第13話 王の一喝
ようやく話が本筋に入ってきました。
「離せ、クズが! 止めろ、殺すぞ! 死ね! 死ね!」
「黙れ」
持ち上げようとしたが、童子の体型では女騎士は持ち上がらなかったので、地面に押さえつける。
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!」
「口を慎め下衆女が」
女騎士は口を開くごとに軽蔑と暴言とを吐き散らす。
「お前のせいで……お前のせいで、私の……私の……」
女騎士は口を開くごとに怨嗟の思いを俺に滔々と吐き出し、 吐き出したかと思うと、彼我の実力差を悟ったのか、悔恨と悲哀の言葉を浴びせかける。
「私は! 私の両親は、お前に殺されたんだ! 貴様、貴様貴様貴様貴様殺す殺す殺す殺す! お前に、お前に私の村が焼かれなければ、今は皆幸せだった!」
そんなバカな。
まだ生まれて一時間も経ってない生まれたてほやほやだ、俺は。
小鹿なら足がぷるぷるしてるレベルだぞ。そんなこと出来るか。
「何故、何故私の村を焼いた! 私に、私に何の恨みがあってあんな!」
「俺……いや、余ではないな、それは。前魔王がやったことだろう。余は今魔王に生誕したばかりだ。余ではない」
「なっ……」
女騎士は顔面を蒼白にし、しかし言い募る。
「嘘を吐くな! 貴様ら悪魔の言葉など信じるものか! そもそも、生後すぐにここまで私を圧倒できるような魔族がいる訳ないに決まっている!」
女騎士は俺を両親の仇と思いやまない。
「ならいい。余がここで意味もなく貴様の話を聞いてやっていることに意味があると思わんのか」
「うっ……うるさい! 魔物が口を開くな! もっともぶったような言葉を吐くなこの悪魔が! 殺すなら殺せ! 母さんと父さんが死んだ私に生きる意味などない!」
はぁ……。言葉が通じてるのか、これは? 全くまともに喋れないな。
「余はお前を殺す必要などない。殺しはしない。話を聞きたいだけだ」
「なっ……何を考えているんだ、貴様は……」
目を剥き、理解できないものと言わんばかりの視線をなげかけてくる。
魔王の仕事も大変だな……。
俺は掌中から、魔法で編んだ糸を女騎士の首に巻き付け、ずるずると引っ張っていった。
「なっ……何をする、貴様! 恥を知れ、この魔物が!」
「はぁ……うるさい」
ずるずると地面に擦られながら引きずられる女騎士を尻目に、俺は戦禍に見舞われている魔王城の下を目指した。
女騎士を抱き、窓から飛び降りる。
「止めろ、止めろ! 慰み者にする気か!」
するかい。
重低音を鳴らし、女騎士を抱えたまま地面に降り立ち、戦場となっている土地を見回す。
圧倒的に魔族や魔物、魔王の配下たちが窮地に立たされているようだった。前魔王は何をやっていたんだ一体。
俺が魔族に転生したときはもう少し栄えていたはずだ。
やはり、悪は成敗される定めにあるのか。
俺は戦場を見渡せるようになるまで浮遊し、臍に力を籠める。
肺に、出来るだけ息を吸い込み――
「聞けえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
叫んだ。
絶叫は俺を音源として周りに波紋上に伝播し、俺の声を聞いた魔物や魔族、人間から亜人まで、全員痙攣し、強硬状態に陥った。
魔族も魔物も関係なく、俺の声を聞いた生き物はその場に立ちすくみ、恐怖に駆られ、麻痺し、硬直した。
魔王……とんでもない強さだ。
今までの転生の中でも常軌を逸した恐ろしさだ。
「余は前魔王を殺し、新しく魔王となった! 即刻この戦争を中止せよ! さもなくば、貴様らを、魔物人間の区別なく鏖殺する! もう一度繰り返す、即刻戦争を中止せよ!」
俺の声が伝わったのか、伝わっていないのか、人間も魔物魔族も同様に俺を見上げ、動きを止めた。まぁ、俺の叫声に麻痺効果も入っていたから動けないのだが。




