第9話 都合157回目の転生
火の粉吹きすさぶ荒れた土地、肥沃と思われるのにも関わらず木や草花の類は見られず、枯れ木が散在しているような土地。鉄分を含んだような薄青色に魔王の居城が見られる見慣れた土地。
あぁ――
俺は瞬時に理解する。
戻って来た、と。
都合百五十七回目の転生をしてしまった。が、百五十六回の転生の中でも出会ったことのなかった性根の優しすぎる少女を守ることが出来たことは覚えていた。
良かった……。
俺は自分の死と引き換えに少女を守ることが出来た。ついては今回の転生であの少女との再会を果たしたい。そして、少女とゆっくりとスローライフを送りたい。
そこまで考えた俺は今の状況を咀嚼する。
「あああぁぁぁぁぁ!」
「うおおおぉぉぉぉ!」
少女のことに思考を割かれ気付かなかったが、戦争が起きていた。
ふと自分の体を見やると、それは俺が黒猫の時に殺した魔族だった。
「え……?」
喋ることすら出来る事実に少しの感慨深さを感じると同時に疑問も感じる。百五十七回目の転生にして二度目の魔族。前回は散々な結末だったが、近くで戦争が起こっている音が聞こえることからも、今回もまともな死に方は出来ない気がする。
だが――どうして俺が、殺した魔族に……。
俺は瞬時に思考を展開させる。
転生を重ねるごとに増え行く魔力。
終わらない転生。
いつまで続くのかも分からない転生。
そして今回、殺した相手への転生。
……理解した。何百年もの時を過ごし、過剰なほどに進化した脳が即座に答えを導き出す。
あぁ…………俺は、殺した相手に成り代わっているんだ、と。
それも、自分よりも強者であるものを殺すことで、死亡後その種族に成ることが出来るんだ、と。
石の時には冒険者のスキルによってぶつけられ、おそらくバッタか何かを殺したのだろう、バッタの時には跳躍からの着地で蟻を、蟻の時には振り撒いた毒により死亡したイノシシに、そして今回、ただ一度だけ殺した魔族になった。
幾度もの転生で殺した生き物の顔すら覚えていなかった。こんな簡単な推論すら頭に浮かばない程に憔悴しきっていたようだ。
ならば、もう転生の回数はほとんど残されていないのかもしれない、この魔族は一体どの程度の地位にいるのだろうか。
一度会った魔族の時は下位であったが、体内に溢れている魔力から、相当な地位の魔族であると考えられる。
そして、今所々から聞こえてくる鬨の声。恐らくは、人間だ。
全てを斟酌するに、今魔王城は人間に攻められており、その状況を打破するために俺が召喚された、と、そういうところか。
相も変わらず野卑で野蛮な魔王だ。下位の魔族であった頃は反撃の糸口すらつかめなかったが、今の俺なら多少なりとも魔王に一矢報いることが出来るだろう。が、今の俺より強者を殺しておかないと次の転生がないかもしれない。
そんな思考の中、ついに状況が変化した。どうやら俺もこの戦に参戦しなければいけない様子だ。
「おらあああああああぁぁぁぁ! 殺せぇ! 魔王を殺せえええええぇぇ!」
「俺の子供をよくもぉぉ!」
などと、魔王城を襲撃している数々の人間から怨嗟の声が魔王に投げかけられている。俺も人間側に味方して魔王を強襲しにいっては駄目なのだろうか。
俺は魔王城の上階にいるが、恐らく下の方から順繰りに魔王城が攻略されているのだろう。
ふむふむ、と魔王を助けに行くこともなく考察していた俺は、不意に
「おい! 早く助けろ!」
と、声をかけられた。その当人こそ、魔王そのものだった。




