第12話 最後の転生
何度目ともしれない暗闇。
体が圧搾され、再構築される、何度味わっても慣れることのない不愉快な感覚が体を包む。
闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇。
抜け出すことの出来ない闇が永遠と続く。
転生回廊。闇を、ただ、突き進む。
恐らくは、これが俺の最後の転生だ。上位種に上位種と、上位互換を繰り返してきた転生の歴史――
その中で、魔王は恐らくは最上位種だ。これ以上の上位種は存在しないはずだ。
邪神なんて存在があるならば――そしてその邪神を斃すことが出来るのならば、俺の転生はまだ続くだろうが、少なくとも俺の知識の内ではここが最後だ。
そんな思考に絡めとられるが、思考もまた、共に闇に溶け込む。
転生の最中、闇に飲まれるこの不愉快な感覚が、嫌いだ。
何も見えない、聞こえない、匂わない、触れない、味わえない。
闇という闇が俺の躰を侵食する。
闇、闇、闇、闇、闇。
生前、日本でこんな実験があったと聞いたことがある。
人間の五感を全て遮断し、誰にも会わない部屋に閉じ込めていた場合、人間はどうなるか。
答えは簡単、正気を失う――だ。
人間は良くも悪くも刺激がなければ人としての正気を失うらしい。
もしもこんな闇に飲まれた状態が続くなら――
俺は、すぐにでも正気を失うだろう。
だか、何度もの転生で正気を失っていないのは、こんな風に――
全面闇の中空に、燦然とした光が差し込む。
そして、目覚める。
目が覚めた。
まずは状況の把握――
辺りを見回してみると、一周前の俺がいたところと同じ、荒廃した土地に枯れきった木が散在している魔王城の最上階だった。
「まだいたのか、貴様は魔王の息子か? 死ね」
「は?」
考えるのもほどほどに、人の声を捉える。
転瞬――
「はああああああああぁぁぁぁぁ!」
裂帛の気合と共に、人間が俺に急迫し、それは白兵戦の皮切りとは――
ならなかった。
俺は急迫する刀身を前に軽く腕を振り、俺の腕が刀身に触れた瞬間――
腐った。
俺のふれた刀身はぼろぼろと融解し、数瞬で原型をとどめられなくなった。
「なっ!」
歯向かってきた人間が驚き慄く。
だが、容赦はしない。
即座に人間の喉元を掴み、持ち上げる。
「俺は……いや、余は魔王だ」
「貴様っ……」
だが、持ち上げようとするが持ち上がらない。
体を見てみると、幼子のそれだった。
童子――それも男の。
男の童子として生誕した……のか。魔王にしては随分威厳がないが、まぁ仕方あるまい。人の形をして生まれただけでも感謝しよう。
俺に斬りかかって来た人間を持ち上げることが出来なかったので、地面に押さえつける。
「やっ、止めろ! 貴様っ! はなせ、クズが!」
人間は押さえつけられるも暴れ、俺の拘束を解こうとする。だが、とけるわけがない。恐らくは、俺とこの人間との間に、大きな大きな実力差があるからだ。
現状を整理する。
俺は魔王を斃した後に気を抜き、その慢心が生んだのか、即座に何者かに斬り殺された。
声は覚えている。俺の一周前に聞いた最後の声だからな。
恐らくは、その声の張本人は、今俺が押さえつけているこの女騎士だ。
ということは、俺の一周前と転生後の今にはさほど時間があいていないと考えられる。
一つ、謎が解消したな。毎回の転生で一体どれほどの時間が過ぎているのか。
答えは、転生にはさほど時間はかからない、だ。
まぁ今回だけが時間の経過なく転生出来たものかもしれないが、今更もうどちらでもいいか。
そして、周りの状況を見てみる。
元魔王に取り込まれたと思われる配下を除けば、すでに最上階に残る魔族は両手で数えることが出来るほどにまで減っていた。