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妹勇者は魔王よりも兄に会いたい!  作者: 狼猫 ゆ狐
妹勇者は闇組織に“おこ”です
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宿屋での出来事

「んん……ここは……?」


 とある宿屋の一室。

 ベッドに寝かされていた女性は目を覚ます。

 その切れ長で、少しキツメの印象を与える目をうっすらと開けて呟く。

 瞳は綺麗な翡翠色だ。


「ん。その言葉、2回目?」


 すると、近くから返事が。


「ふしゃあ!?」


 近くに人が居るとは思いもよらなかった女性は、全身の毛、というか、耳と尻尾をの毛を逆立てる。そして女性は思いの外可愛らしい悲鳴をあげた。


「むぅ…! うる、さい!」


 クテイは両手耳をで押さえ、涙目で言う。


「あ、あぁ。ごめん、なさい?」


 女性は状況が掴めないまでも、取りあえず自分の非を認め謝罪した。


「……って、それよりも! 一体これはどいうことなの!?」


「だからうるさい!」


「あっ、はい……」


 完全にクテイが上だ。


「私は、あなたが行き倒れてたから、拾った。それだけ」


 クテイは必要事項を端的に述べる。


「あ、あれ? ………………」


 クテイの話を聞いた女性は、一瞬はとが豆鉄砲を喰らったような顔をする。

 その後すぐに女性はダラダラと汗を流し始める。


「……す」


「す?」


「すみませんでしたぁ!!

 助けて頂いたとは露知らず、先程は殺気まで飛ばしてしまいました!

 本当に失礼なことを!!」


 女性はベッドの上で DO・GE・ZA した。

 とても綺麗な土下座だ。もしも土下座の教科書があったなら、見開きに載るだろう。


「別に、いい……

 静かにしてくれたら、それで……」


 クテイは最早静かにしてもらうのを諦め気味だ。


「このような不始末をしてしまい、私はどうしたら!?

 ああ、出来ることなら一生をかけてでも恩返しをすべきなのですが、私は追われている身。逆に迷惑がかかってしまいます!

 ほんっとうに私のばかあ!!」


 女性は尚も捲し立て続ける。


 それは実に、クテイがこっそり部屋を出ていき、食事を宿屋の女将から受け取りに行っても続いていたそうな。


 



 ***************




「ごはん、貰ってきた」


 クテイは恐る恐る部屋に入る。

 もうあの騒がしい女のごめんなさいは終わったかな? と。


 すると、女性はベッドに居ない。


「……ん、逃げた?」


 クテイは、女性が居なくなることも考えていた。むしろ、ここにとどまる方が可笑しいのだ。それは、正真正銘の馬鹿だ。

 クテイが安全な相手なのかも確証は無いのだからこんなところ、早々に消えるのが一番……


「あっ! クテイさん! これ凄いですね!

 私は大怪我を負っていた筈なのに、何処にも傷は見当たりませんよ!?」


 馬鹿だったらしい。


「……あなた、私のこと信用、しすぎ」


 クテイは顔を手で覆い、言う。

 実際はクテイは傷の回復だけさせたらとっとと放り出す予定だったのだ。


(私の目的のためにも、邪魔になる……)


 クテイは自分の旅の目的を再度確認する。


(私は、おにぃちゃんと会って、また一緒にいるために……)



「これ! どうなってるんですか!?

 まさか、まさか、高級な魔法薬を使ってくれたんじゃ……?」


 クテイの心の内など知ったものかと、女性はテンション高く騒いでいる。だが、次第に尻すぼみになる。


「実は私、お金を持ってないのです……」


 びくつきながら女性は言う。

 まるで怒られるのを待つ子供のようだ。

 

「あなた、テンション、落差が激しい。もっと落ち着いて……

 それと、回復させたのは、私の魔法だから、ただ」


 だから、とっとと出ていけと言外に言う。


「なんと! あれほどの重症を治してしまうとは……

 クテイさんは高位の回復魔法使いなのですね!」


 だが、クテイの心意はこれっぽちも伝わっていないらしい。


(ほんとは、違う)


 そう。クテイはただの回復魔法使いではない。

 だが、それをこの女性に言うつもりはない。


「あなた、さっき、追われてるって……?」


 クテイは取りあえず尋ねる。面倒ごとに巻き込むつもりか? と暗に言う。


「えぇ……まあ……」


 女性はとても暗く、落ち込んでいる。



「…………………………………あぁ! もぉ! 取りあえず全部話してっ。まあ、予想、つくけどっ」


 クテイが折れた。

 行き倒れを拾ったことから分かるように、クテイは結構お人好しなのだ。


「えっ? でも……」


「いーから!」


 クテイは、あまり動かすのが得意ではない表情筋を全力で使い、さっさとしろぉ! と伝える。


「は、はいぃ! わ、私はルキリヤと言います。

……見ての通りエルフと狼の獣人のハーフ、です。超希少な……」


 この世界には様々な種族がいる。そして、種族を越えたハーフも存在する。

 ただ、大抵の場合はハーフの生まれる可能性はかなり低い。

 人族とエルフ族、等の組み合わせでは割りと生まれやすいが、エルフと獣人とのハーフというのはかなり稀である。

 

「私は田舎で育ったのですが、自分の特殊さをあまり理解していなかったので、自立して都会に来たときに、人拐いなどを生業とする闇組織に目をつけられてしまって……」


 馬鹿だ。やはり馬鹿だった。


「そんなことだろうと、思った、よ……」


 クテイは全てを察してしまい、天を仰ぐ。


「たとえ、希少な種族だとしても普通に、住める。そこまでこの町、治安は悪くない。目をつけられるなんて……」


 可笑しい。

 少数とはいえ、町を希少な種族は歩いているし、冒険者などではそこまで珍しくもない。希少な種族は総じて強いのだ。


「えーっと、実は……私はろくに魔法が使えないんですよね。身体能力もそこまで……」


 極まった。馬鹿がここに極まった。


「魔法が使えない。身体能力もそこまで。……なんで?」


 エルフは魔法が得意で、狼の獣人は身体能力がかなり高い種族だ。

 ハーフであるならば、その両方を受け継いでいてもおかしくない。

 

「…………本を読んだりするのが好きで、戦闘は……」


 なるほど。両方とも、ろくすっぽ修行もしなかったと。

 

「で、ですが! 代わりに知識はたくさんあります!」


 ルキリヤはクテイにかみつく。


「でも、目をつけられてたら無意味、で、しょーが!」 


 クテイは一喝する。


「ごめんなさ~い!」


 ルキリヤはひれ伏した。

 論破されてしまった。


「も、もしかして……、自分が強くないって周りの人に言ったり……?」


 だとしたら最悪だ。極上の餌が無防で歩いてますよ? と宣伝するも同意。

 クテイは、まさかそんな、と思いつつも一応聞いてみる。


「………………てへっ♪」


「ばかぁ!」


 それで闇組織に目をつけられて、命からがら逃げまくった結果、重症で行き倒れていたと。


「あの殺気は……?」


 だとしたらあの強烈な殺気はなんだったのか?

 クテイをビビらせるには至らなかったが、中々のものだった。

 一般人なら動けなくなることだろう。


「……潜在能力?」


 ルキリヤは少し考えたあとに答える。


 確かにルキリヤは潜在能力はとびきり高い。

 それがあのときに出たのだろうか?



「というわけで、私はけりをつけなければいけません!

 怪我を治して頂いて、本当にありがとうございました。それなのにろくにお礼も出来なくて……

 この恩は決して忘れません。

…………生きて帰れたら、その時に」


 ルキリヤは立ち上がり、言う。


「? なに、言ってんの?」


「えっ?」


 クテイは心底意味が分からない、という顔をしている。


「敵の本拠地は? 数は? 装備は? あなたの勝率は?」


 クテイは的確に指摘する。

 勝率なんて0だろうに。何がしたいのか、と。


「そ、それは……」


「あなたを、手伝ってあげる。

…………じゃないと、おにぃちゃんに胸はって会えないし」


 後の言葉は小声で呟く。


「手伝って…? クテイさんがですか……?」


 ルキリヤは訝しげだ。無理もない。

 クテイは至って普通の美少女だ。とても戦力にカウント出来るとは……



 ブワッ



 ルキリヤは一瞬強い何かを感じて、総毛立つ。

 驚き見てみると、クテイの目には強い、とても強いなにかがある。



「いいから、いくよ!」


 クテイは言うなり部屋から出ていこうとする。

 

(さ、さっきのは……?)


 ルキリヤは呆然とするしかない。



「あっ、言ってなかった。あなた、三日くらい寝てた」


「はいぃ!?」


 今明かされる真実。


「私の魔法でも、傷跡なく完璧に治すなんて、時間いるし……

 あっ、そうだ、汚れてたから体は拭いといた、よ?」


 クテイは申し訳なさそうにした後に、思い出して言う。


「そ、そうですか。ありがとうございました」


「もぉ一個。助ける報酬、は、あなたをもふる、こと」


 そうそう、と更に思い出したようにクテイが言う。

 一瞬、ルキリヤはクテイの目が、キラーンと光った幻覚を見た。


「ふぇ!? ……わ、わかりました」


 クテイは何も悪くは無いのだが、なんとなく、本当になんとなく、ルキリヤは先程の“何か”を気のせいだと断じた。



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