ルキリヤ育成計画
より多くの人に読んでもらいたい。切実に。ゆーくんの願い。
ここは鬱蒼とした森のなか。ゴブリンやコボルト等の人型の魔物や、猿や狼等の獣型の魔物が生息している。
そしてこの森はクテイが兄探しに立ち寄った町から【港町ミレア】への近道でもある。
その森のなかを歩く人間二人。
クテイとルキリヤだ。二人はクテイの異次元空間に荷物は収納しているので手持ちの荷物は少ない。
「ん。ルキリヤ」
クテイが歩きながら隣を歩くルキリヤを見る。
クテイは最早定番になりつつある砂色の外套を身に纏っている。一応顔は出していて、歩く度にアホ毛がにょんにょん揺れている。
外套は少し暑そうに見える。
「なんです?」
それに答えるはルキリヤ。
エルフの血が半分流れているからか、虫には刺されにくいらしく、ズボンはデニムっぽい素材のホットパンツを履いている。靴はブーツ。
上はノースリーブの上に大きめのシャツを羽織り袖を捲って半袖にしている。
露出は多いが下品な感じは皆無である。
活発かつ、格好いい装いだ。
コーディネートした何処かの麗人(?)のセンスが窺える。
クテイが口を開く。
「その胸、消え去ればいい……」
なんの脈絡もない。
ルキリヤの薄着によって強調されている胸を忌々しげに睨みながらクテイはこぼす。
「なんですかいきなり!?」
前を向き歩いていたのを、その呟きを聞き即座に首をグリンっと横に向けツッコむ。
まあ、当然の反応だ。
「ん。いい間違えた。
…………これからのことだけど」
「何をどう間違えたらそんな言い間違いを!?」
“これからのこと”と“胸が消え去ればいい”を言い間違えたらしい。全く似ても似つかないが。
この言い間違いをは故意か、はたまた、ふとこぼれた本音か。
本音だとしたらそれほどまでに巨乳を恨んでいるのだろうか?
まあ、クテイのその少々未発達気味な胸を見れば察せられるが。
「ん。これからのことだけど」
「あっ、何事も無かったかのように続けるんですねー、分かります」
ルキリヤの適応力の凄さである。
「ルキリヤの修行、する」
「私の修行ですか?」
首を傾げるルキリヤ。
「ん。ルキリヤも、一人で大丈夫なくらい、強くなる」
「えぇっ!? 捨てられるんですか私!?」
クテイがルキリヤに告げる。
ルキリヤは捨てられると思い、クテイにしがみつく。
「ん~!! 離して! そういう、意味じゃない、から!」
一人でも大丈夫なくらい=一人で生きていけ
とルキリヤは勘違いしたようだ。
「ほんとですね!? ほんとに捨てませんね!?」
既に捨てられた子犬のような目をしているルキリヤは念を押す。
「ん。捨てない…………今のところ」
「最後ぼそっと付け足しましたよね!? 私の耳のよさを舐めないで下さい!」
ルキリヤは騒ぎながら四つの耳をぴょこぴょこと動かす。
とまあ、こんなふうに元気よく話していると当然魔物も寄ってくるわけで。
二人の前方にある樹の葉の隙間から赤い目が覗く。
「グルァ!!」
樹の上から大きな虎型の魔物が降り立ち、二人の前に立ち塞がる。
「ほら、騒ぐから」
ジト目をするクテイ。
「私ですか!? 私が悪いんですか!?
そーですね! 全面的に私が悪かったです! ごめんなさ~い!」
相変わらず騒がしい。
「ま、ちょーどいい。見てて?」
スタスタとクテイが虎の前に立つ。
「ルキリヤは魔法も、身体能力も、期待できる。
魔法剣士とか、目指してほしい」
「エルフだから、精霊魔術とか、いけるかもだけど。私は無理。取りあえず魔法と剣を見せる」
「ゆーしゃ、ぱうあー使えば、聖剣とか出せるけど、今は数打ちの剣で。ゆーしゃ、ぱうあーの魔法とかは使わないで」
クテイは喋りながら異次元空間から剣を取り出す。
過度な装飾は無いが、そこそこの業物だ。
クテイは勇者の力を極力使わずに戦って見せると言うのだ。
「これがルキリヤの目指す道」
クテイは右手に剣を、左手に魔力を用意する。
「知ってるだろうけど、魔法は、基本属性が四つ。それの派生が無数。特殊が無数にある」
左手の魔力が変質していく。
「またあとで全部見せる。今は基本属性、風を使う」
「さあ、いくよ? にゃんこ」
警戒して唸っていた虎に向かい、駆け出す。
「グルア!」
虎はその場から動かず迎え撃つようだ。
クテイは走ると、虎の前十メートル程で跳ぶ。
虎に向かい、剣を振りかざし飛びかかる。しかし、そんな見え見えの攻撃を素直に虎が受けるはずもなく。
「グォォ!」
その爪を振りかぶる。
放物線を描き虎に飛びかかっていたクテイ。その軌道上に爪での攻撃をしかける虎。このままいけばクテイは爪に切り裂かれてしまうだろう。
しかし、
「風魔法、天駆け」
クテイは空中で空気を踏みしめ、跳躍する。
俗に言う二段ジャンプだ。
「グル!?」
虎は狙いが外れ攻撃が当たらず動揺する。
「甘い」
クテイはその後、何度も空中で跳ね、虎の周りを飛び回る。
虎はクテイを捉えきれない。
「風魔法、風刃」
虎の死角で左手に溜めていた魔法を解き放つ。
しかし、流石は虎か。腐っても虎なのか。
ギリギリで気付き、それを避ける。
「グルア!」
風刃は僅かに虎の体を切り裂くにとどまった。
だが、それは虎にとって僅かな延命にしかならなかった。
「ん。残念。魔法は陽動」
避けた先に先回りしていたクテイ。
その手に持つ剣が煌めく。
***************
「これをルキリヤにはやってもらいたい、の」
クテイは虎の死体を異次元空間に収納してからルキリヤの下へと戻ってくる。
あれだけのことをしておきながら、歩くのがトコトコとした様子なのだから面白い。
「……」
「ルキリヤ?」
ルキリヤは固まって動けない。
クテイは思う。
そういえばルキリヤはずっと静かだったような……?
「ルーちゃん?」
クテイはルキリヤの体を揺する。
普段はしない呼び方をついでにしながら。
「…………はっ!?」
ルキリヤが現実に戻ってくる。
「いやいやいや! 無理ですって! あんなん出来るビジョンが浮かばないですよ!?」
ルキリヤが首をブンブン振る。
「んーん。出来る、出来ない、じゃないの! やるの!」
クテイの目は燃えている。
もっと熱くなれよ! と言わんばかりに。
「えぇー!? …………まあ、やれるだけやりますけど」
ルキリヤはクテイの熱意に負け、しぶしぶ諦める。
取りあえず頑張りますか、と。
「ん。ならよし。それじゃ、歩きながら、授業する、よ?」




