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妹勇者は魔王よりも兄に会いたい!  作者: 狼猫 ゆ狐
妹勇者はお供に残念美人を連れています
8/29

妹勇者とルキリヤ、朝を迎える

 チュンチュン


 宿屋の屋根で雀が鳴いている。

 やはり朝と言えばこの雀の鳴き声だろう。

 もはや様式美である。


「んゅ……んん……」


 そして美少女の目覚め。これもまたテンプレか。



「ん~~……? るきりあ?」


 どうやらクテイは朝が少し苦手なようだ。舌ったらずに拍車がかかっている。

 ルキリヤのことをルキリアと呼び間違えているのはご愛嬌だ。


「クゥ~ン……」


 クテイに返事するが如く、寝ぼけているルキリヤの、子犬のような声が聞こえてくる。

 



…………床から。


「……ルキリヤ?」


 クテイは訝しげにもう一度名前を呼ぶ。

 流石に意識も覚醒したようだ。


「ふ、ふぁい……」


 ルキリヤはむくりと起き上がり目を擦り、欠伸をしながら再び答える。


「……なんで、床に……?」


 当然の疑問だ。


 ルキリヤは、クテイの様子を見、少し考えた後、


「いえ……、深読みしすぎたみたいです……」


 少しばかり遠い目をする。

 なんだ、床でなくても良かったのかと。


「いっしょに、寝ればよかったのに……」


 残念そうにクテイは言う。

 パジャマのフードについている犬耳も、気持ち垂れている。

 寝る前はたっていたのに。

 

(もしかして私、凄い勿体無いことを……?)


 この可愛い生物と寝るなんて機会を自らみすみす逃してしまったことに気付く。


 一瞬しょげた後に直ぐ切り替える。この切り替えの早さはルキリヤの良いところだろう。



「クゥ~、体がバキバキです……」


 ルキリヤは腕を回し、首を回す。ポキポキと音が鳴る。

 硬い床で寝ればそうなるのは分かりきっていただろうに。


「ん。着替え、よ? 今日はルキリヤの物、色々買う」


 伸びをしながらクテイは言う。

 何故だろう? 動作が犬っぽいのは。


「えっ!? 買ってくれるんですか!?」


 ルキリヤは無一文で、ろくに荷物も持っていなかったのだ。

 落とすなり、盗まれるなりしたらしい。


「ん。もちの、ろん。困るでしょ?」


 クテイはフードをとりながら言う。

 アホ毛が、久しぶり! また会ったね! と言わんばかりに跳ねる。


「あ、ありがとうございます……! 恩がたまる一方で……」


 ルキリヤは申し訳なさそうにする。


「ん。気にしない。私、ちびっと、お金持ち」


 クテイは手のひらを上に向け、


「ゆーしゃ、ぱうあー…………その八?

 …………異次元空間」


 と唱える。

 すると、ジャラっと音をたて、手の上に金貨が入った小袋が現れる。


「ふわぁ! す、凄いですね! それも勇者の力ですか?」


 物が突然現れた不思議にルキリヤは尋ねる。


「ん。でも、そんなに珍しくない。似たようなの出来る人、アイテム、あるし」


 クテイは言うと、小袋を消す。


「ほんとは、この程度だと唱える必要も、ない」


 今は(さま)になるから言ったのだと、ぺろりと舌を出して言う。


「それじゃ、着替えたら、買い出し」


「はい!」




 ***************




「うはぁ! こんな風に堂々と町を歩けるなんて!」


「感動するとこ、そこ……?」


 二人は町を歩く。


 クテイは外套を着ている。ただし顔は露出して。

 兄に自分が探していることがバレる可能性を考えてのことだったが、今更か、と思い始めたのだ。

 ルキリヤは最初出会ったときと同じ格好。相変わらず少しボロい。クテイの魔法で汚れを落とされているとはいえ。


「にしても、クテイさんの魔法は凄いですね。私の汚れまくってた服が綺麗になってますよ。最早復元です。復元」


 クルリとその場でルキリヤは回って見せる。

 ぼろっぼろのゴミみたいな服は、少しぼろいだけの服へと、ランクアップしている。


 

 たとえ残念でもルキリヤはかなりの美女だ。

 人目を集めてしまう。

 ましてや一緒にいるのは、これまた美少女のクテイだ。

 ルキリヤを見て目を見開き、一緒にいるクテイを見て更に驚くという人が続出する。見惚れて立ち止まる人も居るくらいだ。


「ん。わかったから、はしゃがない、で。目立つ」


 クテイは、ふぅっと息を吐いて苦笑いする。

 

「あっ! すいません! 


 …………ところで、あの服や体の汚れを落とすのって、その、アレですか? あのやつですか?」


 ルキリヤは急に息を潜めてクテイに尋ねる。

 恐らくは“勇者”という単語を出さないように気を付けているのだろう。


「んー? 違うよ? あれは、ごく、ごく、一般的な魔法」


 クテイは半目で言う。

 勉強好きだったんじゃないの? と。


「えっ? ………………そうでした。そういえば本に書いてありました。それも初歩の初歩に」


 ルキリヤは目線をさ迷わせた後に思い出す。 


「ん。ほらぁ」


「……すいません。興奮してました」


 ルキリヤは自分が思っていたよりもクテイとの出会いによって興奮していたことを知る。

 簡単なことも思い出せないほど。


「ん。わかれば、よし。


 …………そして出来れば、もうちょい、静か目に……」


 ついでにと、自分の希望も伝えてみる。


「あっ! クテイさん! あっちに可愛いぬいぐるみが!! 見に行ってもいいですか!?」


 聞いてすらいなかった。


「…………ん。いいよ。

 …………って、聞いてない、けど……


 …………まてー。私もぬいぐるみ、見たいーっ」


 トコトコーっとクテイはルキリヤを追う。

 


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