港での戦闘3
港で踊るように舞う者がいた。
金色ショートの髪を振り乱し、口許にはわずかばかりの笑みをたたえている。思わず見惚れてしまいそうな光景であるが、そこに似つかわしくないものが二つばかり。
一つは、その者の手には光り輝く神々しい剣が握られており、その踊りに合わせて振るわれている。いや、剣舞が美しく、ただただ踊っているように見えるだけだ。
もう一つは、その剣舞の対象が化け物のような植物、太く長い蔦を振り回す悪魔の植物であることか。
「す、すげぇ……。嬢ちゃん、剣まで使えるのかよ……」
この場で悪魔の植物相手に共闘していた優しい海鬼ことグラムは呆然と呟く。
「にゃ~、アタシは一体、上にどう報告すればいいんだにゃ~」
この港町の冒険者ギルドの受付嬢の猫獣人、シャルは最早半笑いだ。
ただ、彼女の持つ雰囲気のせいで凄く楽しそうに見えるのだが。
「クテイさん、本当に私ってこの場に必要でした…? 最初からそれを使ってほしかったです…」
エルフと狼の獣人のハーフという珍しい種族のルキリヤはジトーっとクテイを睨む。
「……いや、弱点がわかってた方が確実だし…? 無駄打ちして、魔力無駄にしたくないし…?」
クテイがボソボソと答える。
「この触手、無駄に再生力高いし、私の剣で斬っても、再生するかもだったし……」
「むぐっ、そ、それはそうですが……」
この場で一番弱いと言っても過言ではないルキリヤは、未だに不満が収まらないようだ。
(まあ、この戦闘でのルキリヤの成長は著しい。本人は納得してないかもだけど、結果おーらい)
クテイは内心ではちゃんと考えていた。
「っ、よっと」
また、迫り来る蔦を切り裂く。
「……おい、時間が経っても再生してないぞ! 嬢ちゃんの剣が効いてるんだ! いいぞ! そのままいっちまえ!」
今までは、いくら切っても少しすると元通りになっていた蔦が、再生せずにそのままであることにグラムが気づき、声をあげる。
「任せとけぇー!」
普段静かなクテイも、今ばかりはテンションが高めだ。やはり、いくら攻撃してもほぼ無意味だった今までにストレスが溜まっていたのだろうか。
地面から生えている無数の太い蔦を、走り回りながら切り裂くクテイ。喋りながらも、しっかりこなす。
やがて蔦の数が目に見えて少なくなってきた頃。
「あの、これって、全ての触手を切ったらそれで悪魔の植物は死ぬんですか?」
ルキリヤがふと思い至ったように、情報を持ってきたシャルに尋ねる。
「………………あっ、忘れてたにゃ」
「シャルさん!? 何を!? 何を忘れてたの!?」
シャルはその端正な顔の頬を指で掻くような仕草をしつつ、一言。
「そろそろ本体が出るにゃ」
「はあ!?」
その瞬間周囲に鳴り響く轟音。
「ッ!?」
その震源地のすぐ近くにいたクテイはふらつくが、神剣を杖がわりにすることで、堪えたようだ。……罰当たりな気もするが。
ドドドドドドッ!!
音と共に地面が割れる。
その割れ目から出てきたのは、悪魔の植物の本体だ。
「キシャアアアア!!!」
植物の体に、蕾のようなものが顔がわりになっている。
何よりも、デカイ。今までの蔦よりも数倍の太さがある。
「お、おい……ちいっとばかし、まずくねぇか…?」
グラムは口をひきつらせながら言う。
「ん。不味そう」
「いや、多分味の話ではないと思いますよ? クテイさん」
クテイの反応にツッコミを入れるルキリヤ。
二人は余裕そうだ。
いや、正確には余裕そうなクテイを見て落ち着いたルキリヤ、というくくりになる。
「ん~……、こんなに大きいと、一、二回斬ってもじり貧かな……」
クテイは呟くと、剣を掲げる。
「それに、ラストは派手に。お兄ちゃんの教え…!」
クテイが力を込めると、剣の光がどんどん増していく。
「シャアアア!!!」
悪魔の植物はその光に本能的に危険を感じたのか、本体から伸びる今までよりも大きな蔦をクテイに向かって殺到させる。
「ん……これでお終い」
「はあっ!」
神剣の光がピークに達した時、クテイは思い切り剣を降り下ろした。
すると、光が斬撃とともに放たれる。
悪魔の植物は蔦をぶつけて光の斬撃をとめようとするが、
「!!??」
斬撃に触れた途端に、灰になるかのように体が崩れる。
斬撃の勢いは止まらない。触れる蔦を浄化しながら、本体に突き進む。
「ばーん」
クテイの棒読み気味な効果音と同時に光の道筋が、港に巣くった化け物の体を撃ち抜いた。
かくして、長い時間の戦闘を余儀なくされたこの戦いは、本体の登場とほぼ同時に終わるという、悪魔の植物が少しばかり不憫な形で幕を下ろした。




