プロローグ
話に関わってくる話の変更は変更日時と内容を記載いたします。
季節は冬。
受験生の俺、石田 晃栄は大学試験の開始に遅れていた。
気が動転して、あたりを見渡さず走っていた俺は、気付けばトラックに跳ねられていた。
世界が反転して見えた。
為すすべもなく、俺は死んだ。
意識が消失し、闇の世界に放り込まれた。
気が付けば、俺は草の上にいた。
(どこだここ……?)
声を発そうとしたが、声が出なかった。
そして何より、背が低い。低すぎる。いや、低いなんて物じゃない。低いのボキャブラリーを駆使してみる。
あたりに生えている草よりも背が低い。
あり得ない、どんなパラレルワールドだ。こんなでかい草があるなんて。
取り敢えず動こうと体を動かす。が、体は動かなかった。
(か、体が動かねぇ……!?)
くそっ! トラックに轢かれた後遺症か! どうなってやがる!
早く行かねえと浪人生になっちまう!
だが、体は意に反して動かない。
(くそ! 動け! 動けよ!)
それでも、体は動きません。
(うんとこしょ! どっこいしょ!)
まだまだ体は動きません。
諦めた。もう誰か近くに人が来たら助けて貰おう。そう、諦観と共に人を待ち続けることにした。
こうして、何も出来ないまま一ヶ月が経過した。
そこで、俺は気づいた。この世界の不可思議に、そして、今の俺の状態に。
俺は、石になって異世界に飛ばされていた。
信じられないが、それが現実だった。
この一ヶ月、様々な人間と出会った。
俺は会う人間全てに見下ろされ、また、俺は会う人間すべてを見上げた。
ある時は乳臭い小僧に小便をかけられ、ある時は登校時の手持ち無沙汰からか、相当な距離を蹴り続けられ、又あるときは謎のモンスターに糞をかけられたりもした。
だが、その全てにおいて抵抗できなかった。石だからである。石であると、気付いた。
生前俺も石ころを蹴りながら学校に登校したことがあったが、何故石の気持ちも考えず、弄ぶようなことをしてしまったんだろう。
石の立場になって、初めて自分の罪に気付く。
いや、普通は考えなくていいんだろうが。
そして、見たこともない鉄の棘のような触覚を持った蝶がいたり、それを狩りに来た人間が炎の魔法を使っていたりもした。
明らかに、異世界だった。
不遇すぎる。
俺はただ、大学試験に遅れて死んだだけなのに何故こんな異世界で石の人生を送らねばいけないのだ……。
俺は泣くことすら出来ず、十年が過ぎた。
意識が朦朧としてきた。石というのは、いつ死ぬものなのだろう。
俺はこのまま一生、景色を知覚したまま石として生きていくんだろうか。
何も出来ずにどこも動かせず、背景の一部として何億年もの時を無為に過ごすのだろうか。
頭がおかしくなりそうだった。
俺の心も荒み、言葉を発しようとする努力すらしなくなった。
異世界の人間が馬鹿みたいに喋るのを聞いて、異世界語も覚えちまったよ。
動くことが出来る。喋ることが出来る。お前ら、それがどれだけ幸せなことか分かってないだろう。
動けないってことは、こんなにも辛いんだぜ。
そうして何も進展しないまま更に50年が過ぎた。