港での戦闘
学校の図書室にラノベが置かれている時代になりましたね……
この章が終わったら兄sideにいきたいなぁ。
兄の設定は割りと具体的に考えてあるのですが、そこまで持っていくのがかなり大変。兄sideを入れるべきなのか、クテイ達と引き会わせてから掘り下げるのか、悩みますねー。
クテイとルキリヤの二人はギルドマスターからの以来を受け、港に向かって走っている。
港に近づくにつれて、喧騒が大きくなっていく。恐らく魔物のことが伝わっているのだろう。人々の流れは港から離れようとするものが大半だ。
「で、私達は港に向かって走っているわけですが、クテイさんはともかくとして、私って必要ですかね?」
「…………」
「何か言いましょ!?」
ルキリヤは自分の必要性をクテイに問うが、クテイは目をそらすのみだ。
「…………………………………………あ、る……?」
「沈黙が長い!? しかも疑問系!」
「……ん。冗談。ほんとは、結構役に立つと思う、よ?」
「え、本当ですか?」
「ん。ルキリヤの成長は、著しい」
「そ、そうでふか……」
ルキリヤは褒められて照れている。返事も噛んでしまっている程だ。
「ん。そうだよ………………ん、港が見えて……!?」
「ク、クテイさん、あれは…!」
港が見えてくるが、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
地面からはバオバブの木ほどの太さで緑色の長い触手、いや植物の根や蔓のようなものが石畳を突き破り、無数に伸びていて、暴れている。
根は港にあったのだろう木箱やらを巻き取り、圧で潰したり、投げたりとメチャクチャだ。
中には人間を捕まえて持ち上げている根もある。
話を聞いていた二人だが、これは想像以上だった。
「ルキリヤ、まずは人名救助!」
「っ! はい!」
言いながら逃げ遅れた人達の避難誘導を開始するクテイ。
一拍遅れてそれに続くルキリヤ。
「皆さん! 港から離れて下さい! 向こうで冒険者達が誘導しています! そこまでは取りあえず逃げてください!!」
「……ん! …………【ヒール】」
クテイは瓦礫に足を挟まれた人を人外の腕力で助けだし、勇者になったことで強化された回復魔法を施す。
「あ、ありがとう……ございます」
「ん。分かったから、今は、気にせず逃げて?」
クテイは走り出した人の後ろ姿を見送ったあとで周りを見渡す。すると、
離れたところで今朝会った海鬼が幾つもの根っこを一人で相手にしているのを見つけた。
その太い腕で持つ銛を器用に使い、根っこを防ぎ、ひきつけている。
彼がいることで、犠牲にならずに逃げ出せた町人も多くいるだろう。
(……助けに入りたい、でも……!)
クテイの周りにはまだまだ何人もの人が根っこの脅威にさらされそうになっている。
クテイのなかに一つの迷いが生じる。
その時、海鬼がチラリとクテイを見た。そして、
「クテイ嬢ちゃんじゃねぇか! 援軍に来てくれたのか!
ありがてぇ! …………だがよ、今はお前さんのすべきことを優先してくれ、俺のことは後でいい! こっちは俺に任せてくれ!」
チラリと見た一瞬でクテイの迷いを完璧に察したらしい。
「! ……わかった」
「クテイさん! 助けにいった方が……!」
他で人を助けていたルキリヤがクテイに目を向ける。
「でも、任せろって、言った」
クテイの真っ直ぐな瞳で射ぬかれる。
「! ……ですが……」
「ルキリヤ嬢ちゃん、俺のことを信用しろよ? これでもSランク、そして二つ名を貰ってる身だ。無様な姿は見せねぇよ……!!」
言うとグラムは銛を大きく一振りし根っこを退け、
「優しい海鬼の由縁、見せてやろう」
腕を上げて、銛を高く持ち上げると、勢いよく回し始める。
すると、近くの海がざわめき始め……
「水魔法、【水流操作】ァ!」
大きな水の柱が巻き上がる。
その柱は根っこの太さに匹敵する程だ。
グラムが更に銛を回すと、水柱は圧縮されて細くなっていく。
その様はまるで水上の竜巻だ。
「ハアアアアア!!」
今までは手首で回していたのを、今度は腕を使い、全身を使い銛を回す。
すると、水の竜巻は意思を持ったかのようにうねり、先端がグラムの周りを渦巻く。
「道を作る!」
回していた銛を植物の根っこに向けると、水流は根っこに向かって突撃する。
バァアアン!!
水流が根っこにぶつかると、根っこは大きく弾かれる。
それはまるで二つの独楽がぶつかって互いに弾きあうよう。
「もういっちょォ!!」
また銛を回してから、今度は別の根っこに銛の刃を向けると、同じように水流は向かっていき、衝突して弾く。
「まだまだぁ!」
同じ動作を続けるグラム。
流石にこれだけのことをしてキツいのか、顔に汗が浮かんでいる。
「……あれだけの大規模な魔法、そうそう出来ない。既にある水を利用することと、彼が水魔法に特化していて、あの銛を舵にするから出来てること。
…………流石はSランク」
「そ、そうなんですね……」
「まあ、私には敵わない、けど」
「そうですか……」
人の救助に尽力しながら様子を見ていた二人は感嘆の声を漏らす。
「ゥラァァ!!」
遂には、この港にあった根っこの多くを弾いてしまったグラム。
よく見てみれば、弾かれた根っこは縦に一直線に並ばされている。
「道を作る!!」
今までで一番大きく銛を振る。すると、水流はうなり、グラムの下から、直線上に並んでいる根っこの手前まで伸びる。
「いくぞぉ!!」
グラムは銛を持つ手を、弓の弦を引くかのように後ろに下げ、力をためる。グラムの日焼けした筋肉が盛り上がる。
「貫け!! 一番銛!!」
グラムは自らの筋肉を躍動させ、身体を捻り、銛を力強く投擲する。
その投げられた銛はグラムの目の前を流れる水流に吸い込まる。 銛は水流の中を加速し続けながら進み、植物の手前でその道から解放される。
その水流を発射台にした銛の投擲は、地球のバリスタを軽く越える威力を秘めている。
ダァアアン!!
銛は根っこに吸い込まれるように飛んでいき、そのぶっとい根っこを貫いた。根っこには、銛の太さには似合わない程の大穴が空いている。
勢いそのままに銛は飛び、二つ三つと根っこを貫いていく。
遂には並んでいた全ての根っこにどでかい風穴を空けてしまった。
風穴を空けられた根っこは活動を停止して、地面に伏した。
役目を終えた銛は、迂回するように流れていた水流に吸い込まれ、グラムに回収される。
「はぁはぁはぁ…………まだ根っこは地面から伸びてくるかもしれない。気を抜かずに、住民の避難をさせろ、嬢ちゃんたち……」
大技を放って消耗した様子のグラムは肩で息をしながら二人をチラリと見た。
「やるね。一撃の貫通力だけなら、私に並ぶかも?」
クテイが、妙な上から目線でグラムを褒める。
「がはは。そりゃあ光栄だなぁ」
「二人ともなんでそんなノリなんですか……? いや、凄かったですけど」
ルキリヤは二人のやり取りに若干呆れながらも、グラムに感心している。
「これで大部楽に……ッ!!」
ルキリヤが呟くが、何かを察知したのか駆け出す。
(間に合わない!?)
「ど、どうした? ルキリヤ嬢ちゃん……?」
ルキリヤは咄嗟に腕を前に突き出す。
「【風刃】!!」
「なっ!?」
ルキリヤの手からは大きな風の刃が発射される。
その刃はグラムに向かって飛ぶ。
「何をしやがる! 血迷った……か、じょう……ちゃん?」
グラムの言葉が段々尻すぼみになる。
何故なら、ルキリヤから放たれた風刃はグラムではなく、別のものが対象であったからだ。
風刃はグラムの後ろの根っこを断ち切ったのだ。
「なにぃ!?」
見てみると、動きを止めた根っこの断面からまた別の根っこが伸びてグラムを襲おうとしていたのだ。
「クソッ! 油断した!」
グラムはその場から飛び退く。
「植物は切断されても再生するみたいです!!」
ルキリヤが叫ぶ。
(ルキリヤ、大技の直後とはいえ、Sランクのグラムでも気が付かなかった再生をいち早く察知した……? いや、それだけじゃない。ルキリヤは魔力が切れていたし、威力もあれほどは無かったはず……! 成長した? この瞬間に!? 回復した? この短時間で!?)
クテイはルキリヤに戦慄する。
今、目の前で、狼の獣人としての才能を開花させ始めて植物の攻撃を避け続けるルキリヤを目にしながら。
「あの子は、どれだけの……!」
クテイは自分の兄へと同じような感覚をルキリヤに抱いていた。
兄は底が見えなかったが、ルキリヤは成長がまるで読めないのだ。
この世界でもトップクラスの才能を持つクテイが感じた未知。
その時、クテイが抱いた感情は、――尊敬――だった。
しかし、今はその感情を押し込んで、いや、恐らくはずっと本人の前では決して見せないのだろう。
今まで通りの接し方を続ける。この瞬間そう決めた。
(ルキリヤは直ぐに調子に乗っちゃうしね。いじってて楽しいし♪)
「クテイさん! 住民は皆避難を終えました! 見たところ、死傷者はゼロです! 後はこれを倒すだけです!」
「ん! りょーかい!」
一先ずは、この化け物染みた再生力を持った植物を倒す戦いに、クテイも参戦することにした。
取りあえずは、避けた拍子に地面に落ちてた瓦礫につまづいて転びかけるルキリヤを支えて。
「すすすす、すみませんクテイさん。助かりました……」
「やっぱ、締まらない、ねぇ」
クテイは思った。
(やっぱり残念な子で固定で)
と。
戦闘シーン、ムズい。
言っておくと、ルキリヤは凄い成長を見せていますが、まだまだクテイやグラムには及びません。




