港での戦闘2
ー簡単なあらすじー
兄を探している勇者クテイは、その旅の途中でエルフと狼の獣人のハーフであるルキリヤと出会う。一緒に旅をすることになった二人は、立ち寄った港町ミランで、謎の魔物が暴れているという騒動に出くわす。二人は、謎の魔物との戦闘に参加することになった。謎の魔物とは、地面から無数に伸びるぶっとい植物の根っこであった。その根っこは港で暴れているが、町にいたSランク冒険者、優しい海鬼の二つ名を持つグラムと協力して三人でなんとか倒そうとする。しかし、その根っこは切っても切っても再生してしまう。さぁ、万事休すか…!
「しつけぇなあ!!」
とてもでかく、まるで自分の意思があるかのようにのたうつ根っこはグラムに向かってしなる。
グラムが裏拳で根っこを弾く。
根っこは、進路を変えて地面に叩きつけられる。
「……同じく」
クテイも根っこを時にはかわし、時には打撃で弾いている。
「じり貧です……ねっ!」
ルキリヤは完全に避けることだけに集中している。
「いくら切っても再生するし、これ以上周りに被害が出ないように攻撃を受け付けるだけしか出来ない」
クテイが苦々しげに話す。
その間にも、攻撃をかわし続けている。
三人がいなければ、この根っこは町の方まで侵食していただろう。三人は充分に仕事をしていると言える。
「そうですね。せめて火が使えればいいんですが……」
「燃やしちまったら、この港が大打撃だろうなあ」
「ですよねー」
有り体に言えば、八方塞がりだった。
グラムが大技を決めたあのときから暫く硬直状態が続き、青かった空も、今は空が赤みを帯びている。
「何か、弱点は無いもんですかね……」
ルキリヤがため息とともにこぼす。
「あるにゃよ?」
「そうですか。あるにゃですか…………って、へっ?」
ルキリヤは、まさか返事があると思わず間抜けな声を出してしまった。
「待たせてすまんにゃ~」
振り返るとそこにはシャルが突っ立っていた。
受付嬢としての制服の上に、軽い皮の鎧を着ている装いだ。
「ええっ!? シャルさん? こんなとこいて大丈夫なんですか!? 危ないですよ!」
ルキリヤは、まさかこんなところにシャルがいるとは思わずにアワアワしている。その間もシャルに攻撃がいかないように防御手段を、避けるから風刃で切り裂くに変えた。
「にゃは! 心配してくれるかにゃ? ありがとにゃ~。だけど大丈夫にゃよ? 私はこれでも元Bランクにゃ~。避ける位ならわけないにゃ」
シャルは猫のような身軽な身のこなしで攻撃を避けている。
しなやかな動きだ。
「す、凄いんですね……」
「まあ、冒険者は引退したし、体もなまってるけどにゃ。
っと、そうだったにゃ。アレの正体が分かったから教えに来たにゃ~。正体を突き止めるのに協力してくれた冒険者達や、ギルド職員には感謝感謝にゃ」
シャルは両手を擦りあわせて感謝を示している。
背面跳びのような形で根っこを避けながら。シュールだ。
「ん。感謝感謝」
クテイも何故かそれに習って手を擦りあわせている。
木の葉のようにふらりふらりと避けながら。
「…………お、おう。感謝、感謝だな」
グラムも一瞬躊躇ったが、その大きくて武骨な手を擦りあわせている。
脚では回し蹴りをしながら。
「なんで皆真似してるんですか!? というかこの苛烈な攻撃のなかでよくそんなこと出来ますね! 意外と余裕ですか!?」
『…………』
「な、なんですか、その無言の訴えは。やりませんよ? 私はやりませんからね? …………やりませんよ? ………………あー! 分かりましたよ! やります! 感謝感謝です!」
遂に耐えられなくなったルキリヤも同じように合掌する。
走りながら。
「うん! それでいいにゃ。それでえーっと、なんの話だっけかにゃ?」
「アレの正体と弱点ですよ! 一番大事なことですよ!? なんで忘れてるんですか!」
「ああ。えっと、そんな話だったにゃ。えーっと、正体だったにゃ。うん。正体はだにゃ、悪魔の植物とか言うらしいにゃよ? 魔族が沢山いる魔大陸に生息するらしいにゃ。ランクでいうとSランク。本当はもっと高くてもいいけど、明確な弱点があるからSランクにおさまっているらしいにゃ」
「悪魔の植物……」
ルキリヤは噛み締めるように呟く。
「まあ、そりゃそうだろうな。弱めとはいえ、Sランクである俺と、俺よりも強そうなクテイ嬢ちゃんがいても倒せねぇんだ。最低、Sランクは確実だろうよ」
グラムはかえって納得したようだ。
魔族が多く住み、凶悪な魔物の多い魔大陸が原産の魔物だからだ。
「それで、弱点って?」
クテイが尋ねる。
「それがだにゃ、アレはその名の通り、悪魔みたいなもんにゃ。だから聖なる光が苦手なのにゃ。植物なのににゃ。光合成どうしてんだろにゃ? って、そんなのは魔物研究会にでも考えてもらえばいいにゃ」
「……つまり、光魔法、聖魔法が弱点?」
クテイが尋ねる。
「そういうことだにゃ~。多分光魔法で攻撃したら再生しなくなるにゃ。でも、聖水を剣にかけてから戦うのが定石らしいにゃよ?」
「……ん。なら、私の領域」
クテイは力一杯植物を蹴り、大きく距離をとる。
そして、一瞬目を閉じ、深呼吸し、魔法を無詠唱で発動してから、勇者の力を使う。
「…………刮目せよ。出てこーい、私の剣」
クテイが、手袋をしている手を前に突き出すと、その手に光が満ちる。
そして、その光が収束していき、形を作っていく。
やがて光が細長い形状になる。
「んん!!」
クテイが突き出している腕を振る。すると、その手には輝く剣が握りしめられている。剣には過度な装飾は無いが、とても美しく、また業物であることが容易に知れた。
「ゆーしゃ、ぱぅあー……その、三? ……我が剣」
クテイは自分の周囲に風魔法で防音をして、クテイとルキリヤにしか聞こえないようにして言った。
勇者パワーその三、我が剣。これは、勇者が自分専用の武器を召喚する力で、過去には聖剣を召喚して大きな力を得た勇者もいた。
その武器は剣に限らず、槍であったり、弓であったりもしたそうだ。
そして、クテイの武器は……
「さぁ、私の神剣に、勝てるかな?」
神が造ったとも言われている、聖剣よりも格上の武器。
神々しいほどのオーラを醸すその剣は、神剣であった。
「神聖さに関しては、これの右にでるものはない、よ?」




