第16話 条件 1
魔王城の最上階へと上がり、牢屋に入った人間と魔族とが目を覚ますのを待った。
先に目を覚ましたのは、魔族側だった。
「こ……ここは……」
数多く昏倒している魔族の中でも唯一、一人だけが目を覚まし、こちらに視線を向けてくる。
「あなたが新しい魔王様…………なのでしょうか……?」
「ああ、そうだ」
俺の姿を見て、胡乱げな顔をする。
それも当然だろう、今の俺は童子の姿であり、とても威厳がありそうなものではない。前魔王の方がよっぽど威厳に満ち溢れていた。
「此度の戦争をお止め頂き、誠にありがとうございました……!」
だが、存外魔族は柔軟で、すぐに膝を折り、俺に頭を垂れた。
「ほう……中々見どころのあるやつだ」
「勿体なきお言葉でございます……」
魔王となったので、口調も魔王然としたものにしているが、未だに慣れない。
それから暫く起き上がった魔族と話していると、暫くして魔族も人間も起き上がって来た。
魔族は起きるや否や俺に視線を向け、
「魔王様ですか⁉ 早く、早く人間どもを抹殺してください!」
「人間を皆殺しにしてください!」
などと、物騒なことを口にした。
どうやら、最初に起き上がった魔族とその後に起き上がった魔族では意識に大きな差があるらしい。
人間側はなすすべもなく俺の咆哮で昏倒してしまったので、真一文字に口を閉じ、俯いて顔を真っ青にしている。
「おい、貴様らの中で最も地位の高い者は誰だ」
俺は魔族側の牢屋と人間側の牢屋とを交互に見やり、質問した。
「私です」
「私だ」
魔族側の牢屋からは最も早くに起き上がった魔族が、人間側の牢屋からはフェレナが手を挙げた。
「もういい…………好きにすればいい…………。煮るなり焼くなり好きにしろ……」
フェレナは何もかもを諦めたように俯き、人間側にもはや気勢の欠片も残っていなかった。
方向だけで全員を昏倒させてしまったのは少しやりすぎだっただろうか。
「ひゃっはーーーーーーーーー! 死ね、クソ人間共ぉ!」
「魔王様、早くこの牢屋を開放して私共に人間を殺させてください!」
魔族側の牢屋からは依然として物騒な言葉が聞こえてくる。
俺は魔族側の牢屋を見ると、
「余はもう戦争はせん。余は戦争は嫌いだ」
そう、言い放った。
魔族側は俺の言葉を聞くや否や押し黙り、誰もがポカンとした顔で口を開けて俺を見ていた。
「え…………何故ですか、魔王様?」
と、魔族の一人が口を開いた。
恐らくは前魔王が余りにも暴力至上主義だったため、その剣族である魔族にも暴力至上主義が伝播してしまっているのだろう。
「余は戦争や暴力は好かん、前魔王は暴力至上主義だったようだが、少なくとも余が生きている内には貴様らに戦争はさせん。自己防衛以外の全ての暴力は禁止だ」
「そ…………そうです…………か……魔王様……」
魔族は何か言いたげな顔をしているが、押し黙っている。
「な…………なら、俺たちはどうする気だ⁉」
俺と魔族の交渉を静かに見守っていた人間側の一人が、俺に口を開いた。
「俺たちはどうする気だ⁉ 復讐として殺す気か⁉ 帰せ、俺たちを故郷に帰せ!」
「そうだそうだ、帰せ!」
「帰せ帰せぇ!」
一人を皮切りに多くの人間が帰せ帰せと言い放って来た。
俺は静かに口を開く。
「黙れ」
「「「………………」」」
俺の一声で、静寂が場を支配した。
「何様のつもりだ、貴様らは。余の言葉に全く耳も傾けず、いたずらに余の眷属を殺して回る。攻め込んで来たのは貴様らからだろう。勿論、貴様らはただでは帰さん」
「そ…………そんな…………」
「もう終わりだ…………」