第1話 抗争の果てに
五十年の時を重ね、すでに俺は悟りの境地に入っていた。
(今日は何故か近くにモンスターが多いな……)
聖人の俺はそう思った。
(遠くに冒険者も見えるな)
聖人の俺はそう思った。
モンスターが冒険者に近づき、石である俺が、魑魅魍魎たるモンスターに踏みつけられていく。
勿論痛みも感じるが、既に痛覚などとは無縁なほどに、意識を恣意的に切り離すことが出来た。
モンスターと対峙して、冒険者が団体になって油断なく構えている。
モンスターが止まる。
冒険者は構える。
何が起こるんだ!?
(おおっと!モンスターと冒険者の戦いが今幕を開けようとしています!)
なんとなく実況してみる。
モンスターの咆哮を皮切りに、両者の戦闘が開始した。
そこからは、血みどろだった。
モンスターも冒険者も必死の形相で大立ち回りを繰り広げ、ただの石ころである俺も熱が入る。
いや、熱なんてどこにも入らないのだが。
一見するとモンスターが有利に見えるが、数の多い冒険者の方が余裕を残している感じだった。
数時間の死闘の果てに、ついにモンスター側はリーダー的存在を残すのみになった。
冒険者は一斉に飛びかかるも、容易く吹き飛ばされる。
魔術師と思われる冒険者たちが魔法を行使する。
刹那、俺の視界が開けた。
いや、開けたわけではなかった。俺が冒険者の行使した魔法により、浮遊していた。
まさかこれは『石つぶて』とかそんな魔法などではないだろうか。
『石つぶて』、石を魔法で操り相手にぶつける低位魔法。
その効力の範疇に、俺もいた。
他の石たちも等しく浮遊している。
これはぶつけられるんだろうか。
もしぶつけられたなら、俺はそれでも無事でいられるのだろうか。
石の命は、粉々になれば終わる、そんな気がした。
人間は蹴られても小便をかけられても死なないが、さすがに粉々になれば死ぬ。
石の俺が石の人生を心配する。このままぶつかれば生前のトラック事故と似たような結末をたどる気がした。
(嫌だ! 死にたくない!)
ここにきて初めて生きたいと、そう思えた。
だが、現実は悲惨だった。
俺は生に執着するという思考を残したまま、強そうなモンスターにぶつけられた。
体が粉々に砕け、今まで感じたことのない痛苦に苛まれる。
意識は遠のき、そこでまた闇の世界に放り出された。