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妹勇者は魔王よりも兄に会いたい!  作者: 狼猫 ゆ狐
妹勇者は闇組織に“おこ”です
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ルキリヤの驚愕

 ルキリヤは信じられないものを目にしていた。自分の目が可笑しいのではないかと何度も思った。


 小柄な少女が男たち、それも戦いや危険な仕事に慣れているはずの闇組織のメンバーたちを相手に大立ち回りを演じているのだ。


 ナイフで斬りかかられるのを木葉のようにヒラヒラと避け、(ふところ)に潜り込む。


「グフゥッ!?」


「ん。隙だらけ」


 鳩尾(みぞおち)に拳を一発。男は崩れ落ち、気絶する。



 四方から魔法で火の玉を幾つも撃たれるも、見事な跳躍を見せつけて華麗に避ける。


「「「「ファイヤーボール!!」」」」


「とぉ!」


「「「「へ? …………ぎゃああ!」」」」


 避けられたことで、フレンドリーファイアしてしまう。



 馬鹿でかいハンマーを死角から振り下ろされるが、それを目視もせずに片手をあげて受け止める。

 大柄な男が両手でやっと振り回せているハンマーを、片手で。


「なあっ!? お前のどこにそんな力が!?」


「なんで、だろ?」


 すっとぼけつつも、ハンマーごと男を持ち上げる。


「ハア!? ……ちょっ、おまっ、嘘だろ!?…………カハッ!」


 ハンマーを振り、男を壁に飛ばしてしまった。

 男は壁に激突し、アートな姿で壁にめり込む。

 一応生きてはいるようだ。


 クテイはハンマーをポイっする。

 ハンマーはズシィィンと音をたてて地面に落ちる。



「嘘でしょ…………クテイさん、何者なの…?」


 ルキリヤの驚きに満ちた呟きは闇組織メンバーの悲鳴でかき消されてしまう。




「お前らァ! これは一体どういうことだァ!」


 奥の部屋から一人の男が出てくる。


「ボ、ボスゥ!」


 生き残りたち(実際は誰も死んではいない)が活気づく。


「あ、あいつが! あの女がぁ!」


 一人がそう叫ぶ。

 女と分かったのは、顔が見えているからだ。

 クテイの外套は激しい動きによって顔を隠さなくなっている。

 クテイは最早顔を隠す気はないようだ。


「誰だァ! 貴様ァ!」


 ボスと呼ばれた男はそう怒鳴る。


 その間もどんどんメンバーを気絶させていたクテイは、ピタリと立ち止まる。


「最初、言った。もっかい言う?


 ………………襲撃者、でぇす♪」


 あくまでも無表情に、しかし楽しそうな雰囲気で。


「ふ、ざけ、やがってぇぇぇ!!」


 ボスは叫ぶと、剣を取りだし、クテイに向かって走り出す。


「ラァッ!」


 走りながら剣を鞘から抜き、振りかぶる。

 なるほど。この闇組織のボスなだけはある。

 なかなか見事な動きだ。


「ん~、五点」


 剣が自分に迫っている中、クテイは呑気にも、そう評する。


「あっ。()()()()()()?」


 言うやいなや、その場からクテイは消える。


 ブンッ


 今までクテイの居たところを剣が通りすぎる。


「なあっ!? 何処行きやがった!?」


 ボスは周りを忙しなく見渡す。

 焦っているのか余裕がない。



「だから五点、なんだ、よ?」



「カハッ!」


 ボスは一瞬目を見開き、その後ゆっくりと崩れ落ちる。

 ボスの後ろには、片手でボスの首筋を叩いたらしいクテイの姿が。


「こんなこと、してなかったら才能、あったのに……」


 床に横たわるボスと呼ばれた男を、悲しそうな目でチラリと見る。その目からは、純粋にもったいないと思っていることが分かった。


 クテイは実は闇組織に対して少し怒っていた。

 女の人を拐ってお金儲けするなんて! という風に。

 なので、こんなこと呼ばわりしたのだ。



「んー、倒したのは、三十人ちょっと。残りは、十人位」


 周りを見渡す。


「約四十人。闇組織にしては少な、い? 

 ……支部とか、外に出てる人も入れれば、妥当?」


 顎に手を当て、クテイは考える。


 その間も生き残りたちは蛇に睨まれたカエルのように動けない。

 目の前で自分達のボスがなすすべもなく倒されたのだ。無理もない。


 ルキリヤも同じ様に硬直した姿を晒しているのが滑稽だ。


「ルキリヤ……」


 ルキリヤはこっち側の人間だろうにと、襲撃者側だろうにと、クテイは思った。


 流石に私が怖いのかな、とも。


「……終わった後に」


 終わった後にルキリヤとは直ぐに別れよう。こんな人外な少女、怖いだろう、と。

 それがお互いのためだ。



「ゆーしゃ、ぱぅあー。その……五?

 ………………光魔法」


 クテイはボソッと呟く。

 すると、突き出されたクテイの手の先に一つの魔方陣が浮かぶ。


 その魔方陣から光が漏れだし始める。


 魔方陣から溢れで出てきた光は、徐々に形を成していく。



 やがて光は東洋龍の姿になり、瞳に生物としての知性が宿る。

 魔法で疑似生命体を創造したというのだろうか。



「キュルァァア!!」


 光の龍の咆哮が建物の中に響き渡る。

 蛇に睨まれたカエルだった生き残りたちは、今度は龍に睨まれたカエルになってしまった。揃いも揃って涙目だ。



「ん。クライマックス、は大技で。おにぃちゃんの、教え」


 クテイは兄の言葉を思い出す。

 最後はド派手に締めるのがロマンだ! と。



「よし! いけ!」


 クテイの指示によって光龍の口からレーザー…………もとい、ブレスが。


 ブレスはことごとく建物を破壊していく。

 何故か人には当たらない。





「かん、ぺき……!」


 瓦礫で埋め尽くされた建物の中心で、天井の穴から差し込む月の光に照らされたクテイは満足げに頷く。

 破壊し尽くした後、光龍は空気に溶けるように消えてしまった。


 闇組織の生き残りたちは皆泡を吹いて気絶してしまっている。

 既に倒されていたメンバーも、若干瓦礫に埋もれてはいるものの、死人はゼロだ。

 クテイは誰一人殺すことなく闇組織を制圧して見せたのだ。



「なななな、なんなんですかー!!」


 ルキリヤが叫ぶ。何が起こった!? と。


「ん。おしまい。あとは衛兵に」


 クテイは、かいてもいない汗を拭う動作をした後に告げる。


「そ、そうですよ! 衛兵! 最初から衛兵に頼めば……」


 ルキリヤは、なぜ思い付かなかったのかと、後悔する。が、


「ほんとに、ルキリヤ残念。衛兵に、闇組織潰して下さい、って言う気? 相手にされない、よ? まあ、何かしらはしてくれるかもだけど……」


 クテイが溜め息をつく。


 ルキリヤはこの少女がそこまで考えていたのかと、驚きを禁じ得ない。(みずか)ら組織ごと潰すのが最善手だと分かっていたのだ。


「ここまで……すれば、流石に、衛兵も、動くでしょ」


 後始末はやってくれる筈。

 目の上のたんこぶの闇組織を潰したのだ。感謝してほしいくらいだ、と。


「ん。逃げるよ? 光龍の咆哮で、人が集まる、筈」


 あれだけ騒いだのだから、人通りの少ない立地とはいえ流石になんとかなるだろう。


「え? ああ、はい」


 ルキリヤは返事をする。



「これで、お別れ」


「……はい?」


 移動を開始しようと動き出したときにクテイが告げる。


「こんな、得たいのしれない……直ぐにも別れるべき、だよ」


 顔を伏せ、クテイは言う。


「お互いに、やることが、あるでしょ?」


 だから、別れよう? とクテイは言う。


「……何言ってるんですか?」


 ルキリヤは少し機嫌が悪そうに言う。


「私に恩返しさせないつもりですか? 私がクテイさんを怖がるとでも言うつもりですか?」


「でも……」


「私は一生かけてでも恩返ししますよ! 嫌だと言われても!

 私はクテイさんを怖がりませんよ! むしろ直ぐにでも同じくらい強くなりますよ! というか、クテイさん位の年齢で強い人なんて居ないことも無いでしょ?」


 確かに、クテイのような見た目でも強い人なんてざらにいる。

 ドワーフなど、種族によっては小さいし、生まれたばかりで強い種族もいる。

 この世界では、珍しいものの、無くはないのだ。


(疑心暗鬼に、なったのかな……?)


 クテイは思う。

 今まで力を見せると妬まれたり怖がられることが幾度となくあったのだ。

 だからルキリヤも同じだと思ったのだ。私を怖がるだろうな、と。


「私には、やることが、ある」


「知ってます。それでも勝手についていきます」


 ルキリヤは譲らない。


「というか、クテイさんは勇者…………なんでしょう?」


 ルキリヤは告げる。


「!!」


 クテイは流石に驚きを隠せない。


「私には耳が四つあるんですよ? 小声でも聞こえますよ」


 ルキリヤは苦笑する。

 つまりはそういうことだ。今までクテイが聞こえないと思っていた独り言は筒抜けだったのだ。


「言いませんよ! 誰にも。クテイさんが教えたくないのなら」


 クテイが、ルキリヤをどうしようか、今すぐにも逃げるか、など、高速で考えを巡らしていると、ルキリヤは先回りして言う。


「どういう事情があるかは知りません。でも、誰彼構わず言いふらすような恩知らずな真似はしません」


 毅然と言い放つ。



「あなたの旅についていかせて下さい」


 ルキリヤは自分の望みを言う。


 クテイは少しの間、何も言わない。いや、言えない。



「………………お金、ないから、ご飯食べれないん、でしょ?

 しょうがない、なぁ。暫く養ったげる」


「……んなっ!?」


 それはクテイの精一杯の皮肉だった。

 嬉しかったのだ。何がなんでもついていくと言われたことが。



「ほら! 行く、よ! 人が集まる、よ!」


 クテイはその場から駆け出す。

 

「は、はい!」


 その時、クテイは無表情を崩し、嬉しそうに笑っていたことをルキリヤは知らない。




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