 1832を黒田先生がリクエストするとは…」


田中「頑張ってね」


藍沢「あぁ」


そして、藍沢と田中はそれぞれの場所で眠りについた。

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