第17話 条件 2
俺が暴力を禁止すると言った所を見て調子に乗っていたようだから、人間側にもそれなりの威圧感を与えた。
「提案がある、魔王。私は……私はどうなってもいいから、他の皆を見逃してくれ!」
凄絶な剣幕でフェレナが牢屋にしがみつき、俺に懇願した。
だが、俺はそれを許さない。
「無理だ」
「頼む、私に出来ることならなんでもする! 頼む、許してくれ!」
「許さん。貴様ら、余の眷属を殺しておいてただで帰れると思っているのか?」
俺は壮絶なオーラを、人間側に飛ばす。
フェレナを含む人間全員が恐怖にすくみ、ぶるぶると震えあがった。
「た……頼む、頼む、魔王! 私はどうなってもいい! 恥辱にまみれ、慰み者になり、玩具のように扱われ、そしてそこで生を終えても構わない! だから……だから、皆のことは見逃してくれ!」
何故そこまで悪辣な人間……魔王だと思われているのか。そんなことはしない。
「ほう……」
だが、こう返答するほうが魔王っぽいと思ったので、魔王らしき言葉を返しておく。
上手く扱えば、俺を助けてくれた女の子と再会できるかもしれない。あれから何年経ったのかは判然としないが、あるいは人間側の協力があれば何か分かるかもしれない。
それも、リーダー格の女なら街の事情にも、魔物の事情にも詳しいだろう。
「なら、余からも条件がある」
「な……なんだ⁉」
指を立てて交渉するよう約束すると、女騎士は目を輝かせて牢屋の鉄棒にしがみついた。
俺は嗜虐芯に満ち溢れた顔で、
「脱げ」
そう、命令した。
「…………え?」
茫然と目を丸くして女騎士は立ちすくむ。女騎士を僕にして、裏切られればたまったものではない。と言っても、契約をすればそんな可能性もないのだろうが、万に一つを考慮するべきだ。
こんな衆目の前で脱衣を試みるような女ならば、ある程度の信用が置けるのかもしれない。
「く……」
女騎士は歯を食いしばり、俯いている。
俺は更に女騎士に言葉を継ぐ。
「ほう…………それがお前の本性か。皆を助けるなら何でもすると言っておきながら、ただ服を脱ぐことすら出来ない、生半な信念。そんな中途半端な信念だから、お前は余にも負けたのだろう。第一お前は――」
滔々と言葉を継いでいると――
「うああああああああああぁぁぁぁ!」
狂ったように、女騎士は服を脱ぎ始めた。
「そんな、そんな生半端な気持ちでお前を殺しに来たわけじゃないぞ、私はぁ!」
俺に言われたことがよほど答えたのか、狂ったように叫びながら服を脱ぎだした。
なんか怖い。
「うああああぁぁぁ……あっ」
俺は女騎士に手をかざし、動きを止めさせた。
服は全ては脱げていない。
「合格だ、女。第一条件はな」
「第一条件……」
要求にさらに要求を重ねるのが魔王の常套手段だ、とでも言いたげな顔でこちらを睨んできた。
「まだ条件があるのか」
「ああ」
俺は二本目の指を立て、
「お前らは全員余の配下になれ。余の地で余の配下として、下僕として生きろ」
そう、言い放った。
「ふ…………ふ」
それを聞いた人間達は顔を赤くして――
「ふざけんじゃなぇぞクソ野郎がぁ!」
大声でがなり立てだした。
「ふざけんじゃねぇ! 誰がお前なんかの配下になんてなるか! 俺らはお前のせいで……お前のせいで家族を失ってんだぞ! お前の配下になんてなるなら、死んだほうがましだ! くそ!」
「俺もだ! お前のせいで俺の家族は皆死んだ!」
「私もよ!」
続々と恨みが伝播し、俺に憎まれ口が叩かれる。
どうしようもない奴らだな。