第15話 戦争の終結
地面が、隆起する。
フェレナを抱きかかえ崖下に飛び降り、着地地点の周囲に一塊になった多くの土片が舞う。
「皆、逃げろっ!」
俺の行動を予測したのか、フェレナが悲痛に叫んだ。
人間たちは魔族と殺し合いながらも、俺に注意を向ける。
もはや人間たちは止まらない。魔族もただ殺される訳にもいかないため、殺し合う。
俺は肺いっぱいに、息を吸い込み、
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
咆哮した。
先ほどの威嚇とは違う、全力の咆哮。
数多の竜が一斉にブレスを吐き出したかのようなその轟音に、地も、城も、木も、人も、魔族も、果ては空までもが、一斉に震撼した。
咆哮を聞いた者は人間も魔族も関係なく、即座に地に倒れ、頽れる。
抱きかかえていたフェレナには魔力の障壁を張ったので、俺の咆哮の一切は耳朶を打たなかった。
俺を除いて、誰も立っていなかった。
「こ……これは……どういう…………な…………」
眼前の惨状を見たフェレナがわなわなと震え、言葉にならない声を喘いでいる。
俺はフェレナを地に降ろし、魔法を行使した。
人間側と魔族側に分断し、その両者を一塊に集めた。
右手側に人間達が、左手側に魔族たちが。
俺は火急で牢屋を召喚し、その両者をそれぞれ分かれて入れさせた。
同じ牢屋に入れれば牢屋の中ですら殺し合いをし始めかねない。
「どうして…………負け…………私たち…………」
フェレナは先程から生気を失い、廃人と化したかのように譫言をつぶやいているので、ひとまず放置することにする。
俺はフェレナを抱え、二つの牢屋を浮遊魔法を使い魔王城に運んだ。
こうして、人間側と魔族側の戦争は、終結した。
人間と魔族の入った牢屋を魔王上へと運びながら、俺は漫然と考えていた。
牢屋を召喚するという生成魔法、咆哮により相手を麻痺させるという状態異常魔法、牢屋と自分とを浮遊させる浮遊魔法、その全てを容易に行使することが出来た。
何も考えず、まるでそれが自分の体の一部かのように、行使した。
輪廻転生の際によくある現象ではあるが、言いようのない全能感を得ることが出来る。
牢屋を召喚することが出来たことも、咆哮により麻痺効果を付与することが出来るであろうことも、自分が浮遊魔法を使用できることも、全て織り込み済みのように、使用した。
有事の際にはまた無意識的に使用することが出来るのかもしれないが、これは魔法という事象に関して少々実験的なことを行う必要がありそうだ。
魔王上に辿り着いた俺は魔王城の中に入る前に、首をめぐらせた。
辺り一帯紫に染められたまがまがしい大地、地球にいた頃とは大違いだ。
いや、地球でも赤い土などは見ることはあったが、紫の土は見たことがない。
これは肥沃が故に紫へと変色しているのか、あるいはその真逆か。
木も力なく枯れ果ててあり、風情の欠片もない。葉一枚もつけることなく、細々とした樹が散在している。
元々葉を付けない種類の木なのかもしれないが、おいおい調べるとしよう。
俺は鉄扉を押し、魔王上の中へと入った。
魔王上の中にも多くの人間が侵入していたが、俺の全力の咆哮を放ったことで、ここにいる人間達も皆気絶していた。
俺は人間と魔族とに分けながら、掃討していた。人間側を牢屋に、魔族側を牢屋に入れ、魔王城の最上階へと上る。
今回の戦争で出てしまった多くの犠牲や骸は放っておいてしまっている。
とにもかくにも、生き残った魔族と人間の処置が先だ。




