第2話 魔獣として
目が覚めると、そこは草むらであった。
結局あの後モンスターにぶつかり、バラバラになったのだろうが、所詮俺は石ころ。
バラバラになっても死なない………か……、安心と同時に諦観も感じながら、辺りを見回す。
そこは、見慣れた草むらとは違った。背の高い草が生えているところは似ているが、木が所々に立ち並んでいる。
森の中だと、そう直感した。
モンスターにぶつけられた後ここまで飛んできたのだろうか?
見慣れない景色に心をわくわくさせる。
何十年ぶりだろう、新しい景色を目にするのは。半世紀ぶり以上なんじゃないだろうか。
嬉しくなり、心を跳ねさせる。
ぴょんぴょんと小さくジャンプし……………………。
ジャンプ……?
脳に不可解な現象が起こった。信じられない出来事に誤作動を起こしているのだろうか。
足を踏み出してみる。
踏み出すことが出来た。
……、その後飛んだり跳ねたり歩いたりと試行錯誤を繰り返すことで、今の俺の状態が分かった。
おそらく俺はバッタになっていた。いや、正確に言えばバッタのような何か、であるが。
俺は自分の足で自由に動けることをこのうえなく幸せに思い、後ろ足に力を込め、再度跳躍してみようと試みた。
異世界のバッタは生前のバッタとは酷く異なった。跳躍を開始しようと試みたそのとき、光の粒子の奔流が足に流れ込み、超跳躍を実現する。
(俺……跳んでるーーーーーーー!!)
その跳躍は森の上高くまで抜け、森を俯瞰することすら出来た。
石ころ人生を数十年体験していない、普通の人間であったとしてもこんな絶景を見ることが出来れば幸福を感じるだろう。
そして自由落下の後、地面に降り立つ。
石ころ人生が終わり、バッタの人生……いや、昆虫生となったにも関わらず、俺は酷く冷静であった。
一ミリも動かない人生を何十年も過ごし、俺の思考は極度に加速していた。
信じられない出来事にも即座に対応することができた。
(ひゃっほぉーーー!)
俺はぴょんぴょんと草むらの中を駆け回る。
謎の光の奔流の細やかな使い方も修得し、自由自在にバッタバッタと、あ、バッタだからとかじゃないよ。
ばったばったと飛び回る。
(へいへーーい!)
心中で喜びを噛みしめる。だが、数十年を石の上で、いや、石で過ごした俺にしては迂闊なことに、敵の存在を忘れていた。
動けることに有頂天になった俺は生前と同じく周りを警戒せずに動き回っていた。
それが失敗だった。
再度足に力を込め、超跳躍を行使しようとしたそのとき、突如カラスのような黒い鳥が俺のそばに降り立ち、鋼鉄製の嘴をあんぐりと開け、物凄い吸引力で周囲の草や木、土や微生物を吸い込んだ。
俺は為すすべもなく、取り込まれる。
こうして、学習することなく俺はまた、闇に放り出された。