第5話 迷子の少女
俺は何度目とも知れない森の中にいた。
今回の母体の能力の検証をしてみる。
「みゃー」
なるほど、どうやら今回は思考の伝達は出来ないものの、言葉を発することは出来るようだ。
イノシシや熊の場合においても言葉を発することは出来たが、猫は前者に比べて鳴き声による喜怒哀楽の表現の幅が非常に広い。
「みゃー!」
怒ってみた。
「みゃぁ~」
媚びてみた。
「みゃっ!」
喜んでみた。なるほど、中々どうして分かりやすい。
魔族の頃は喋ることも出来たが、野蛮な魔王に仕え敬語を強制されるような人生とは喋れることの重みが格段に違う。
あれなら喋れない方がまだましだった。
「みゃ~」
俺は辺りに注意を払いつつも歩き、森を探索する。
転生を繰り返すことによって多少の魔物に襲われたことでは死亡しないようになっていた。
この母体にも魔力がふんだんに感じられた。百五十六回の人生を経験し戦闘のエキスパートとなった俺は、多少の実力差は簡単に覆せるほどの不条理を身に着けていた。
それにしてもどうして百五十六回もの転生を繰り返したのにも関わらず人間にはなれなかったんだろう。
俺はここにきて初めて転生の原理を考えてみた。
どうしてだ。
どうして俺は人間への転生が出来なかった。
どうしてだ。
どうして俺は転生を繰り返すたびに魔力が上がっている。
どうしてだ。
どうして俺は何度も転生を繰り返すことが出来る。
どうしてだ。
どうして俺は転生の度に魔物に襲われる。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
化け猫での人生を五時間消費し、俺は考える。
今までになく魔物に襲われていない。
安全が思考を加速させた。
俺が人間に転生出来なかった理由、それは俺の人生に起因しているのか、どうして転生の度に魔力が高まっているのか、どうして何度も転生を繰り替えすことが出来ているのか。
ガサガサゴソッ
「!?」
そんな思考の渦に入っている最中、突如近くで動物の気配がした。
その動物は茂みを揺らしている。というか、揺らしすぎである。
何をやっているんだ、ここまで気配をダダ漏れにしていれば即座に殺されるぞ。
俺は百五十六回もの転生から得られた知識を活用し、来たる相手に殺意を向ける。
そしてそいつは唐突にやってきた。
「ぐすっ、ずず、うぅ……」
人間だった。小さな女の子が、そこにいた。
顔は恐怖で歪み、迷子にでもなったのか、そこら中に傷跡が見える。
目に涙を溜め、泣かないように必死に我慢しているが、そのせいで洟を垂らし、頻繁に鼻を啜っている。
とても可哀想な状態の女の子が森で、迷っていた。