お買い物
「はぁ~、可愛い子に会えました~」
ルキリヤは熊のぬいぐるみを腕に抱き、幸せそうに言う。
「ん。でも、道草、くった。
…………美味しい草だった、けど」
クテイも手に持つルキリヤとは種類の違う、自分の熊のぬいぐるみを眺める。
「私が一旦、異次元、入れとく」
「あっ、はい。ゴマみりんをお願いします」
ルキリヤはクテイにぬいぐるみを差し出す。
「ごま、みりん?」
謎の単語が出てきた。
「はい。その熊さんの名前です」
ルキリヤは胸を張って言う。
「……」
クテイは何も言わない。言わなかった。
クテイは何も言わないままに二体の熊を仕舞う。
「って! 何か言ってくださいよ!」
流石に無反応は辛かったのだろう。
「……ん」
「だけ!? オンリー!?」
「……趣味、思考、志向、嗜好、もろもろ、人それぞれ」
クテイは明言を避け、目を逸らす。
クテイ的にはそれは、“ない”らしい。
「ええっ!? 何ですかそれ!?」
「それより、ルキリヤ服買う、よ」
露骨に話題を逸らす。
「あっはい。分かりました。買うなら動きやすいのがいいですね~」
しかし残念な子ルキリヤ、あっさりと乗ってしまう。
ふと、ルキリヤの耳に町人の話し声が聞こえてくる。
「おい、聞いたか?」
「何を?」
「いや、この町の闇組織が一夜で壊滅したって噂だよ」
「はぁ!? 嘘だろ!?」
「いや、これがマジらしい。俺の友達の衛兵に聞いたんだけどよ」
「マジかよ……」
「ああ。人拐いから不当な人身売買まで、かなり悪どいことやってたらしいぞ」
「あれだろ? 黒い虎とかいう」
「ああ。その組織だ。誰がやったかはまだ分からんらしい。色々憶測はあるが。いったい誰がやったんだろうな」
ルキリヤは、クテイのことだな。と思いながら話を聞いていた。
そりゃああれだけのことをしたのだから噂になって当然か。とも。
ルキリヤはチラリとクテイを見てみた。
かの闇組織潰しの真犯人を。
「ふしゅー! ふしゅー!」
動揺しまくりだった。
吹けもしない口笛を吹いている。
だらだらと汗をかいている。
ルキリヤはなんだか可笑しくなり笑みが漏れる。
ここは指摘しないのが大人の優しさかな、と思い、何も言わずに町を散策することにした。
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暫く町を歩いた後、クテイは、
「ん。あそこの服屋に行くと、いい」
シュビッと指差す。
その指の先には少し高級そうな服屋が。
「ええ? そんな、勿体無いですよ。安いやつで十分です。買って貰う身ですし」
ルキリヤは遠慮する。
熊のぬいぐるみを買うときには一切の妥協をしなかったが。
「んーん。服は、良いものを着る」
クテイはNOと言える子供だ。
いや、この世界だと法的には大人だろうか?
「えぇ…………分かりました。ありがとうございます」
感謝を示すルキリヤ。嬉しそうだ。
「ん。それじゃ、店員さんにこれから必要な服、見繕ってもらって。私、食料とか、色々見てくる」
「分かりました。別行動ですね」
ルキリヤはクテイから十分過ぎるお金を貰う。
「ありがとうございます」
「ん。あの、お店で待ち合わせ」
クテイまた別の場所を指差す。
すると、そこにはカフェが。
「了解です。それでは、また」
「ん。ばいばい」
二人はそれぞれの場所へと向かう。
ルキリヤは服屋へ。
クテイは旅に必要なもの等を買いに。