第4話 転生の記録
目が覚めた。
転生した。何度俺は死を経験するんだろう。
俺はイノシシになっていた。鋼鉄の体躯を持ち、巨大な顎門には金の歯牙がついている。
森の中にいた。俺は辺りを十分に探索することも出来ず、また魔獣に襲われる。
俺は奮闘した。これ以上転生を繰り返してなるものか。
偶然何度も転生出来ているだけであって次が必ずあるとは限らない。
イノシシの俺も魔獣であるにも関わらず他の魔獣に襲われる。元は人間であることがバレているのか、それが魔獣の習性なのか。
俺は、大勢の魔獣を相手に大立ち回りし、数十匹の魔獣を屠った。だが、奮戦敢え無くまた死亡する。今回は三時間生きることが出来た。
その後、俺は何度も転生を繰り返した。あるときは双頭のアナコンダもどきの邪悪な蛇に。
あるときは猛毒を持つ巨大な蛙に。またある時は体のサイズを変えることが出来るステルス能力持ちの蠍に。ある時は目に見えない程の小さなハエに。触手を伸ばし寄生能力を持つあの時期は、生きていて苦痛だった。
その後も転生を繰り返す。巨大な爪を持ち、その巨体に見合わない速さの熊に、動きは速くはないものの力の強い虎に、魔獣を超越し、言葉を操ることのできる下位の魔族になったりもした。
転生の際にはいつも魔獣や魔族に狙われ、転生後に何も殺さないことがなかった。
魔族になり言葉が操れると知った俺は、即座に異世界の人間とコミュニケーションを図ろうと考えたが、過激派である魔王に仕えることを強制され、奴隷として死亡した。
俺はありとあらゆる転生を行うことで様々な生き物としての戦い方を学んだ。
戦闘形態が変化するごとに戦闘方法を変え、俺の生存時間は転生を繰り返すごとに徐々に増えていった。
バッタの時でこそ三十分しか生きれなかったものの、その時間は一時間、三時間、八時間、一日、と伸び、今や一度転生すれば一年は最低でも生き延びることが出来る。
そして、転生を繰り返せば繰り返すほど体内に魔力が溜まっていくのが分かった。
転生した後の母体が徐々に強くなっていったことが原因なのか、前回の転生時の魔力を持ち越しているのか、真実は定かではない。
ふっと目が覚めた。この感覚も何度目だろう。
何度経験しても、闇に放り出され五感が戻ってくる感覚は慣れない。
俺は三又の長い尻尾を持つ化け猫になっていた。
化けた後の姿は酷く神秘的で龍にも似ており、日本でなら人間に奉られているレベルだ。
俺は化け猫としての人生を送ることになった。
そして、都合百五十六回の転生を終え、今回の化け猫としての人生において、それは唐突に訪れた。
人間との邂逅である。