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気付けば異世界で石になっていたのだが  作者: 利苗 誓
第1章 様々な生き方
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第7話 女騎士との邂逅



「全然出口が見えないね、猫ちゃん」

「みゃー」


 俺は返答する。

 狼の襲撃から二十分、俺と少女はまだ森を徘徊していた。

 今まで百五十六回の転生を行ったが、一度も森から出ることが出来なかったことからも、容易に脱出は出来ないということが分かる。

 森に一年以上閉じ込められ、毎日襲い掛かる獣たちと戦闘を繰り広げていた生涯もあった。

 だが、俺が少女と出会ったのは森のどの辺りだったのだろうか。一少女が一人で森の奥地を徘徊できるとは考えられない。

 今回は森の出入り口に近いところに転生されたのかもしれないな。

 この少女は親からはぐれたのだろうか、それとも一人で森の中を彷徨っているのだろうか。出会ったときに泣いていたことから親とはぐれた可能性が高い気がするがどうなのだろう。

 だが、こんな魔物だらけの森にやってくる大人というのは一体どういう人間なのだろうか、聖騎士や名の通った冒険者なのかもしれない。

 俺は、ぐるぐると思考の渦を展開させながらも森の出口を探し、とうとう出口を見つけた。森が終わり、開けた平地がすぐ目の前まで迫っていた。

 あぁ、久々に自然の陽光を全身で浴びることが出来る……。


「猫ちゃん、出口見つけたね」


 少女は喜びと共に俺に声をかけてくる。俺も喜びながら、少女の腕から抜け出し、出口へと飛び出した。


 飛び出したその瞬間、俺は自分に向かってくる光の刃を見た。


「にゃ!」


 俺は三筋の光の刃を躱し、光の刃が射出された直線状に振り向いた。


「貴様離れろぉ!」


 精悍な顔つきで逞しい体をした一人の女性が裂帛の気合と共に、俺に向かって突貫してきた。


「ふーっ!」


 俺は少女から距離を取り、その女騎士を睨みつけながら油断なく構える。見ただけでかなりの実力者であることが分かる。もしかしてこの女騎士がこの少女の母親だったりするのだろうか。

 そうして女騎士と対峙すると、女騎士はゆっくりと俺と距離を詰め、少女に近寄った。もし少女に殺意を感じられれば即刻殺すつもりだったが、生憎殺意は全く見られなかったので取り敢えず状況を俯瞰することにした。

 俺がゆっくりと距離を取っている事を見て、女騎士は少女に言葉を投げかけた。


「大丈夫ですか、クロワ様!」


 どうやら少女はクロワという名前らしい。

 女騎士はクロワに駆け寄り、少女の安否を確認する。どうやら母親ではなく護衛の者か何かみたいであったが、少女は激発し、女騎士にその感情をぶつけた。


「止めて! 止めてよ、猫ちゃんをいじめないで!」


 俺の心配だった。やはり、優しい。俺を森の案内役に使っていたなんてことはなかったみたいだ。まぁそこまでの知能を持っている年でもなさそうであったが。


「クロワ様、駄目です。あれは確実に魔物の類です。尻尾が三叉に分かれているのをよく見て下さい。あれは『追跡猫ホーミングキャッツ』といわれる魔物です。今まで知能ある追跡猫にあったことはありませんでしたが、あれはどうやら知能があるみたいですね。おそらくクロワ様を保護したように見せかけて後で食べるつもりだったのでしょう」


 女騎士は自分の意見を一方的にクロワに押し付けた。意図的なのか、女騎士も焦っているのか。

 それにしても心外だ、俺はそんなことはしない。というか、俺は『追跡猫』なんて大層な名前を持つ魔獣になっていたのか。道理で魔力も体内からひしひしと感じられる訳だ。

 しかし少女は、俺の魔物性を説得力を持って一方的にまくしたてた女騎士にも屈さず、反駁した。


「嫌! あの猫ちゃんは私を守ってくれたもん!」


 少女もまた、説得性を持った言葉で女騎士を屈服させようとした。勿論そのような意図はないのであろうが。


「そ、それは……」


 と、女騎士は言葉に詰まった。


 が、森の中でこんなことを言い合っていることは間違いだった。森の中は魔物で溢れており、善か悪かの論争をし、立ち止まっているような安穏さはなかった。

 俺は気付いていた。が、動けなかった。


 今ここで動けば女騎士にまた攻撃される可能性が高い、と分かっていた。

 しかし事態は急変し、動かざるを得なかった。クロワと女騎士が言い合っているうちに、背後からとんでもなく高出力の魔力を放っている魔物が近づいていることに気付いた。


 確実にヤバい奴だった。魔力量で言えば俺をはるかに凌ぐことがひしひしと体感できた。俺と女騎士とで協力し合って戦っても、少女を逃がすことが出来るかどうかさえ怪しいような、そんな魔力量を持つ相手だった。


「なんだ貴様らは」


 徐々に俺たちに近づいてきたそれは唐突に姿を現し、そういった。

 口論していた女騎士もそれに気が付き、相手を見るや否や瞠目した。


 魔族だった。


 魔物でも魔獣でもない、魔力を有する者の中で最上位種であると言われる魔族。

 体内に大量の魔力を有しているそれらは会話することも出来、俺が野蛮な魔王の元で下位魔族についたときでさえ相当量の魔力を持っていることが感じられていた。


「な……」


 女騎士は言葉を失い、顔を青ざめさせる。

 俺たちが動けずにいると、その魔族は不意に腕を振るい、俺と魔族の間一帯が一瞬にして焼けた。


 ヤバい。


 俺は確信した。


 どうすればいい。ここで女騎士と協力してこいつを押しとどめ、少女を逃がすべきか。しかし、女騎士は俺に対する警戒心が抜けきっていない。俺と共に戦うにしても俺への警戒もすることから動きは精細を欠くだろう。


 どうすればいい、どうすればいい。


 そう考えているうちにも、魔族はこちらにやって来る。焼けた野原の中を悠然と歩き、俺に寄って来る。

 俺は寄って来るスピードに合わせて後ろに下がる。


 俺の背後には女騎士と少女、どうすればいい。




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