ギルドで依頼達成
「…………やりすぎだにゃ」
港町ミランの冒険者ギルドの受付嬢、シャルは感心と呆れがないまぜになったような顔で言う。
「そうですかね?」
それに答えるは、綺麗な銀髪ウルフカットから狼耳とエルフ耳が飛び出しているかっこいい系美女、ルキリヤである。
「ん~、まぁ、悪いことでは、ないよね」
相づちを打っているのは、これまた綺麗な金髪ショートカットからアホ毛が飛び出している無表情系美少女、クテイ。
「それにしてもにゃ~
…………ゴブリンを半日で五十匹って」
シャルが手に持っているのはルキリヤのギルドカード。そこには登録主が討伐した魔物が自動で記載されるシステムなのだが、作ったのは今朝、今は夕方。載っているのはゴブリン五十匹。
「頑張りました!」
ルキリヤが胸を張る。
魔力切れで若干ふらついているが。
「今朝見たときはゴブリン十匹倒せたらいい方だと思ったんだけどにゃ~。あっ、Dランクに昇格させとくにゃ」
「ん。ルキリヤ、成長した」
「いや、私なんて全然ですよ」
ルキリヤは風刃を覚えただけだが、0と1とは大きく違う。これからはもっと成長するだろう。
「あ、そうにゃ。クテイちゃんは多分メチャクチャ魔物を狩ってるよにゃ? そうだったらガード出してくれれば昇格出来るにゃよ?」
シャルはクテイの実力を踏まえて聞く。
「ん~…………じゃあ見てみて?」
クテイがカードを取り出してシャルに差し出す。
「どれどれ……」
シャルがクテイのカードを見てみるが、直ぐにかたまる。
「…………………………………………これ、マジかにゃ」
やっと再起動したと思ったら目を何度も擦り、確認する。
「ん。おおマジ」
「いやいやいや、ちょっと許容範囲を越えすぎにゃ……
私の想像の何倍も凄いんにゃけど。
大体なんにゃ!? これ!? Aランクの大獅子にテールレックス、他にもAランクの魔物が何体もいるにゃ!?
というか、ここここ、ここに書いてあるのって……」
「ん? あぁ。ワイバーン」
ワイバーン、Sランクに分類される翼竜。Sランクにしては絶対数が多く、遭遇率が高いが、それでもやはりかなり強い。
「え、Sランク……」
絶句している。
「ん。でも、冒険者登録したのは割りと最近だからその前にもSランク、何体も殺ってるけどね」
それを聞いて開いた口がふさがらないシャル。
(まあ、クテイさんならそのくらいは出来るでしょうね)
ルキリヤはそれほどでもないらしい。
「えーっとにゃ、言いづらいんにゃけど、昇格は無理にゃ」
本当に申し訳なさそうに言う。
「えっ? なんでですか! クテイさんが私と同じDランクなわけないじゃないですか!」
ルキリヤは憤慨する。
クテイの実力ならもっと上だろうと。
「ああ、そういうことじゃないにゃ。この町ではランクが高すぎて上げられないということにゃ。クテイちゃんは多分Sランク位には上がるにゃ。でもそれには人格の確認とか試験が必要で、王都とかの都市にあるギルドじゃないと上げられないにゃ」
「あ……なんだ、そういうことですか」
ルキリヤも納得したようだ。
「ということだから、王都とかに行ってランクは上げてほしいにゃ。ここだったらBランクまでは上げられるにゃ。しとく?」
「ん。お願いする」
シャルが受付の奥に引っ込み、ルキリヤとクテイの昇格手続きを始める。
「にしても王都ですか。どうしますか? クテイさん。ランク上げに行きます?」
ルキリヤがクテイに今後の予定を尋ねる。
「んー……ランクが上がると、権限が増えるから、おにぃちゃん探しにも役立つかも。だけど、あんまり目立ちすぎて勇者だとバレるのもこわい。んー、ジレンマ」
クテイが自分の手を擦りながら言う。
その手袋に隠された手の甲には勇者の紋章が浮かび上がっていることだろう。
「お兄さんに、クテイさんが探してるのをバレるかもしれなかったのはもう考えなくてもいいんですよね」
「うん。もうバレてるから、探すのはそこまでコソコソしなくてもいい。近づくと気づかれて逃げられるかもだけど」
「じゃあ、上げた方が良いのでは? 勇者だとはそうそうバレないと思いますし。Sランクのメリットの方が大きいですよ」
「んー、じゃあ、次の目的地は王都にする」
ということで次の方針が決まった。
「にゃー、できたにゃー。ルキリヤちゃんはDランク、クテイちゃんはBランクにゃ~。
クテイちゃんは分かりやすい功績があれば、もう一個はこの町でも上げらるれるんにゃけど……」
「た、大変だーーー!!!」
シャルの言葉を遮ってギルドに入ってくる人物。
ウエスタンな扉をバンッ! と開いて駆け込んでくる。
「なんにゃ、もう! 人が今喋ってるところにゃんだけど……」
「み、港で、謎の魔物が暴れてる!!」
「にゃ、にゃんだってーー!!
詳しく教えるにゃ!!」
そのまま受付で話始める二人。
ギルドにいた冒険者達も固唾を飲んでやり取りを見つめる。
「私達、忘れられてないですか…?」
「ん……そういう日もある、さ。なんか、一大事っぽいし」
ルキリヤとクテイの二人は蚊帳の外にされてしまっている。
「港で謎の大型の魔物が暴れてるんだ!
正体は不明! 少なくともこの町の近隣にいる魔物ではない!
地面から太くて長いものが無数に生えているんだ!
その触手っぽいのが暴れてる! 今は海鬼さんが一人で抑えてる! 援軍を頼まれたんだ!」
「正体不明!? どうなってるにゃ!」
「おい、聞いたか!?」
「ど、どうするよ!?」
「俺たち、援軍に行くか!?」
「いやでも正体がわからないんじゃ……」
「だ、だが……」
「海鬼さんを助けには行きたいけど……」
「それは勿論だが、俺達が行って何が出来る?」
混乱するギルド。
冒険者達もどうすればよいか分からず浮き足立っている。
次第にパニックになり始めるギルド内。
「これ、どうするべきでしょう? 私達も港に行くべきですよね?」
「ん。あと、三秒待って」
「?」
二人は冷静だ。
ギルドの混乱を眺めてそんなこと言っている。
クテイは、ぼーっとどこかを見て、耳を澄ませている。
「静まらんか!! 馬鹿ども!!」
クテイの言ったきっちり三秒後、ギルドに響く怒声。
ギルドの奥から人が出てくる。
辺りは静まり返る。
「私ははこのギルドのギルドマスター、ガゼムだ!!
この町を守るお主らがそんなざまでどうする!!」
ギルドマスターであるガゼムは歳をとっているが、筋肉を携え、覇気を感じさせる人物だ。
「今は海鬼が食い止めているのだろ!?
ならばお前らが出来ることを全員がやるべきだろうが!!
強いものは海鬼のサポートに! 弱いものは人の避難!
受付嬢は目撃者から魔物の特定! 他にも特技のある者のはそれぞれ出来ることをやれ!!」
ガゼムの声がギルドに染み渡っていく。
冒険者達も、受付嬢達も落ち着きを取り戻し、目に光が灯る。
「冒険者ギルド、ミラン支部、ここに緊急依頼を発生させる!! 被害を最小限にしろ!! 聞いたな!? 全員動け!!」
『ハイ!!』
ガゼムが言い切ると、人々は響くように一斉に動き出す。
「ね? 良いもの、見れたでしょ?」
クテイが口にうっすらと笑みを浮かべて言う。
「えぇ! 凄い人ですね!」
ルキリヤは少し興奮ぎみだ。
すると、ギルドの動きを見て、指示を出し始めたガゼムが二人を見つけて歩み寄ってくる。
「嬢ちゃん達! あんたらに頼みてぇ事がある」
ガゼムが二人を視線で射ぬく。
「ふふふ。面白い、ね。いーよ」
即答するクテイ。
「えぇ!? 私達ですか!?」
慌てるルキリヤ。
そうして二人はギルドマスターから直接の依頼を受けるのだった。
ブクマ、評価、お気に入りユーザー登録、感想、レビュー、よろしくお願いします!




