堕天使の人助け
森での同行を申し出たティルエに対し、
「何故ですか?」
ルキリヤは問う。
「初対面の相手の護衛みたいなことをするなんて」
これは純粋な疑問である。
ルキリヤはクテイに助けられはしたが、同時に人を疑うことも教えられていた。
「そ、それは……しゅ、趣味よ!」
ティルエは腕を組み、そっぽを向いて言う。
頬は相変わらずほんのり赤い。
「趣味……?」
疑わしい目を向けるルキリヤ。
「そうよ! 趣味よ! 悪いかしら!? 元悪魔の趣味が人助けじゃ!」
捲し立てるティルエ。照れ隠しなのだろうか。
「ん。悪く、ない」
「ふぇや!?」
ティルエの背後から急に可愛らしい声が聞こえてくる。
「あっ! クテイさん! 居たんですか?」
ルキリヤはその人物の正体をすぐに察する。
「ん。今来た」
スタスタとルキリヤの前まで歩み出てくる。
ちなみに、ティルエは驚いた姿勢のまま固まっている。
黒い翼を広げ、脇をしめて両手を胸の前で握りしめた状態で硬直している。軽くつま先立ちである。
「よくこの場所が分かりましたね」
ルキリヤはクテイに聞く。
「ん。私も何もせずにルキリヤ、森に放り投げるほど薄情じゃ、ない。おにぃちゃん仕込みの陰陽道、式神をつけてた」
クテイが視線を向けると、茂みの中から紙でできた猫が出てくる。
紙でできているとは言っても、ほとんど白猫だ。
「陰陽道……ってあれですよね。極東発祥の魔法みたいな」
ルキリヤは記憶から探る。
しゃがみこんで紙の猫を撫でながら。
「ん。そう。まぁ、魔法とはまた違うけど。おにぃちゃんは陰陽の術、得意だった。私も、少しだけ教わった」
クテイは式神を紙に戻し、異次元に収納しながら言う。
「へ~、クテイさんって極東出身なんですか?」
消えた猫を名残惜しそうにしながらルキリヤは聞く。
「ん? なんで?
…………ああ。違う、よ。おにぃちゃんの両親が極東出身」
クテイは一瞬呆けたが、直ぐに答えた。
ルキリヤは、“兄の両親”とわざわざ言ったことに疑問を感じ、追求しようとするが、
「って! 私完全に蚊帳の外なんですけど!?」
ティルエが再起動した。
「ってかその子何!? 可愛く……じゃない、強くない!? 私でも勝てるか分かんないんですけど!?」
と同時にクテイの実力を察したらしい。
「ん。はじめまして。私、クテイって言う。特別に、クーちゃんと呼ぶことを、許可する」
無表情ながら、キラキラした目をティルエに向け、握手を求めるクテイ。
「あっ、アタシはティルエって言うの……」
ティルエは握手に応じるが、
「ってなに普通に自己紹介!?」
この展開の急さに気付いたようだ。
「ん~、私、悪魔由来の堕天使、はじめて♪」
クテイはニコッと微笑む。
「グフゥ!?」
ティルエはクテイの笑顔を向けられて、握手とは反対の手で胸を押さえる。
…………その、十分に巨乳の分類に入るであろう胸を。
一瞬、クテイの目からハイライトが消えかかるが、直ぐに純粋な目に戻る。
「んー、何か、困ってること、ない? 手伝ったげる。報酬は、その羽と角を触ること」
ギラッとクテイの目が光る。
ティルエより余程小悪魔な笑みを添えて。
「ひぃ!?」
ティルエは何かしら身の危険を感じたらしく、クテイとの握手をやめ、距離をとる。
「そ、そ、それじゃ、クテイが居るし、アタシは必要なさそうね! ルキリヤとクテイって言ったわね。覚えとくわ! それじゃまた!」
ティルエは翼を広げ、飛び立ってしまった。
「……クテイさんって時々積極的ですよね」
ルキリヤは飛び去ったティルエの方向をなんとなく見ながら呟く。
「ん。それほどでもない。我が家において、私が最弱。……スキンシップ関連では」
「そ、それは……」
ルキリヤは暴走したクテイが複数いることを想像し、鳥肌をたてた。
私が餌食になったらどうしよう……? と。
いずれはクテイ兄を主としたハーレム展開にしたいなあ。
まあ、まだまだかかりそうですがね。
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