第14話 人間と魔族
「もう一度繰り返す。即刻戦争を中止せよ! 前魔王は余が殺した。これからは余が新魔王としてこの場を統治する!」
再三にわたる勧告で魔族側も人間側も押し黙り、これからの趨勢を見守っている。
だが、連れていた女騎士はそれを許さなかった。
「皆、こいつに騙されるな! 世代が変われども魔王は魔王だ! また私たちの家族が皆殺しにされる! 騙されるな、魔王は悪だ! 悪に屈してはならない、戦い続けろ!」
「うるさい」
戦争を鎮圧しようとしているのに、この女騎士はそれを許さない。
俺の発した麻痺効果もそこまで長くは続かない。
また先程と同じくこの規模で殺し合いをされれば、俺の眷属の魔物たちは本当に皆殺しにされかねない。
「聞け人間! 余は前魔王の体制に疑問を持っていた! 余は血を流すことも流させることも好まん、貴様らと事を構えるつもりは毛頭ない!」
俺の麻痺効果が切れるまでに、弁舌で人間側との戦争を鎮圧しなければいけない。
麻痺が解けてきたのか、徐々に喋ることの出来る者が増え、ある人間が叫んだ。
「そっ……そんなこと言って俺たちがお前らを放っておいたら後々戦費を整えてまた俺たちの家族を殺すつもりなんだろう! 知ってるぞ! お前らは前回もそうやって俺たちの家族を皆殺しにした!」
前例があるのかよ。
全く……とんでもねぇやつが魔王になってたもんだ。
「余はそんなことは絶対にしない! 信じてくれ! これ以上魔族側にも人間側にも犠牲は出したくない! 今はただ、ただ信じてくれ!」
「黙れ魔族が!」
「俺たちが今から攻め込んだらてめぇらを全員殺せるんだよ! 家族の、父さんの仇だ!」
「そうだ、てめぇの言う事なんて聞くか、大体都合が良すぎんだよ!」
「もう貴様らの甘言には騙されねぇぞ!」
どうにか人間側を鎮圧しようとするが、長広舌を繰り返せば繰り返すほど人間側の敵意は広がり、戦争を鎮圧するには程遠い。
「はっ……どうだ、これで貴様らは全滅だ。皆の仇を一身に受け、悔悟しろ」
俺が連れている女騎士もまた同様に、悪態をつく。
仕方ない……こうはしたくはなかったが、弁舌でどうにもならないなら、他の手段を使うより他ない。
俺は連れていた女騎士の首根っこを掴み、眼前に突き出した。
「なっ……何をする! やっ……止めろ、このクズが!」
「聞けえええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺が女騎士を突き出すことで、人間側の誰にでも見えるようになった。
魔王城まで単身で乗り込んだということは、恐らくはこの女騎士は相当の実力を持つ、もしくはこの人間側の首魁にも近い人間のはずだ。
「フッ…………フェレナ様! どうして……!」
「フェレナ団長!」
女騎士を目にした人間側から、驚きと戸惑いの声が聞こえてくる。
どうやらフェレナというらしい。
「余はこの女を捕らえた! 貴様らが今すぐに戦争を中止するのならば、この女を無傷で……いや、全快させ、貴様らの下に送り届けよう。お互い犠牲はこれ以上出したくあるまい」
「皆、こんなやつの言葉に耳を貸すな! 私のことなんて気にするな! こいつらを殲滅してくれ!」
フェレナを交渉の引き合いに出したからか、人間側にも少なくない動揺が伝播し、戦争を中止するという方向に趨勢が変わったように思われる。
「皆、私はどうなってもいい! こいつらを、こいつらを殲滅してくれ! それが……それが私たちの悲願だ、宿願だ! その為に私たちは生きてきたんだろう! 頼む……私のことはもう考えるな……!」
フェレナは涙と共に訴え、人間側に戦争中止の傾向があったのにも関わらず、その全てを排斥した。
「分かった! フェレナ団長、すみません! 私たちは……私たちは、貴方の仇をも取ります!」
「フェレナ団長!」
「私たちは絶対に貴方のことを忘れません!」
もうすでにフェレナは亡くなったものとして扱っている始末だ。
始末に負えんな……。
徐々に俺の麻痺効果も切れて、既にゆっくりとではあるが、動き出している人間も魔物も魔族もいた。
仕方がない……もうこの手は通用しまい。
俺が……
俺が動く。
俺はフェレナを連れ、崖下に飛び降りた。




